NEWTYPE ─新時代を生き抜くために─【ONE JAPAN CONFERENCE 2020レポート:PEOPLE⑥】
先が読めないこの時代に、私たちはどう生き抜くか。コロナによって社会はどう変わったか。『ニュータイプの時代』著者で独立研究者の山口周さんと、The Breakthrough Company GO 代表の三浦崇宏さんに「正解のない時代の生き方」について話していただいた。
【登壇者】
■The Breakthrough Company GO 代表 三浦崇宏さん
■独立研究者/著作家/パブリックスピーカー 山口 周さん
【モデレーター】
■日本テレビ アナウンサー 岩本乃蒼
■明治維新以来のビッグチャンス到来
【岩本】山口さんと三浦さんは現在の日本社会をどう見て、これからどう生き抜いていくつもりなのでしょうか。まずは電通、外資系戦略コンサルティング会社を経て現在はリーダー育成や組織開発に従事し、昨年上梓した『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)がベストセラーになった山口周さん、お願いします。
【山口】ちょうど1年前にもこの3人で同じテーマで話したわけですが、その時、まさか1年後に未知のウイルスでパンデミックが起こって、世界の都市が緊急事態宣言を発令、ロックダウンしてしまうとは想像できませんでした。このようなパニック映画とかSF映画の世界が現実のものとなってしまうのが、今という時代なのです。
その影響で、先日、鉄道会社に務めている友人が今年下期の売り上げ予測は前年比のわずか15%だと言っていて、戦慄しました。実は交通インフラという事業は損益分岐点比率が高いんです。私は小売企業の社外取締役も務めているのでわかるのですが、例えば駅ビルに入っているテナントの店舗の損益分岐点比率はだいたい70%くらい。だから売り上げが半分になるとどこの店舗も潰れてしまいます。
そして、今後はテレワークが定着して、通勤は週に1、2日がスタンダードになるといわれています。そうなると通勤客の需要が5分の1になる可能性があります。人々の通行量がコロナ前の5分の1になると、テナントがバタバタ潰れ、駅ビルを運営する会社の経営が危なくなります。連鎖倒産で都市のいろんなシステム自体が存続できなくなる危険性もあります。1つの常識が崩れると別の常識に影響を与えて、次々と崩れ去っていくわけです。
だからコロナ前まで僕たちが当然だと思っていた世の中の常識、例えばある産業は生涯年収が高いとかすごく安定性が高いという人生のストラテジーやキャリアの定石、成功パターン、勝ち負けのものさしの当て方そのものも崩壊してしまう可能性が高いんです。
このような世界でこれからどう生きていけばいいのか。考え方は2つあります。1つはなんて悲劇的な時代なんだと悲観するだけの生き方。こちらの人の方が多いかもしれません。もう1つは、舌舐めずりしながらすごく面白い時代が来たとポジティブに捉える考え方。いろんな常識がひっくり返るということは、これまで既得権益を握って世界を牛耳っていた人たちが依存していたシステムそのものが崩壊するということ。だから特に若者にとっては明治維新と同じくらい稀有なビッグチャンスなんです。中年の僕だってすごくワクワクしています。もちろん悲劇的なこともたくさん起こっているのですが、考え方1つでポジティブにも十分なれるんです。その方がこれからの時代を生きていくためには有効だと思います。
■縦のキャリアから横のキャリアへ
【岩本】博報堂を経てThe Breakthrough Company GOを起業し、経営者、クリエイティブディレクターとして活躍するほか、メディアでの執筆やテレビのコメンテーターを務めるなどマルチな活動をしている三浦崇宏さんはどう考えていますか?
