大企業をハックする「技」公開相談会 〜ONE JAPAN書籍発刊記念〜【ONE JAPAN CONFERENCE 2021 公式レポート:PEOPLE①】
自分らしく働くために、大企業をどう動かせばいいか。若手の悩みを、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授とともに技ホルダーのONE JAPANメンバーが解決するセッションを実施した。
【登壇者】(敬称略)
・ 伊藤康浩 / 日本郵便株式会社
・ 寺﨑夕夏 / 東京海上ホールディングス株式会社
・ 遠山梢 / 東洋製罐グループ
・ 額田純嗣 / 三越伊勢丹ホールディングス
・ 松葉明日華 / 日本電気株式会社
・ 入山章栄 / 早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール 教授
・ 吉田将英(モデレーター) / 株式会社電通 電通ビジネスデザインスクエア / 電通若者研究部
「隣の芝生が青く見えるとき」に使える技
【入山】僕、最近イライラしたことがありまして。大企業の人と話していて「話がつまらない!」ということがよくあるのですが、先日もパワポに書かれていることを読み上げるだけのミーティングに参加してイライラしたんです。大企業の人とスタートアップの人を比べると、力の差が歴然としているのはここ、プレゼン力です。大企業の人は誰もがその人の話を聞いてくれるので、説明に必死さが足りない。一方でスタートアップでは誰もその会社について知らないから、1分で伝えないと素通りされてしまいます。いわゆるエレベーターピッチで力が養われるんです。
プレゼンで大事なのは、「聞いてもらう」ことです。そのために必要なのはパッション。このセッションもパワポを見て話すのではなく、パッションで聞いてもらうことにするのはどうでしょう。
【吉田】実際、この先のパワポには、大企業の5年目までの若手社員から事前に聞いた 4つの「お悩み相談」の問いがあるだけで回答は書かれていません。この先は5人の技ホルダーたちに、この場でパッションによって解決していただきたいと思います。まずは以下のお悩みです。
大学の同窓会で開いた他社の話が羨ましくて
つい自分の働く環境と比べて、少し悲しくなったりします。
好きで入った会社とはいえ、いつでもずっと
その気持ちでいられるわけではないと思うのですが、
「現環境の素敵なところ」を見つめ直す技を教えて欲しいです。
(20年 1社目 大企業)
【寺﨑】私が思うに、「自分の彼を自慢する女性の彼は、たいていろくでもない男性」であるのと同じで、他社が本当に素敵かどうかは分かりませんよね(笑)こういう時こそ、心から信頼できる人に聞きにいくことが大事。現環境の素敵なところを拾い集めて、自分自身が感じる素敵じゃないところの横に並べたら、あらためて「自分の彼」の好きなところが見えてくるように思います。
【伊藤】ナイスな例えですね。私自身は、今でも隣の芝生がめちゃくちゃ青く見えることがあります。これは仕方がないかなと。そういったときは、隣の芝生は本当に青いのか見にいくのが役立ちます。私がやるのは、お酒を飲まずにそれぞれの会社の課題について話をしてみること。同窓会のようなお酒の場では出てこない前向きで建設的な話が出てきます。
【松葉】大学の同窓生から見た相談者さんの会社にも、羨ましく見えていることがあると思うんです。その他人の目に映る会社の姿を聞くと、新たな発見がありそうです。
【吉田】「自社を相対化する」という技ですね。入山先生のご意見はいかがでしょうか。
【入山】そもそも「環境」と言っている時点でダメ。この「現環境の〜」が大企業病なんですよ。やりたいことを実現するために使い倒すのが会社。「環境」と捉えるのは、メンバーシップ雇用の典型的な発想なんですよね。トップの気分次第で首を切られるようなブラック企業でも、そのトップのビジョンに共感していてその人自身がやりたいことをやれているなら納得して働ける。僕の感覚で言うと、「環境なんてどうでもよくない?やりたいことやれるところに行こうよ」ですね。
