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大企業で新規事業を立ち上げる【ONE JAPAN CONFERENCE 2020 VALUE④】

社内起業家には会社という枠組みの中で事業を立ち上げるがゆえの制約や人間関係など、さまざまな壁が立ちはだかる。大企業で新規事業を立ち上げ、成果を挙げている人はどう動いたのか。大企業で40社4,000チームの社内起業家を支援してきたアルファドライブ社長の麻生要一さんをモデレーターに、森永製薬、東芝、サントリーの社内起業家に新規事業立ち上げを実現するためのポイントをお話いただいた。

【登壇者】
■SEE THE SUN 代表取締役社長 金丸美樹さん
■コエステ株式会社 執行役員 金子祐紀さん
■サントリービバレッジソリューション株式会社 / 合同会社新 CEO 森 新さん

【モデレーター】
■株式会社アルファドライブ 代表取締役社長兼CEO 麻生要一さん

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■1人でやるよりも大企業のリソースを使った方が早い

【麻生】企業内新規事業開発は未来を作る仕事なので最高に楽しくてやりがいがあるという側面もありながら、ものすごく大変でつらい側面もあります。みなさんに、新規事業を立ち上げた経緯と、新規事業の概要、現在に至るまでに経験した大変だったこと、苦労についてお聞かせください。

【金丸】新卒で森永製菓に入社後、商品計画、プロダクトマネージャー、マーケッター、広告などを経験した後、新規事業担当へ異動となりました。インバウンドがテーマでなんと私1人でした。これまでの仕事と違い、何をどうするのかという具体的な指示なければ、期待値も漠然としていて、全ては自分次第という世界は、文字で書くと楽しそうですが、やってみると思った以上にしんどかったです。でもまずはとにかく動いてみようとあれこれ動きながら、大変な思いもしながら、1つのプロジェクトを終えるころにはチャレンジすることが楽しくなってきました。その後、たくさんのスタートアップやメンターの方々にマインドセットや事業創造について教えていただき、2017年にコーポレートベンチャー「SEE THE SUN」を起業しました。コーポレートベンチャーという形を取った理由は、自分のやりたいことをやるには起業して1人でゼロからやるよりも大企業のリソースを使った方が効率的で早いからです。

大企業の中で新規事業をやろうとすると、いろんな偉い人の顔がちらついて意思決定に時間がかかります。しかし、コーポレートベンチャーという形で独立すると、「この事業が社会にとってどうか」ということだけを自分で考えてすぐ意思決定ができます。そのトレーニングができたことがよかったです。また、自分が課題だと思ってることは人に伝得る機会も多いですし、課題感に共通点があれば異業界の人でも共感してチームアップして一緒にやろうとなる、オープンイノベーションのきっかけになりました。

SEE THE SUNを立ち上げてからは食品を販売したり、フードバリューチェーンイノベーションと銘打って、作る人から食べる人まで新しい食の価値を生み出す共創プラットフォームを作り始めました。競合同士の様々な食関係の会社と日本の未来のために手を取り合って課題解決に取り組んでいます。昨年まではフードの販売をしていたのですが、実際にやってみると全然思い通りに行かないことばかりでした。さらにモノ売りはここからスケールするためには体力がいるので大企業に戻した方がいいと判断し、森永製菓に移管しました。ここが苦しかったところですね。


■「こんな売り上げじゃ会社を歩けない」


【麻生】世の中に新商品を出したけど売れないってすべての新規事業が味わう苦労ですよね。その時、起業家は自分の問題だから自分が頑張ればいいけれど、企業内起業家は会社に必ず成功すると約束して社内のいろいろな人を説得して商品を出したわけだから、それが失敗したら精神的にキツイものがありますよね。会社からはもうやめろと言われるし、どうしてくれるんだと非難されると苦しい。

【金丸】私はやりたくてやったので、自分自身が苦しいのは全然いいんです。でも巻き込んじゃった部下に「こんな売り上げじゃ会社を歩けない」と言われた時、本当に申し訳ないと思いました。

【麻生】どうやって立て直したのですか?

