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管理職に求められるものとは─新世代リーダーへの条件─(前編)【ONE JAPAN CONFERENCE 2020レポート:PEOPLE④】

ビジネスのあり方が激変する中で、管理職に求められる能力も変わってきている。Business Insider Japan統括編集長の浜田敬子さんをモデレーターに、経営共創基盤共同経営者の木村尚敬さん、立教大学経営学部助教の田中聡さん、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之さんが新世代リーダーの条件を話していただいた。前編では、ポストコロナで変革を求められる一方で、管理職が置かれている現状、周りの環境について議論が展開されました。

【登壇者】
■経営共創基盤 共同経営者 マネージングディレクター 木村尚敬さん
■立教大学経営学部 助教 田中聡さん
■東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 柳川範之さん

【モデレーター】
●Business Insider Japan 統括編集長 浜田敬子さん

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■ポストコロナで管理職に求められる3つの能力

【浜田】ポストコロナの時代において管理職の仕事内容はどのように変容していくのか、それによって管理職に新たにどのような能力が必要になるのでしょうか。

【柳川】このコロナによって管理職に新たに求められる能力は大きく3つあります。1つはリモートワークの拡大によって、自分の部下にどう働いてもらうかというマネジメントの仕方が今までとは全く変わってしまったこと。これは本来はリモートワーク以前から起きていることなのですが、管理職は、部下が決められた仕事をきっちりやっているかを管理するだけではなくて、自分が統括する部や課の部下全員をやる気にさせる能力が必要でした。その能力と役割はリモートワークが拡大すればするほど重要視され、要求度も上がっています。

2つ目は部下の育成。今までは指示命令されたことをきっちりこなせる人材を育てればよかったのですが、これからはイノベーティブな事業を考えられる人材を育てるという方向に変わるでしょう。

3つ目は会社が変わり、新しい方向に動き出さなければいけないということ。これは最終的には経営トップが決めるべきことですが、当然ながらトップだけでは組織は動きません。組織を動かすのは管理職で、彼らが「自分なら会社をどのように変えて、新たにどの方向にもっていかなきゃいけないのか」というビジョンをもって行動することが必要です。それぞれの管理職がそのビジョンをしっかりもつこと、そしてそれを上司や部下に伝えることが、今改めて必要とされている能力だと思います。

■会社からの支援が必要な苦しい立場にある

【田中】基本的に管理職に求められることは今も昔も変わらず、パフォーマンスとメンテナンスです。パフォーマンスとは、部門の業績を管理することで、メンテナンスはそのために多様なメンバーをマネジメントすることです。

しかし、管理職は組織の中間点にいるので、この2つに加えてダイバーシティや働き方改革、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などあらゆる組織の問題が、すべて管理職にしわ寄せが来てしまっています。

さらに経営層からは、新規事業や新しい価値を作ってくれとオーダーされたり、現有の戦力の中で、多様な部下の強みを引き出して、なるべく早く革新的な成果を、しかもリモートで出してくれと命じられています。基本的にどこの企業も人材不足なので、実力不足だからといって簡単に人材を入れ替えられないからです。

しかも管理職が受けている教育機会といえば、せいぜい初任管理職研修程度のものです。管理職には、学ぶ機会も、学び直す機会もほとんど与えられていないのが現状です。つまり、管理職に要求される役割のレベルが高すぎることと、その役割レベルの高さに対して、彼らがもっているリソースがあまりにも少なすぎること。この2つのアンバランスが「管理職ダメダメ論」を生んでいると感じています。

さらに、人間、苦しい時に苦しいと言えれば苦しみの実感値は軽減されます。しかし管理職の場合はこれほど苦しい立場に置かれているにも関わらず、昇進などキャリア上の問題が紐付いているので、弱音や愚痴、不満を吐いたり、組織に対して改善提案をすることがなかなかできません。

しかし、だったら「会社を辞めて別の会社に転職すればいい」という話にはそう簡単にはなりません。転職もかなりのリスクがあるし、エネルギーを要するからです。また、仮に転職したくても、自社以外の外の世界で通用するスキルや能力があるという自信がないから踏み切れないということもあるでしょう。

ですので、もちろんこれからの時代、管理職はどう変わるべきかという論点も重要なのですが、その前にまず「管理職がこのような厳しい立場に置かれている」という現状を全社員が認識して共感するべきだと思うんです。そうしないと議論がずっと平行線を辿るのではないでしょうか。まず必要なのは会社からの支援です。

■真っ先に議論すべきは「何をやらないか」

【浜田】田中さんのそのお話にはすごく共感します。私自身も管理職を長くやってきましたが、全部こなすのは無理だと思わざるをえないほどの膨大な仕事量を抱えてきました。例えば編集長とは事業部長も兼ねているので、稼ぐこととコンテンツを作ることの両方を考えなくてはなりません。さらに多様な社員が増えたのでそれぞれに合わせてのマネジメントも必要です。そんな中、多くの会社でもコロナでメンタルや体調に不調を訴える若い社員が増えていますが、リモートなのでケアをするのが難しいという声も聞きます。その結果、管理職はあまりにも大変そうに見えるので、なりたがらない若手が増えている。これも問題だと思います。そんな管理職へは会社としてどのような支援をするべきなのでしょうか。