【吉田】環境は目的ではなく手段だということですね。では次の相談です。
「職制を通じて発言せよ」とよく言われます。
要するに、他部署とやり取りする時は上を通さないと
混乱を招くから段取りを踏め、
という意味のようですが、意味不明です。
波風を立て過ぎずに、厄介な上長を回避して
横のつながりを社内で作る裏技を知りたいです。
(18卒 1社目 公的機関)
厄介な上司の「上を通せ!」を回避して横の繋がりをつくる技
【額田】中間管理職を廃して社長とそれ以外にするとどうなるかを考えてみましょう。自分の言いたいことは言える組織にはなりますが、それが良い組織なのかなと。身近な上長すら突破できないのなら、さらに先、どこかの時点で止まってしまうのではないかと考えます。
【遠山】たしかに、「混乱を招くから」という言葉から察すると、上長の目には他部署、社外の人々に混乱を招いている可能性がありますね。
【松葉】ただ、仕事に直結しない部分で厄介な上長を回避して横のつながりをつくるという話であれば、ナナメ上の上長を通して突破するやり方はありますね。
【伊藤】そもそも、上長との仲が悪い可能性もありますよね。
【入山】上長との信頼関係は重要ですよね。あとはSlack使えば一発で解決!いまだにメールでやっているところが多いんでしょうね。あとは、「混乱を招く」「波風を立てずに」と言っていますが、波風が立たないのが大企業の悪いところなんですよ。波風が立たない企業にはイノベーションは起きません。波風立てていろいろと言われて嫌になるようなら辞めればいい。ここで考えなければいけないのは「どうやったら波風を立てられるか」なんですよ。変化するときには混乱するものなんです。「1日1波風」を目標にするくらいでないと。
【吉田】みなさん、波風を立てていきましょう、というところで次の相談に移りましょう。
どうしても同期や同僚に競争意識を持ってしまいます。張り合ったり敵のように見えてしまい、知見や資産をシェアしたくないと思ってしまい、結果として一匹狼キャラになってしまいました。この性格の自分でもできるオープンマインドな同僚との関わり方の技を教えてください。
(19卒 1年目 ベンチャー企業)
一匹狼ながら同期や同僚と敵対することなく関係を構築する技
【寺﨑】すごくいいマインドだと思います。このまま貫いて欲しいですね。加えていうなら敵対したくなる人ではなく、協力したい、学びたいと思うような人と関係をつくっていくのはどうでしょうか。
【遠山】同期や同僚という狭い範囲から、もっと広げてどんどん突き進んで欲しいですね。
【松葉】私も同感で、付き合う5人を一新してみるのはどうでしょう。尊敬する先輩、話していると学びがある同期など。
【額田】技で言うと「聞く量を増やす」といいように思いますね。
【入山】みなさんの話を興味深く聞いていたのですが、この相談者さんに対する回答は結局「何のために働いているのか」に尽きるのかなと。会社のことなんてどうでもよくて、自分が給料をもらって楽しく過ごすためだけに働いている、というのであれば相談者はこのまま突き進めばいいと思うんです。ただ、会社からみると最悪な社員。これは、日本の企業の課題でもあります。
日本の企業の多くは、組織が大きくなればなるほど情報を共有しなくなるんですよね。
たとえば中国のファーウェイという企業では、各々の知見や情報をシェアすることで評価が上がるようになっています。「情報共有が大事」だといった価値観を企業文化として社員一人ひとりにすり込んでいるんです。一方で日本企業は戦略的に企業文化をつくらない。会社のためには、知見をシェアすることが大事だと考え行動する社員をつくった方がいいのですが。
【吉田】個人の考え方と企業文化の問題がありますが、相談者さんにとっては、あらためて何のために働いているのか考えると次の一手が見えてくるかもしれませんね。では次の相談です。
自社は社内上申にものすごい時間と手間をかける社風のようで
気づいたら他社に先行されていることがよくあります。