【三浦】(山口)周さんの意見に全く同感です。僕の周りでもコロナで会社を解散せざるをえなかった同業者もいるし、特に飲食業や観光業の方々など非常に苦労している人が多い状況なので、ワクワクしていると安易に言えない面もありますが、やっぱり個人として生き抜く分には非常にワクワクした方がいいと思っています。
僕は『キングダム』(集英社)という漫画がすごく好きなんですが、作中にものすごい大軍に対して主人公が率いる少人数の部隊が勝つ話がよく出てきます。日本でも桶狭間の戦いを始め、このような話は歴史上、枚挙にいとまがない。いろんな勝ちパターンがありますが、すべての合戦で共通してるのは、乱戦になっているということ。お互いの軍の陣形が整っている場合は大軍の方が絶対に勝ちますが、お互いの陣形が乱れてグチャグチャの乱戦になった時、初めて少人数の軍が勝てる可能性が出てきます。だから僕らのような30人の小さい会社が電通や博報堂などの超巨大企業と戦う時、毎回いかに相手の隊列をグチャグチャに乱して乱戦に持ち込むかを考えて戦っています。もしみなさんがチャレンジャーの立場なら、コロナによって常識やルールが変わり、自動的に世の中が乱戦になっている今ほど将軍の首を取りやすい時代はないわけです。そういう意味でワクワクしていい。
もう1つ思うのは、昭和、平成とこれまでの時代は組織の中でヒエラルキーを縦に登っていく戦いでした。例えば新卒が1,000人入ったら50人だけ部長になれて、10人だけ役員になれるという厳しい争いでした。この縦の争いは今の組織が10年後も強く大きな組織であるという強い確信があったからこそ存在したわけです。でも今は大きな組織でも数年先まで存続できるかどうかわからない。
だからこれからは横に広げていくことが重要。まさにONE JAPANはそうだと思いますが、縦に登っていくのとは別に、横の組織に自分のポジションを獲得するという戦略で自分の影響力を強めていく。この縦のキャリアから横のキャリアを考えることがこれからの時代は非常に重要になると見ています。
■無能な上司からどんどん仕事を奪うべし
【岩本】その話題に関して、実際に視聴者からコメントが寄せられているので紹介します。「会社の役員が『10年後のことは在籍している人で考えろ』と言い放って、社員がざわついた。私は有志団体の運営や新規事業の提案などで会社をよくしようと頑張っているので、この役員の発言は悲しくなった」ということですが、山口さんはどう思いますか?
【山口】確かにこの役員は責任放棄しているという見方もできますが、逆に10年後にいない人が会社のことは全部俺たちが考えるから、お前らは考える必要はないと言われる方が嫌じゃないですか? 僕ならこの役員の発言をポジティブに捉えて、「俺たちで自由に考えていいんだ、よっしゃいい仕事来た」と思いますね。
僕自身も電通時代に似たような経験があります。26歳の時の先輩が全然会社に来ず、仕事をしない社内でも問題社員でした。だから教えてくれる人もおらず、ルールもない中、自分1人で何とかしなきゃいけない状況に追い込まれた。その時、この局面に全部自分1人でゼロベースからクライアントを納得させる仕事をするためにはどうすればいいのか考え、実行しました。この時の経験がきっかけで仕事を回すコツをつかんだし、今の自分にすごくつながっているので、その先輩には今でもすごく感謝してるんです。だから置かれた状況をどう捉えるかは自分次第なので、先輩や上司が無能だったらどんどん仕事を奪って、さらにその上の優秀な人とつながることをお勧めします。
【三浦】僕も周さんの意見に同感で、その役員の発言に何の問題があるの?って思いますね。逆にその役員に昭和のOSで会社の将来を考えられても困る。だからこれから会社を背負って立つ現場の世代が考えろって言ってくれたのはすごくポジティブな判断だと思います。
ただ、考えるのは現場だけど決定と執行は役員がやる、でも責任は取らないというのはおかしな話なので、若手は「俺たちが考えますが、決めるのもやらせてください。最終的な責任は取ってくださいね」と役員に詰めよるのが大事。役員の役割は責任を取ることですからね。
■観察して把握して欲望をデザインする
【岩本】下との付き合い方についてもお悩み相談が来ています「今の新人はなかなかゼロベースで仕事を進められません。こちらが手取り足取り教えないと進まない。新人への教え方を教えてほしい」
【三浦】僕自身も難しい課題だと思います。みんな自分の下についた人間にすぐ教えよう、指導しようとします。しかし、その前に部下をよく観察、あるいは対話をして、どのような人間か、何を望んでいるのか、どういうことを喜ぶかを把握することが重要だと考えます。その上で、新人の欲望をデザインしてあげる。欲望は世代によって違います。例えば僕は37歳ですが、20代の時は広告業界で賞を取って有名になりたいとか、博報堂の中で高く評価されて早く出世したいという欲望をもっていました。でも今の20代はそのような欲望が全くないんです。
だからこそ上の人間は新人1人ひとりが何を欲望として今の仕事をしているのかを観察して把握しなきゃいけない。例えば若い社員が「楽しく仕事をしたい」と言ったとします。その「楽しい」は気の合う仲間、感覚や感性が同じ人と仕事をしたいということなら、それができる環境をデザインしてあげる。だから僕自身も指導する前に、若手を観察し、欲望を把握し、それが自動的に目覚めるような環境をデザインすることを心掛けています。
【山口】1人ひとり出世したいとか、プライベートの時間をちゃんと取りたいとか、雇用の安定性などといった、働く上で重視しているキャリアアンカーは違います。それを理解せずに、部下や後輩が自分と同じキャリアアンカーをもっていると思って接すると噛み合いません。見ていればわかるし、話せばわかるので、それを把握して大事にしてあげることが重要だと思います。
あと大前提として、部下を人間として尊重するという態度が絶対に必要です。部下は子分や道具じゃなくて、子供と同じように運命で授かるもの。その人の人生のある時期、育成に責任を追うわけなので、その責任をちゃんと認識した上で、部下を成長させるために自分に何ができるかを考えなければなりません。「サーバントリーダーシップ」という言葉がありますが、自分が部下のサーバント(使用人)になるという姿勢で接すれば、部下も上司のためにちゃんと仕事をやろうというモチベーションを持つようになるんです。
部下は上司を写す鏡。だからみなさんの部下がやる気がないとか指示に従わないのは、みなさん自身に問題がある可能性があるわけです。
■部下とその周囲の1on1ミーティングを徹底
【岩本】お二人から見て面白い質問や相談はありますか?