【田中】おっしゃる通り、管理職がみんなにとって目指したいと思われる職業になっておらず、誰も管理職になろうとしないのが現実です。これでは会社は早晩立ち行かなくなるので、会社としては管理職は楽しくて、魅力的で意義がある仕事だということを背中で示せるような管理職を生み出すことが急務でしょう。

そもそも、管理職が苦しい状況に追い込まれているのは、管理職というジョブが固まっておらず、「なんでも屋」になってしまっているからです。だからポストコロナ時代を見据えて、まずは、管理職は何でも屋ではないということを認識することが重要です。そして、経営トップはじめ全員が管理職に本当に必要なことは何か、管理職はどうあるべきかを考える。その時、そもそも管理職として「何をやらないか」を議論する必要があるのではないでしょうか。

誤解を恐れずに敢えて言うと、管理職がやらなくてもいい仕事の1つは新規事業だと思います。そもそも会社の未来を作る新規事業は管理職の仕事ではなく、「経営層」自らが考えなければならない経営の最優先事項です。だから、新規事業は経営層がしっかり担う。それを疎かにして管理職に丸投げしていることが管理職の負担感を一層高めています。新規事業をやりたい管理職は、自ら経営層に直談判して仕事を奪いに行けば良い。本来、上から与えられてやる仕事ではないはずです。

一方、管理職は人を育てることこそが最大の任務なので、最もやらなければならないタスクはメンテナンス、つまり部下の育成です。ただ、このメンテナンスも管理職に丸投げするのではなく、人事部など様々な専門スキルを有している人が協力してケアするべきでしょう。

それと、日本企業の場合はキャリアとして管理職のポストが一つの専門領域を追求するプロフェッショナル職よりも待遇面で高い位置に置かれています。ゆえに、いまだに多くの会社員が管理職になることがキャリア上の一つのゴールであるという感覚をもっています。だから会社としてもその価値観を一度見直して、管理職になることがキャリアのゴールではないということをキャリアパスとしてきちんと示すことが重要だと考えます。

■人事部が最大の抵抗勢力に

【浜田】それは人事制度そのものを見直すということですよね。特に大企業は年功序列で、ある年齢に達すると、上司に「そろそろ君もなってもいいんじゃないか」と言われて順番に管理職になるケースが多い。これを変えるべきだと。

【田中】そうです。それに日本企業の場合、給与体系の問題で、いわゆるプロフェッショナル型の人事制度と両立させようとしてもうまくいきません。

【浜田】確かにそうですね。管理職のタスクが激増しているということも、現在の人事制度が背景にあると言えます。働き方改革で残業規制が厳しくなったことで、裁量労働制の管理職が仕事を全部受けてしまって、より長時間労働になっているという実態もあります。

【木村】確かに人事制度を変える必要はあります。そもそも会社を変えるためにまずやるべきは、組織の中に多様性と流動性を注入すること。そのために一番インパクトが大きくてすぐできるのが人事です。

しかしその時、最大の抵抗勢力になるのは実は人事部なんです。なぜなら前例踏襲主義が強いから。例えば、外部から執行役員レベルを採用するなど、純血プロパー主義の終身雇用モデルを崩すことを最初にやるべきなのですが、前例がないからと反対します。また、30代の部長を作ろうと提案しても「このタイミングでは無理」とか、AI研究の世界的権威のような優秀な新卒を採用するために初年度の年収を5000万にしようと提案しても「当社の給与テーブルに乗らないのでできません」と反対に回ることが多いです。

【田中】全く同感です。一部の業界では、いまだにほとんどの人事部が新卒入社以来、人事畑しか経験していないことも理由の一つだと思います。

人事制度を変えるためには、人事部のメンタリティを変えなければなりません。そのためには、人事部を他の会社に出向させることだけではなくて、社内でのジョブローテーションで例えば営業部とか企画開発部などの事業部の現場を経験、理解させることが必要でしょう。

あとは、経営層が管理職の声をきちんと聞くことも重要です。ところがこれができていない。最近社内における1on1ミーティングの調査を行っているのですが、その結果を見ると、確かにメンバー層、特に新入社員クラスと直属のマネージャー、チームリーダークラスの1on1は頻繁に行われています。しかし、経営層と管理職の1on1は一応実施しているという体にはなっているんですが、ほとんどできていません。

自分が悩んでいることや、経営判断に戸惑いを感じているということも含めた個人の思いを、立場を超えて周りに発信すると、部下や上司との信頼関係が生まれます。よって、会社としては声を挙げやすい社風や制度を作ることが管理職への最大の支援となります。

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後編に続く

構成:山下 猛久
デザイン: McCANN MILLENNIALS
グラレコ:本園 大介

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