ONE JAPAN5周年記念対談~これまでとこれから~ #4 神原一光
大企業の若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」は2021年9月で5周年を迎えました。現在では55社3000人が集うまでに拡大したONE JAPANですが、世の中に、「挑戦の文化をつくる」ための活動は日々続きます。ONE JAPANに深く関わるメンバーに、ONE JAPANのこれまでとこれからについて、それぞれの想いを聞きました。
4回目はONE JAPAN副代表・神原 一光へのインタビューです。
熱気を熱気で終わらせないようアウトプットを仕掛ける―ONE JAPANでの役割
―まず、本業での業務内容を教えてください。
NHKでチーフ・プロデューサーとして番組・デジタル・イベントを連動したプロジェクトの制作を行っています。直近では、東京オリンピック・パラリンピックの実施本部として、オンラインでパブリックビューイングイベントを開催し、その様子を放送にも連動させたり、大会に参加した世界200を超える国と地域の応援コールをすべてコンプリートして、デジタルや番組で放送する「世界を応援しよう!」という企画などを実施しました。コロナ禍という異例の状況下で、開催国の放送局として、世界に何を発信できるか、試行錯誤しながら仕事に取り組みました。
【神原一光】ONE JAPAN副代表/NHKチーフ・プロデューサー
1980年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、2002年NHK入局。
ディレクターとして「NHKスペシャル」など制作。
2018年6月より2020東京オリンピック・パラリンピック実施本部副部長。
チーフ・プロデューサーとして番組・イベント開発も手がける。
2012年、局内で「ジセダイ勉強会」を立ち上げ。ONE JAPANでは現在、副代表を務める。著書に『会社にいやがれ!』など多数。
―続いて、ONE JAPANでの役割や担当しているプロジェクトについて教えてください。
ONE JAPANの三つの柱「VALUE」「PEOPLE」「CULTURE」のうち、僕の主な担当は「CULTURE」です。具体的には「働き方」意識調査や、ONE JAPAN として上梓している2冊の本の全体統括を担当しました。9人の幹事と事務局の皆さんとともにONE JAPANの全体戦略を考えています。
「働き方」意識調査は、参加企業55社・約1600人の若手・中堅社員を対象とした WEB形式の意識調査で、2017年から毎年実施しています。僕も含めたメディア・出版・広告・シンクタンク系のONE JAPANメンバーを中心に、その時々のホットなテーマをふまえながら調査を設計しています。
―「働き方」意識調査はONE JAPANにおいても主要なアウトプットのひとつですね。立ち上げたきっかけを教えてください。
2016年9月にONE JAPANが発足したのですが、当初から「大企業からオープンイノベーションを起こすぞ!」というものすごい熱気がありました。その熱気に驚かされると同時に、熱気というのは長く続くものじゃない、どこかで必ず冷めると思っていて、早めにアウトプットをしておかないと、ただ集まって盛り上がるけで終わってしまう集団になってしまうのではと感じていました。その後、幹事として加わった際に、濱松(誠:共同代表/共同発起人)君をはじめメンバーにはそのことを率直に伝えました。
「早めにアウトプットするには何がいいだろう?」と考えたときに、大企業の正社員で、かつ若手中堅の社員に限った意識調査というのは、どこを探してもありませんでした。事業開発となると2年、3年と時間がかかるけど、意識調査なら調査を1年に1回だけ行ったとしても、確実にアウトプットを出すことができる。世の中に対して「ONE JAPANとはこういう団体です」というメッセージも伝えられるし、参加している有志団体の皆さんにとっても自社や自分自身を知るきっかけにつながる。マーケティングの根拠としても使えるかもしれない。だったら、ONE JAPANにとっても、各社の有志団体にとっても、社会にとっても意味のある提言をしよう――この三つのポイントを押さえながら調査を作り込んでいきました。