【三浦】「観察とありましたが、今在宅勤務がメインとなりなかなか部下の表情や行動の観察が厳しい世界になりました。この環境下での観察のポイントを教えてほしい」という質問。確かにリモートワークがメインの場合は上下のコミュニケーションがすごく難しくなりますね。例えば対面だと僕が言ったことに対して部下が「はい」と言っても表情などで本当は納得してないなとか、「今の仕事楽しい?」と聞いて「楽しいです」と口では答えても本当は楽しくないんだなというのがわかります。でもリモートでパソコンの画面越しでは表情の解像度が低くてわかりにくいから本音が見えづらい。
また、時として部下を厳しく指導するので、若手なら当然傷ついたりダメージを受けることもあるでしょう。そんな時、これまでなら仕事終わりにメシに誘ってフォローすることもできました。でもリモートがメインの今は難しくなっています。
じゃあどうするか。僕は部下と部下の周りにいる人間全員と1on1のミーティングを必ず1週間か2週間に1回、30分から1時間程度、ちゃんと話すことを徹底しています。この本人の周りの人に聞くという点がミソで、本人とのミーティングが終わるとその隣の人に「最近あいつと仕事してる?元気にしてる?」と聞く。それが終わったらまたその人の隣の人に同じことを聞く。このように自分がマネジメントしてる部下との1on1ミーティングを徹底的に増やして、本人とその周囲にいる人全員の情報を組み合わせると実像がわかってくるんです。
だからリモートになって、部下のマネジメントにものすごく手間がかかるようになりました。でもここで上司が手を抜くと若い人のためにならないので、マネジメントに関してはかなり冷静に把握しながらやらないといけないと自分を戒めながらやっています。
■「興味のあることもないことも全部やれ」
【山口】僕がいい質問だと思ったのは、製薬会社の人事の人からの「これからのニューノーマルの時代に、新しいことをやってみようと思うけど、目の前の仕事も大事だし、副業も考えてみたいし、勉強もしてみたいし、家族との時間も大事だし、やりたいことがありすぎて困っています。どうしたらいいでしょうか」というもの。これはまさに多動性症候群の三浦さんはよくわかる悩みだと思いますがどうですか?
【三浦】やりたいことを全部倒れるまでやるしかないんじゃないでしょうか。
【山口】倒れるまでやるかどうかは置いといて、予防医学研究者の石川善樹さんがハーバード大学で公衆衛生学を勉強していた時、全く同じ状況だったらしいんですね。勉強したいテーマがいくつかある、プライベートでやりたいプロジェクトもある、全然関係ない領域の勉強もしたいという感じで、あまりにもやりたいことが多すぎて本来の勉強に集中できなかった。それで指導教官にこれから研究者としてどう生きていけばいいかと相談した。
そしたら、その教官は「興味のあることもないことも全部やれ」と言ったそうなんです。このひと言で今の石川さんができあがっているので、すごくいい話だなと思うと同時に、その人の悩みへの回答もこれだと思うんです。
ここで最初の話に戻るんですが、コロナによって今まで最も高収益で安定性が高いと言われていた交通インフラが崩壊の危機に瀕し、巨大銀行やマスコミ企業だってこの先どうなるかわからない状態になった。そしてこれまで常識とされてきた生き方の定石や安定した人生の送り方などは全部崩壊した。だからこれからは幸せになるために何が正しい人生戦略なのか、誰も正解がわからない時代になる。そんな時代において、戦略は1つしかありません。なるべくたくさんいろんなことをやってみるという戦略です。うまくいかなかったらやめる、うまくいきそうならもうちょっと突っ込んでやってみる。
戦略論の基本で、集中と選択は今の時代にはそぐわない。むしろ持っている資源をギリギリ使い切るまでいろいろ試してみて、その後、何が一番楽しかったのか、うまくいっているのかいっていないのか、評価されているのかいないのかを反芻します。独りよがりになるとダメなので、基本は顧客が評価します。例えば自分自身は楽しかったんだけどそれ以降顧客から声がかからなかったら、たぶん顧客を満足させられるバリューを出せなかったということだからダメだと判断できる。
