挑戦する文化をつくるために企業と個人ができること【ONE JAPAN CONFERENCE 2020レポート:CULTURE②】
ONE JAPANのミッションでもある「挑戦する文化をつくる」を実現するために、企業が、個人が、チームができることは何か。ONE JAPAN共同発起人・共同代表の濱松誠をモデレーターに、ナレッジワーク社長の麻野耕司さん、リクルートホールディングス取締役の瀬名波文野さん、サイバーエージェント常務執行役員CHOの曽山哲人さんに話していただいた。
【登壇者】
■ナレッジワーク 社長 麻野耕司さん
■リクルートホールディングス 取締役兼常務執行役員 瀬名波文野さん
■サイバーエージェント 常務執行役員CHO 曽山哲人さん
【モデレーター】
■ONE JAPAN 共同発起人・共同代表 濱松 誠
■上司や先輩から「君はどうしたいの?」と聞かれる
【濱松】みなさんの会社ではどのようにして挑戦する文化を醸成しているのでしょうか。
【瀬名波】リクルートは今年で創業60年、売上高2兆4000億円規模の企業に成長しているのですが、元々の始まりは学生ベンチャーなんですよね。だから最初からチャレンジする側でした。当社に限らず、現在は大企業に成長しているすべての企業が起業時はスタートアップだったはずなので、創業者をはじめ、型破りな変人たちがものすごい情熱を注いで挑戦していたはずです。
創業60年経った今、どのような過程を経て挑戦する文化が作られてきたかというよりは、その挑戦する文化をどのように維持するかということの方が圧倒的に難しいし、知恵がいると思っています。
【曽山】以前リクルートの幹部のみなさんが集まる会議に呼んでいただいたことがあるのですが、お互いが参加者の発表に対して「それは共感できない」「その意見は正しいと思う」などと、自分の意見をはっきり表明されていました。それを目の当たりにして驚くと同時に、社内に「自分の意見を表明する風土」と、「叩かれることもあるけど、同時に応援もされるという風土」が作られていると思いました。
【瀬名波】確かにリクルートでは入社してからしつこいくらい上司や先輩から「君はどうしたいの?」「どう思うの?」と聞かれるので、早い段階から自分の意見や意思を表明するくせがつきます。
それと、自分のキャリアは自分で作るという風土があり、会社と社員の関係が対等なので、会社は社員が死ぬまで面倒を見ようとは思っていないし、社員も死ぬまで面倒を見てくれるとは思っていません。会社が自分に期待することと会社で自分がやりたいこととの接地面をどう大きくしていくかが個人の手に委ねられています。そういう点も挑戦する文化を作っているのかもしれません。
■新規事業を生み出すための4つのKPI
【濱松】そういう意味ではサイバーエージェントもリクルートと似ていますよね。
【曽山】当社の事業の作り方は「人本主義」。つまり、社員自身がやりたいと思う事業をやってもらうのが一番成功確率が高いという考え方で、実際にやりたい事業をやらせています。それと、新規事業がたくさん生まれるように、「オーガニックグロースフレームワーク」というフレームワークを作りました。
そこでは具体的に4つのKPIを重視しています。1つは提案の数。そのために新規事業コンテストなどを開催しています。2つ目が決議の数。提案された新規事業を吟味して役員が実際にやる事業を決めます。3つ目は失敗の数。新規事業の半分以上は失敗するという前提があると、社員はたくさん失敗しても気にしません。4つ目が敗者復活の数。失敗した人が恥をかいたり新規事業への挑戦をやめると会社の財産になりません。基本的に失敗したとしても労うことを大事にしていますし、失敗だからと言って左遷や解雇はもちろんしません。こういうい事例が増えれば、また新規事業に挑戦したいと思えるようになります。この4つがうまく回ると新規事業が増えるのです。
■企業風土は事例によって作られる
【濱松】挑戦する文化は醸成しようと思ってもなかなかできるものではありません。それを可能にする秘訣を教えてください。