上司や意思決定方法に問題がある部分も正直大きいと思いますが
「自分自身ができること」がもしあれば、技を知りたいと思います。
(15卒 2社目 大企業)
意思決定が遅い会社で使える技
【伊藤】意思決定する人の右腕、つまりキーパーソンをがっちりつかまえることが大事ですよね。大企業では往々にして何を言うかより誰が言うかが重要なことがあります。会議で物事を決める際、例えばその場にいる経営企画の人が横で「それ、いいね」と合いの手を入れるとそれを聞いた意思決定者も「いいね」と感じてスムーズに進むことがあります。
【寺﨑】よくあることですよね。私の場合はよそにやられた後が勝負だと思っています。なぜやられたのか理由を明らかにして、スピードが問題ならその問題点をしっかり意思決定者に伝えにいく。「意思決定が遅くてやられちゃったな」で終わらせることなく、なぜ時間がかかっているのか、どこに時間がかかっているのか紐解いてみるとまた別のものが見えてきて、解決していくたびに自分の強みになると考えています。
【入山】みなさんがおっしゃっていることと同じですが、「上と握る」ことが重要だと思います。意思決定者と握っていれば、すぐに物事は動きます。ただこの際、気をつけなければいけないのが、間にいる人のプライドを傷つけないようにすること。中間層の顔を立てた稟議の上げ方をするなど気を配る必要があります。
会社には、社内のいろいろな人と仲が良くリスペクトされているけれど、ラインからは外れていて少し浮いている「根回しおじさん」がいるでしょう。そういった人と仲良くなり、そこから根回しして上げると話が早い。
実はこういう問題は、企業がITツールを入れると一発で解決することが多いんですよ。今回の問題ならkickflow(キックフロー)を導入すれば一発で解決します。先ほどいったslackとkickflow、あとは勤怠管理システム「ジョブカン」を導入した会社なら「意思決定が遅い」という問題は出てこないんじゃないかな。企業側が考えることですが。
【吉田】せっかくなのでセッション参加者の方から相談をお受けしましょう。「同期30人のうち、明確な危機意識を持った人が3人ほどしかいません。3割程度まで増やすとより議論が活発になるように思いますが、どうやって増やしたらいでしょうか」とのことです。
【遠山】3人いらっしゃるなら、3人で議論を始めらたらいいかなと。
【入山】同感です。仲間を集めず自分1人でもやっちゃえばいい。とはいえ、仲間を増やすおすすめの方法をお伝えすると「この会社はこのままいくと10年後確実に潰れます」という動画をつくることです。この先のマーケットはこのようにシュリンクしていきますよ、とグラフで見せる。そうすると危機意識が芽生えますよね。
【吉田】現場の状況を知ることで危機意識を持つ人は自然と増えていくということですね。最後に『大企業ハック大全』を読んでの入山先生の感想をお聞かせください。
【入山】この本の中に出てくることを議論のネタにするのはおもしろそうですね。本ではみなさん実名で書かれているので、会社に対する遠慮が少なからずあるでしょう。ただ、大企業で起きているもっとエグいことまで切り込んで考えるには、とっかかりがないと難しい。この本を入り口にするのがいいのではないかと思います。
企業にとって一番いいのは、社員が会社にしがみつくことなく、この会社にいてやっている、何ならいつでも辞めますよ、別のところに行きますよ、というスタンスでいることです。会社のビジョンに共感しているからこの会社で働いている、という人が増えると、日本の企業に次々とイノベーション起きるでしょう。大企業にはそういったポテンシャルの高い人がたくさんいます。みなさん、全開で波風立てていきましょう!
【吉田】1日1波風ですね!みなさんありがとうございました。
構成:中原 美絵子
編集:福井 崇博、岩田 健太
デザイン: McCANN MILLENNIALS
グラレコ:石川 愛
■ONE JAPANからのお知らせ
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