このサイクルを超高速で回すんです。PDCAじゃなくてまずはD、行動することから始める。その後チェックして修正してアクションする。この時代はノープランでいい。むしろそれが大事。これを何度も繰り返すことによって、自分が活躍できるフィールドや人よりうまくできること、人から喜ばれるポジションが見つけられます。これを年に3回やる人と30回やる人とでは、後者の方がそれを見つけられる確率が10倍高くなります。3回しかやらない人が10年かけて見つけられるところ、30回やる人はわずか1、2年で見つけられる可能性があるわけです。
言い換えれば三浦さんの言う「ぶっ倒れるまでやれ」ということなのかもしれませんが、体を壊すと元も子もないので、ぶっ壊れない程度にやるのがいいでしょう。
【三浦】周さんのおっしゃった「これからの時代は選択と集中じゃなくて多動と反芻」は非常に重要です。ただ、この時に注意しなければならないのが自分自身を騙すこと。「この仕事をやりたいと思ってやってみたけど、意外と楽しくない。でも自分から希望して始めたから最後までやらなきゃいけない」と自分で自分の心を前向きに騙してしまうことがある。それに気づかないままだと倒れてしまう危険性があります。
だからここでもやっぱりキーワードは観察。自分の欲望に忠実にチャレンジしつつも、自分の心を素直に観察することが重要です。そうすれば倒れる手前でやめることができますから。
■大企業に入る最大のメリットは希望しない部署への配属
【三浦】石川さんの指導教官が言った「興味のあることもないことも全部をやれ」という言葉も圧倒的に素晴らしいと思います。実は興味のないこともやった方がいいんですよね。
それは僕自身の実体験から言えます。本当は電通に入りたかったけれど博報堂に入社して、クリエイティブ志望だったけれどマーケティング部に配属されました。当時はマーケティングの仕事に全く興味がなかったので、すごく嫌でした。でも嫌だなと思いながらも頑張ってその時に身につけたマーケティングの考え方が、今の広告だけじゃなくて新規事業をつくる仕事をする上でものすごく役に立っているんです。本来望んでいたのとは違うキャリアを歩んだからこそ、思いがけない武器を手に入れられたわけです。今振り返ると嫌なことも含めて全部がよかったと思います。
大企業に入る最大のメリットはそこで、自分が希望していない部署に配属されること。だから興味のない仕事をやらざるをえなくなった時も、その経験が何年後かに強い武器になって自分を助ける可能性があるから、腐らずに一生懸命取り組むことをお勧めします。
【山口】すごくよくわかります。興味のない仕事は新しい自分を発見するいい機会にもなるし、大企業のいいところですよね。だからそれを楽しめるかどうかが大事。
僕も20代の頃は自分でこんなキャリアを歩むなんて全く想像していなかった。電通でコピーライターなど憧れる仕事をいろいろやってみて、1つずつ敗北していった結果が今で、全く悔いはありません。
■「人生を見つけるためには、人生を浪費しなければならない」
【岩本】最後にひと言ずつメッセージをお願いします。
【山口】みなさんが一番力を発揮できて、周囲の人に価値を与える仕事は、みなさん自身がわくわくして楽しいと思えるでしょう。だからぜひそれをわがままに粘り強く追求して見つけてください。冒険飛行家のリンドバーグの奥さんは「人生を見つけるためには、人生を浪費しなければならない」というとても素晴らしい言葉を残しています。若手のみなさんは七転八倒しながら、40歳くらいまでに人生の天職を見つければいい。僕も七転八倒してきて40歳過ぎくらいに、これが自分が人生を懸けてやっていく領域だと思える仕事に巡り会ったので、いろんなことを楽しみながら試してほしいと思います。
【三浦】未来や社会などを予測することが可能だった時は予測していればよかったのですが、今はそれができない時代になっています。だからこれまでも何度も言っていますが、「観察」がすごく重要なキーワードになっていて、自分という存在をちゃんと見つめることだと思います。「自分は本当にこれを楽しいと感じているか」「これは自分にとって本当に意味があるのか」ということを、ものすごく丁寧に自分自身と身の回りにいる人を観察して確かめる。これがこの先の正解のない時代を生き抜く上ですごく重要なヒントになるでしょう。あとは次の時代のコンセプトをみんなで考えてつくることが、我々の世代の大きな宿題。今後はそれに取り組んでいきたいと思っています。
構成=山下猛久
デザイン: McCANN MILLENNIALS
グラレコ:本園大介
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