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ウィズコロナ社会で求められる「新しい企業様式」- 大企業若手中堅1400人調査報告 -

新型コロナウイルス感染拡大を受け、職場、現場に何が起きたのか。大企業の若手中堅有志社員が集う「ONE JAPAN」では、2020年4月、現在の勤務体制や対策内容、それに伴う影響と変化を探るため緊急意識調査を実施した。調査結果から何が見えたのか。

調査は「ONE JAPAN」に参加する54社を対象にインターネット形式で実施、営業や企画、経営、開発、製造部門などで働く20~30代の非管理職を中心に1406人から回答を得た。(調査詳細はONE JAPAN HP https://onejapan.jp/ を参照)

■ 爆発的に普及した「在宅勤務」

調査では、まず新型コロナウイルスの感染拡大に伴う働き方の変化を聞いた。<「新型コロナウイルス」発生は、あなたの働き方に変化を及ぼしていますか?>との問いに、全体の96.8%が「変化を及ぼしている」と回答。さらに「変化を及ぼしている」と回答された人に<どんなことがあてはまるか>を複数回答で聞いたところ、全体の9割以上にのぼる1260人が「在宅勤務・テレワーク・リモートワークの実施」と回答した。

また、感染拡大に伴う在宅勤務制度については、全体の9割以上で制度があったと回答する中で「あったが、今回、緩和された」と回答した人が48.7%もいることや、在宅勤務制度を「今回初めて利用している」と回答した人が44.7%と、全体の4割以上を占めることもわかり、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、短期間で在宅勤務が爆発的に普及し、大企業の社員の働き方に大きな変化を及ぼしていることが浮き彫りになった。

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在宅勤務制度とは、「会社ではなく、自宅で働くことができる」制度で、もともとは、会社とは離れたところで働くという意味の「テレワーク」の概念のひとつとされている。

日本テレワーク協会によると、「テレワーク」は、1970年代に、エネルギー危機対応とマイカー通勤による大気汚染緩和を目的にアメリカで開始され、1980年代になるとPCの普及と女性の職場進出により、日本でも複数の大企業で試験的導入が始まった。その後、2000年代以降は、ノートPCの普及や家庭用高速回線の普及から、仕事を手軽に持ち運びできることから「モバイルワーク」「リモートワーク」といった概念も加わった。

在宅勤務は、育児や介護などの理由で毎日の出勤が難しい人や自宅が会社から遠い人などが、退職しなくても働き続けられるため、企業側にとっては人材の確保、労働者側にとっては仕事が続けられるという観点から、国も2016年に提唱した「働き方改革」の一環として、推進を呼びかけている。

とはいえ、在宅勤務が企業に認められるには、いくつかのハードルがあったことも事実だ。利用するには、育児や介護などの明確な理由を証明する必要があるほか、利用時には、都度ごとに事前の申請や報告が必須となったり、月の利用日数に制限が設けられていたり、入社年数の若い社員は制度を利用することができないなど、数多くの条件をクリアする必要があり、制度の運用は一部の社員にとどまっていたのが現状だった。

企業内ではワークライフバランスや働き方改革という言葉が強く叫ばれる一方、その理念や概念こそ浸透しても、なかなか実現に踏み切れなかった在宅勤務。しかし今回、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐという危機的状況へのいわば「緊急対応」によって一気に導入された形となった。

■ 一時的な「しのぎ策」か、定着の「契機」か

調査からは、在宅勤務に肯定的な声が目立った。<「在宅勤務・テレワーク・リモートワーク」制度に賛成しますか?>との問いには、全体の96.9%が賛成と回答した。その理由としては、「感染のリスクを減らせる」ことが筆頭に上がったほか、「通勤時間の削減により、仕事時間をより多く確保できる」「無駄な会議が減り、業務効率化に繋がる」「在宅で仕事することで、家族や生活により目配りできる」「子育て、介護など様々な事情を抱える社員にとって仕事との両立がしやすい」といった柔軟な働き方ができると考える意見が続いた。

また、制度の定着については、「強くのぞむ」「のぞむ」を合わせると全体の95.4%が、今回を機に一般化されることを望んでいることもわかった。

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こうした結果から、企業は今回の大規模な在宅勤務を新型コロナウイルス感染拡大防止の一時的な「しのぎ策」ととらえるのではなく、制度定着に向けた「契機」ととらえ直し、企業活動を改革する方向に舵を切るべきだと考える。

■ 在宅勤務を阻む「3つの壁」

その一方で、調査からは、在宅勤務における課題も浮き彫りになった。<「在宅勤務・テレワーク・リモートワーク」制度に課題・支障はありますか?>という問いに対して「ある」と回答した人は81.3%に上った。理由としては「Wi-Fi 環境や PC 環境、サーバー環境が整っておらず非効率」「誤解や勘違いを避けるために、コミュニケーションの負担が増える」「職場の一体感がなくなる」といった項目が上位を占めたほか、「書類に押印する必要があり上司の承認・決裁が取りにくい」「上司がテレワークをしてないからやりづらい」「取引先の理解がなく進まない」といった職場の慣例や文化、意識を課題に挙げる声も多かった。

こうした課題を「意識・ハンコ・インフラ」の3項目に整理し、在宅勤務を阻む「3つの壁」と称して考えてみたい。

まず「意識の壁」だ。調査からは「居室自体が 3 密に当てはまるにも関わらず、緊急事態宣言後も通常勤務体制を強いられており、社会的にはおかしいと思いつつも、会社方針に従いざるを得ない状況」(製造・男性 30代前半)といった声や「他社とミーティングをする際に、相手方がテレワークや遠隔会議のシステムを導入していないと、遠隔会議のメリットがわかってもらえず、「メールで会議」をすることになり、かえって時間のかかる会議になった」(製造・女性 30代後半)といった、新型コロナウイルス感染拡大という局面にあっても、なお商慣習を変えることができない現状を嘆く声が寄せられた。