【金丸】売り上げ金額よりも、起業家として「100億を101億にするよりも、ゼロからイチを作る方がすごい!」と自分も部下も鼓舞するしかなかったです。

そして今年度からは、大手企業が中心となってエコシステムを作ろうと、食の共創コミュニティ「FOOD UP ISLAND」を立ち上げました。コト売りにシフトして、食品に限った新規事業開発やオープンイノベーションのお手伝い、コミュニティの運営などを行っています。


■ローリスク・ローリターン・ハイインパクト


【森】私はサントリーで新規事業をやってみたい!そんな想いで入社しました。これまで社内起業を2つ経験し、これから追加で3つ準備していて、計5つの新規事業を担当しています。大企業で新規事業にチャレンジする理由は、「ローリスク・ローリターン・ハイインパクト」に尽きます。

私のミッションは、自動販売機事業をV字回復させることです。その1つの手段として、自販機に新しい付加価値をつけ新しいサービスや新規事業を提供することでこれを実現しようとしています。最初に挑戦したのは、ランチ難民を救済するための、お弁当を注文できる自販機でした。

現在の事業のフェーズとしてはJカーブのボトムのところは抜けたのですが、その後なかなか上昇曲線をたどれなくて足踏みしている状態です。その理由は物流にあります。弁当の物流をビジネスとしてマッチングするのは難しいんですね。でも食のニーズはオフィスの中に必ずあるので、今後は弁当以外の事業にシフトして一気にスケールさせようと調整中です。


■足りなかったエンタメはJVで解決


【金子】今年の2月に「コエステ」という会社を作って執行役員として東芝から出向中です。「コエステ」とは、「コエステーション」の略で、音声合成技術を使った声の新しいプラットフォームです。音声合成とはテキストを音声に変換して人工的にいろんなことを喋らせる技術。いくつかの文章を読むと、AIがその人の声の特徴を学習して声の元(コエ)を作ります。あとは音声合成のエンジンにセットしてテキストを入れるだけで、誰でもその人の声でいろんなことを喋らせることができます。【金子】今年の2月に「コエステ」という会社を作って執行役員として東芝から出向中です。「コエステ」とは、「コエステーション」の略で、音声合成技術を使った声の新しいプラットフォームです。音声合成とはテキストを音声に変換して人工的にいろんなことを喋らせる技術。いくつかの文章を読むと、AIがその人の声の特徴を学習して声の元(コエ)を作ります。あとは音声合成のエンジンにセットしてテキストを入れるだけで、誰でもその人の声でいろんなことを喋らせることができます。

ビジネスモデルとしては、一般人から有名人まで様々な人の声を集めて、企業に提供して利用料をいただきます。用途は、例えばカーナビ、スマートスピーカー、オーディオブック、ニュースアプリ、ゲーム、VR、番組制作、店内放送、駅のアナウンス、コールセンターなど、多岐にわたります。

東芝は高い技術力を有しているので、このようなサービスを開発すること自体は比較的簡単なのですが、このビジネスモデルをスケールさせるために足りなかったのがエンタメの強みと芸能界のコネクションです。ですので、その両方を持つエイベックスと組んでジョイント・ベンチャーとしてコエステを起業したというわけです。


■大反対からのゴリ押しで許可をもらう


【金子】顧客への売り込みも戦略的に行いました。最初圧倒的に人的リソースが足りていなかったので、僕自身が事業立ち上げを推進しながら飛び込み営業をガンガンやるなんてことは不可能でした。ですので、お客さんの方から問い合わせをもらう形にするしかなかった。

それともう1つ、新規事業をやろうとすると、社内の上の方から「いきなり本番のサービスを作っても本当にニーズがあるのか、売れるのか」と言う人が絶対に出てきます。その反対勢力を抑えるために、本ローンチの1年以上前に「デモレベルのβ版できました」というプレスリリースを打ったんです。そうすれば絶対メディアで取り上げられて、興味のある会社から問い合わせもたくさん来るから、それで反対勢力を黙らせようと。

実際にやってみたら思惑通りで、メディアが注目してくれて、コエステを紹介する記事や番組が世の中に発信されて、それを見た人からガンガン問い合わせが来たんです。1年後の本ローンチの時は100社以上からすでに引き合いがきている状況を作れました。