【曽山】私は人事担当として「白けのイメトレ」を実践しています。新しい制度を実施する時は必ず事前にやる習慣で、社員をイメージしながら、仮に白けるとしたらどのような反応かをイメージしようというもので、あらかじめ手を打っておけば、失敗の確率が下げられます。
また、経営者や幹部の皆さんの中では企業風土を作りたいと考える人もいると思いますが、風土というものはとらえどころがありません。私は風土は事例によって作られると思っているので、経営者や人事がやれることは事例を増やすことだし、私自身、そうしています。例えば新規事業を立ち上げている人が周りにたくさんいて、それが社内で普通のことになれば、挑戦するほうが得だと思うようになります。これが大事なんです。
だから経営者は入社1年目の新卒でもチャレンジしたいという人がいたらマネージャーや社長を任せるべき。その中に化けるやつが出るだろうと信じて早くから任せています。その結果、失敗しても「敗者復活」でフォローします。当社にはキャリアエージェントと呼ぶ社内ヘッドハンターがいます。新規事業から撤退しそうな社員がいると面談して次に何をやりたいかを聞いて、速やかに異動できるようにしています。
■複数のレイヤーの上司が社員の将来像を議論
【麻野】曽山さんと瀬名波さんに聞きたいことがあります。ONE JAPANでは創造と変革が大事だとよく言われますが、創造は決まっているものを疑うことから始まり、実行は決まったものをやりきるということなので、創造と実行は相反するものですよね。組織も個人も、創造の色合いが強くなるとどうしても実行が弱くなると言えます。僕が尊敬するのは、この2人が創造だけじゃなくて実行が強いという点です。それがなぜ可能なのでしょうか。
【曽山】リクルートの人事制度をいつもチェックしている私としては、自分の部下や幹部クラスを今の仕事でどう化けさせるかを議論する「人材開発委員会」がすごく効果が大きいのではと思いました。
【瀬名波】100%その通りです。戦略的に人を動かすために、全従業員に対して複数のレイヤーの上司がそれぞれの角度から検討します。例えば私が入社2年目の営業職だとしたら、私の部署の課長とその上の部長と隣のグループの課長が、私が既存の営業という仕事でどうすればより高いパフォーマンスを発揮できるかという話と、私の数年後の望ましい将来像について、私がいない場で議論することが制度化されているんです。
それともう1つ、創造と実行について。大前提、一定の利益を稼ぎ出す事業ってすごいと思っています。でも、その事業で頑張っている社員たちからすれば、「利益を上げていないのに、お金ばかり使って」と新規事業に対してあまりいい感情をもたない可能性はもちろんある。でも新規事業に取り組む社員の方もお気楽にやっているわけじゃなくて、次の成長の柱を作るんだという緊張感をもってヒリヒリしながら取り組んでいる。
しかし一歩引いて会社全体として見たら、カオス、つまり既存も新規も両方ある方がいいわけです。安定的に利益を出す事業を頑張りつつ、一方で新しい事業もどんどん生んでいかなければ、みんなまとめて沈んでいくしかないので。だから社内にある程度の反発があっても、新規事業にどれだけ注力できるかが大事。ある程度のカオスをずっと作り続けることが私たち経営層の役割だと思うんです。
新規事業については絶対成功するという確証はないけれど、その確率をどう上げていくかがポイントです。それがいずれはキャッシュカウ(市場成長率の低い成熟市場で高い市場シェアをとった商品)になり、その時あまった新しい事業の種をカオスの状態のままでまた育てていく。これをいかに続けるかが重要だと考えます。
■組織は安定した瞬間、死に向かう
【曽山】サイバーエージェントでも役員が集まって新規事業を提案する「あした会議」が年に1回開催されています。提案された事業は社長の藤田が点数をつけて、ビリから1位までそのランキングが晒されるという非常に緊張感のある会議なんですが、経営陣が率先垂範することで良い案が出るんです。しかもこれを毎年やるので会社が必ず変わるんです。ずっと変わり続ける習慣をまず個人でもち、そして組織でももつ。この両方が必要だと思います。