次に「ハンコの壁」だ。調査には「ハンコを押すために出社しなければならない。正しくDX (デジタルトランスフォーメーション)を」(製造・男性 30代前半)「実印押印した書類でないと、各種申請を認めないのがルールで、経理の領収書承認取得、人事の登録資料承認取得のために会社に出勤している」(製造・男性 40 歳以上)といった声が寄せられた。

この問題については、この調査を含む世論の高まりがあったため、政府の規制改革推進会議でも議題に挙げられ、対面や押印が根強く残る行政手続きや民間契約を減らすための議論が始まった。法改正をにらみ、押印に代えて電子署名の利用を促進させることや、不要な本人確認の押印の廃止についても検討されていることから、可能な項目から早期に実現されることを強く望みたい。

最後は「インフラの壁」だ。調査に寄せられたのは「在宅勤務を行ったが、社内の IT ツールやインフラが整っておらず、社員全員の在宅が不可能ということが判明した」(製造・男性 20代後半)「テレワークのシステムがパンク状態。出来る仕事に大きな制限が生じている」(運輸・男性 30代後半)といった声だ。

こうした壁は、前述の「意識」や「ハンコ」とは異なり、設備投資が必要なものの、経営判断で社内のネットワーク整備や体制を強化することで、比較的容易に問題を解決することが可能と考えられ、決断をうながすためにも、あらゆる回路を駆使して、現場の切迫感を管理職層や経営層に共有することが必要だろう。

■ 「新たな企業様式」で生産性を高めるには

以上のような「3つの壁」があったことから、在宅勤務の定着に欠かせない仕事の生産性については、課題解消の必要性が裏付けられる結果となった。仕事の生産性が「とてもあがった」「あがった」と回答した人は、合わせて32.4%、「さがった」「とてもさがった」と回答した人は、合わせて30.2%、「かわらない」と回答した人は、37.4%と、すべてがほぼ同じ比率となった。

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ただ、自由記述を読み取る限りでは、生産性が下がった理由や変わらない理由に、ウイルス対策として、保育園・幼稚園や学校が臨時休校になったため、子どもが一日中家にいることが数多く挙げられていることから、調査を平常時に行った場合には、生産性は上がる方向に比率が高まる見方も考えられる。

いずれにしても、大企業の経営者にとっては、長時間労働や残業に代表される勤務時間を減らしながら、仕事の生産性を高めるということが「一丁目一番地」とされている中、今回の大規模な在宅勤務実施で洗い出された課題に向き合うことが、経営効率を向上させる鍵になると考えたい。

最後に、調査結果を受けONE JAPANでは課題の「処方箋」として取り組んでいることがある。在宅勤務に「課題・支障はある」と回答した人に<何が解決・支援されればいいと思いますか?>と聞いた問いで上位に回答された「意思疎通・コミュニケーション方法」「職場の一体感醸成」の2項目についてだ。

調査には、職場に出社しなくなったことにより、「無駄な会議や雑談の時間など減る一方で、対話がなく精神的にはしんどい。些細な質問を立ち話で済ませるといったことができなくなった」(製造・男性 30代後半)「メールだけだとニュアンスに誤解を招く可能性があり、電話をする回数が増えた。普段だったら、ちょっと声がけすれば済む」(製造・女性 30代後半)といった声が寄せられた。

こうした課題を解決する試みとして「#バーチャル食堂」と題し、昼1時間を使って、メンバーであれば自由に出入りできる場を試験的にネット上に提供し、オンライン会議のノウハウやちょっとした在宅勤務のコツなどを話し合ったりする雑談の機会を作っている。急に誰とも会わなくなったことから、不安やストレスが生じ、孤立しがちになっている単身の若手社員を中心に、相談や一体感を感じることができる場所として好評を博している。
また「職場の一体感醸成」を図るため、ネット上で「新入社員歓迎会」を行う交流イベントも主催し、250人が集まるなど、各企業への導入を目指した取り組みも行っている。

発生が報告されてから半年以上。新型コロナウイルスは、収束するまで長期化が予想されている。また仮に収束したとしても、それ以前と同等の環境には戻ることはできない不可逆の流れにあることは、誰もが感じていることであろう。

こうした中で、在宅勤務を最大限活用した「出社しない働き方」を企業活動の選択肢として定着させることが、従業員の命や生活を守るだけでなく、企業の BCP(事業継続計画)対策の観点からも、今後の必須条件になってくる。また今後は、在宅勤務における仕事の評価方法や人事考課についても、論点にのぼるはずだ。

ワークライフバランスの言葉通り、日々の仕事と、日々の生活は背中合わせだ。国が新型コロナウイルスを受けた「新たな生活様式」を提唱するのであれば、企業は「新たな企業様式」を社員とともに構築していくことが強く求められる。そのことが、新型コロナウイルスと向き合う大企業の持続可能性につながると考えている。

■ 執筆者プロフィール

ONE JAPAN副代表 神原 一光(かんばら いっこう)
1980年生まれ。早稲田大学卒業後、NHKにディレクターとして入局。ドキュメンタリーや情報・教育番組などの番組制作を担当し、現在は副部長としてプロデューサー業務を担う。2012年、局内で若手向け勉強会を立ち上げたのち、2016年12月から「ONE JAPAN」に参加。幹事を経て、2020年4月より副代表。「働き方意識調査」では全体統括を行っている。著書(共著)に『超少子化』(2016年、ポプラ新書)、『健康格差』(2017年、講談社現代新書)など。

※本記事は、月刊誌『改革者』2020年8月号に寄稿した記事をもとに、WEB用に一部加筆修正しました。

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