この時大変だったのは、広報を説得することです。本ローンチの1年以上も前にβ版を出すなんて、本来、東芝のルールではNGです。当然広報からはかなり反対されたんですが、そこを土下座する勢いで頼み込んでゴリ押ししてプレスリリースを出させてもらったんです。

【麻生】この話の流れで社内政治というテーマに入りたいと思います。今の金子さんの話はすごくて、僕の知っている多くのあらゆる大企業はそんなことは絶対に許可してくれません。広報はもちろんリスクマネジメントの部署が出てきて「そんなプレスリリースは出すな」と大反対するでしょう。そこを具体的にはどうやって攻略したのですか?

【金子】そもそも大企業は背負っているものの重みが違うからしょうがないと思います。僕の新規事業が成功したってたかだか数億レベルの利益でしょうが、もし僕がβ版を出したせいで企業としての信用を失ったら数百億、数千億という大打撃を被るリスクがあります。だから彼らが大反対する姿勢は正しい。僕としてもそれを十分理解した上で、無理矢理通そうとするので、より一層誠心誠意を込めて、申し訳ないけどこれだけ通させてくださいと平身低頭お願いしました。それだけではなかなか難しいので、「もし完成版をローンチできなかったとしても、そんなことはみんな覚えてない。こういうケースで大問題になることは99.9%ない。だから何とかお願いします」と説得したんです。広報やPR担当の中にも、次第に賛同してくれる人が増えて、どうにか押し切ることができました。


■外部の有力者から上層部にアプローチ


【麻生】森さんは社内の反対勢力を説き伏せるためにどんなことをしたんですか?

【森】私もいろいろ言われましたが、現場で一番頑張っているエース、キーマンの声を集めて、顔写真付きで経営陣に見てもらいました。これはかなり有効でしたね。じゃあ「実証実験してみろ」となって、次もお客様が喜んでいる写真などを添えて報告に行くと、「リスクはあるけどやった方がいいんじゃないか」という流れになったんです。

【金子】もう1つ、外側からの作戦ですが、2017年に会社に許可をもらって、経産省主催の「始動Next Innovator2017」というグローバル起業家等育成プログラムに参加したんです。このプログラムは、選考の最終メンバーに残ると、最終報告会のようなパーティーに参加できるのですが、会社の人も何人か呼べるんです。このプログラムに参加する時、事業計画のブラッシュアップ以上にそれを目標にしていました。頑張った結果、最終メンバーに残れてそのパーティーに参加できることになり、東芝デジタルソリューションズの社長と事業部長にも来ていただきました。会場で経産省のお偉方を紹介した時「御社のコエステ事業素晴らしいですね、応援しています」と言ってもらえたんです。経産省のお偉方にそこまで言われたら、そう簡単にこの新規事業は潰せなくなるだろうというのを狙っていたのですが、まさにその通りになって新規事業を立ち上げることができました。


■役員に諦めてもらうことをゴールに


【麻生】すごい戦略と実行力ですね。金丸さんはいかがですか?

【金丸】私も10年ほど新規事業を手掛けていますが、最初の頃は品質保証や広報などいろんな部署で新しいもの好きの人を見つけて、相談することで仲間なってもらっていました。特に昔、チャレンジングな開発していた方は、実は新しいことが好きな方も多いので、その時の思い出を掘り起こしたりなんかしながら相談をすると応援してくれるんです。

それでもダメな時があって、さすがに心が折れかけて、「もう辞めたいなー」と思ったこともあります。外部の新規事業をやっていたり、支援している友人にこぼしたら、「そんなことはどこの会社に行っても同じ。今の親会社に、1人でも応援者がいるなら、その人が折れるまでがんばってみたら?」って言われ、スーーーと吹っ切れました。続けるためなら何でもやってやるという気持ちで、共感を得たいとか承認されたいという気持ちを一旦忘れ、「とにかくリスクもないので小さな1歩だけでもやらせてほしい」と提案しました。すると「そこまで言うならやってみれば」やれることになったんです。