【麻野】サイバーエージェントの場合、新規事業が個人起点で始まるというのが面白いですよね。今までコンサルタントとして様々なメガベンチャーを見てきましたが、普通は総売り上げや利益、時価総額が一定以上の規模になると、小規模事業はやりたがらなくなります。でもサイバーエージェントは大小様々な新規事業を手掛けています。たとえば「マクアケ」は最初聞いた時はサイバーエージェントが手掛けるような大きなビジネスになり得るのかが分からないようにも思えましたがが、今では時価総額ベースで非常に大きくなっています。
こういうケースもあるので、組織でやると合目的的になりがちですが、そこに個人の視点を入れることによって化けるという状態を作っているのがすごいですよね。
【曽山】そうですね。大きな事業1つに全額張ってしまうと、失敗した時何も残りません。それよりも小さい事業にたくさん張って、うまくいった事業に大きく投資する方が今の時代、成功率が高いと思います。
【麻野】確かにサイバーエージェントとリクルートは事業が生まれてくるルートが多いですよね。組織と個人、両方あって混沌としているのがいいんでしょうね。
【曽山】組織は安定した瞬間、死に向かうと考えています。だからこそ、カオス状態を続けるということが重要だと思います。
■管理職に求められるのは「面白がる力」
【濱松】大企業の場合、若手がチャレンジングな意見を言っても上司は聞いてくれないという話をよく聞きます。ミドル層の意識変容についてはどう考えますか?
【瀬名波】会議の場で若手が突拍子もないことを言ったら、その場で一番えらい人がすぐに「何それ面白いじゃん」とか「もっと教えてよ」と言ってほしい。そうすると、若手はどんなことを言ってもいいんだという安心感をもち、どんどん発言するようになります。だから管理職にはどんな意見でも面白がる力が求められていると思います。
もちろん、その中の十中八九は実にならない意見かもしれないですが、一かニはその後会社に利益をもたらす事業につながる可能性があります。その一かニを若手が言えるようにするにはそれ以外の八、九を聞かなければいけないので、我慢して聞いてほしいし、社内にそういう文化が根付いてほしいですね。
■未経験のことは、自分の頭だけで考えない
【濱松】最後に若手に向けてのメッセージをお願いします。
【麻野】「あなたの挑戦は必ず成功する」。僕は凡人ですが一歩踏み出すことはできました。なので、どんな人でも新しい事業を立ち上げて形にすることはできます。
ポイントは未経験のことをやるので、自分の頭だけで考えないこと。僕の場合は、前職で「モチベーション クラウド」(組織改善クラウド)を立ち上げようとした時に、社内に新規事業の立ち上げ方を教えてくれる人はいなかったので、最も敬愛しているセールスフォース・ドットコム創業者のマーク・ベニオフが書いた『クラウド誕生』(ダイヤモンド社)を何十回も繰り返し読みました。書いてある通りに実行したし、悩んだり壁にぶち当たった時は「マークだったらどうするかな」と必ず考えました。その思考で突破できて成功できたのでお勧めです。
【曽山】「強みを活かそう」。一番大事なのは、自分が大事にしている価値観を大事にするということです。例えばスピードが大事だと思っていればスピードで突き抜ければいい。他の人に合わせるんじゃなくて自分が大事だと思う価値観で突き抜ければ笑顔になれます。
【瀬名波】「GO CHANGE!」。若手だからって四の五の言わずに変えていこうってことですね。失敗も含めて踏んだ場数がその人のキャリアを作るので、場数が多い方がいいに決まっています。だからこれがやりたいと思ったらすぐやりましょう。
【濱松】今日の3人のディスカッションがONE JAPANのメンバーやそれ以外の若手会社員の挑戦を後押しすることを願っています。
構成:山下 久猛
デザイン: McCANN MILLENNIALS
撮影:伊藤 淳、ILY, inc
グラレコ:山内 健