別に人にどう思われてもOKさえもらえれば、、、大絶賛なんていらないし、心底わかってもらえなくてもいい。どちらかというと、半分諦めてもらうというところをゴールにしたらうまくいくかもしれません。


■新規事業のモチベーションと原体験


【麻生】視聴者からの質問に1つだけお答えください。「新規事業を行っているみなさんの原体験、新規事業に取り組もうと思った動機などを教えてください」という質問がきていますが、いかがでしょう。

【金子】東芝に新卒で入社後はソフトウェアエンジニアとしてテレビの開発の仕事をしていたのですが、ある時、業界で「録画の神」と呼ばれている人から声がかかって新規事業部門に異動しました。そこには「レグザの父」と呼ばれている人もいて、その2人にものすごくしごかれる日々が始まりました。そこが僕の新規事業の原点です。当時はもう毎日ボロカスのコテンパンにやられていたので本当にしんどかったですが、今振り返れば実戦を通して新規事業開発のノウハウを学べたのでありがたいと思っています。

【金丸】私は元々根底に、日本人にもっと楽しい人生を送ってほしい、日本に高田純次をたくさん増やしたいという思いがありました。新規事業をやってるとすごく生き生きと楽しそうに生きて働いている人にたくさん出会えるので、それに影響されて自分自身も鼓舞できるし、食品産業に関わる事業者さん、従事者の方々がもっと輝けることをしたいとか、もっと面白い事業を世の中に出したいと思うんです。

【森】私は生まれつきすこし身体的なビハインドがあって、色々な想いを抱えながら生きてきました。その中で、生きた証を残したいという思いが強くなったんです。新規事業はその証の1つ。なおかつ消費財を軸にしたサービスならいろいろな人に行き渡る可能性があるのでそれをやりたい。また、サントリーには創業者の「やってみなはれ」という有名な金言があります。このメッセージをより強くリアルな体験とともに、さらに100年続く「やってみなはれ」を当事者として残したいという想いも原動力になっています。


■新規事業は本気で楽しめるテーマで


【麻生】最後にみなさんにお聞きしたい。社内起業家という生き方はどうですか?

【森】新規事業担当になってから、社内で出会う人たちに「お前はいつも仕事楽しそうだな」とよく言われます。本当に仕事が楽しいから楽しそうな表情で常に社内を歩いているんでしょうが、これにすごく誇りを感じているんです。新規事業は本当に面白いので、ぜひ一緒にやりましょう。

【金丸】正直、新規事業はしんどいことがたくさんあって、言われた仕事をきっちりやる方が楽なのではないかと思うこともあります。(指示された仕事をきっちりこなすこともそれはそれで大変なこともたくさんあると思いますが)でも、新規事業をやると未知のことにたくさん出会えて、知的好奇心を満たせるので楽しいです。それまでがつらいですが、1回楽しいと思えたらその後は楽しいことの方が多いので、新規事業をやっている人はみんなで励まし合いながら頑張ってください。

【金子】新規事業に取り組む上では、偉い人向けの社内政治だけじゃなくて、自分たちのチームをよくすることも重要です。最近、リモートワークのせいもあって、チーム内ソーシャルディスタンスというか、誰も悪くないのにチームが少しギクシャクしているみたいなことがいろんなところで起こっているような気がするんです。ベンチャーの社長もよく言いますが、特にリーダーは孤独になりがちなので、常にチームのメンバーの結束を固める努力は必要だと思います。あとは、困難にぶち当たった時、取り組んでいること自体を楽しめなければ突破できないので、新規事業は本気で楽しめるテーマでチャレンジした方がいいと思います。「やらなきゃ」ではなく「やりたい」が大事。ぜひ一緒に社内起業家になりましょう!

【麻生】やはり実践者の生の話は説得力があって面白いですね。みなさんを見ていて一番感じたのが、とにかく楽しそうということ。会社員のはずなのに、自分自身の足で自分自身の人生を歩んでいる感じがします。これを読んだみなさんぜひそうなるように、一歩を踏み出してください。

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構成:山下猛久
デザイン: McCANN MILLENNIALS
グラレコ:そうとめよしえ

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