おかげさまで、「働き方」意識調査は、日本を代表する大企業の社員からリアルな声を集計した調査として、1回目の調査から数多くのメディアにも、取材していただくことができました。また、この調査をきっかけに経済三団体の一つである経済同友会にもお声がけいただき、共同調査やコラボイベントへと展開していきました。ある方からは「この調査、受注するなら4桁万円以上頂ける価値があるよね」と言われたこともあります。そのくらいの規模の仕事になる調査を手弁当でやってしまえるのが、ONE JAPANという団体の面白さであり、底力ですね。
ミドル層が成長しなければ会社も成長しないーミドル層を対象とした新たなプログラム
―一方で、2021年には大企業の管理職層、いわゆるミドル層を対象とした新しいプログラム「ミドル変革塾」を立ち上げました。背景にはどんな問題意識があったのでしょうか。
ONE JAPANも活動を始めて5年が経ち、発足当初は若手・中堅と言われていたメンバーの中にも、管理職に昇進する人たちが増えてきました。素晴らしいことですよね。そういう中で「ミドル層がもう一段成長するための場があってもいいのではないか」という思いがあったんです。
そのことを、「やっぱり今やらないとダメだ!」と強烈に思わせられたのが、このコロナ禍です。それまでもやれ「VUCA」だ、予測が立たない時代だ、と言われてはいましたが、正直そこまで切迫感やリアリティが持ちづらかった。そこにこういった世界規模のパンデミック、いわば非連続な世界の極みみたいなことが否応なく起こってしまいました。
僕自身も、東京オリンピック・パラリンピックの業務で直面したのですが56年ぶりの夏季大会の開催というだけでも、大変な判断をしていかなければならない。そこへさらに新型コロナウイルスがやってきて、大会が延期され、無観客開催になって……と異例の事態が次々と重なりました。その渦中に身を置きながら、「こういう前例のない状況で判断ができないと、事業、ひいては会社全体が完全にディスラプトされてしまうぞ」という危機感を強烈に抱いたんです。
―その危機感が、このタイミングで「ミドル変革塾」を立ち上げた動機だったのですね。
結局、個人の限界の総和がイコールその会社の限界で、個人が成長した分しか会社は成長しないんだと思ったんですよね。それなら、個人を成長させるプログラムを自分たちで作ろうと考えたんですよね。
その点で、僕たちミドル層は会社の中である程度予算や権限を与えられています。そのミドル層が普段から個々人でスキルや哲学をブラッシュアップしておけば、いざという時に素早く対応したり、先を見越して手を打ったりすることができる。結果として、この不確実性の高い時代に大企業の成長をもう一段加速させられる確度も上がるのではないか。そう思って、この「ミドル変革塾」を立ち上げました。
実際に集まっているミドル層の人たちはみんな志が高く、講師陣も各界トップクラスの方にお越しいただいています。受動的なセミナーとは違い、実践的で、毎回高度な要求を課されます。疑似的にもう一回修羅場を与えられるようなもので、僕も含めて29社31名の受講生の皆さんは、毎回脳みそに汗をかきながら学んでいますよ(笑)。
管理職というのは、すごろくの「あがりポスト」でも「ちょっと楽できる場所」でも決してありません。むしろ、管理職に上がった瞬間が次へのスタート。ここからもう一度自らに火を着けて、新しい知見をインプットして、これまでの自分の経験と掛け合わせることで、これからの「前例のない時代」を切り拓く力をつけていきたい。この「ミドル変革塾」から、新しい管理職像のロールモデルをつくり出せたら理想ですね。
「何のためのONE JAPANか?」という原点を忘れずにーONE JAPANの5年間とは
―ONE JAPANは発足して5年が経ちました。神原さんの目から見て、ONE JAPANの5年間の歩みや変化をどう振り返っていますか。
5年前は「大企業からイノベーションを起こすぞ!」と息巻いてその熱気に浸っていた人もたくさんいたと思います。でも、そういう人たちはいつの間にかいなくなったなと。その間に、世界は、SDGsや新型コロナという国境を越えて乗り越えていかなければならない状況に直面しましたよね。本当の意味で、自社の課題に真剣に向き合って、社会に対してアクションを起こさないと自分たちが淘汰されるんだ、いうことに多くの人が気づいた5年間だったと思うんですね。
ONE JAPANにある「辞めるか、染まるか、変えるか。」という言葉の「変える」を選択した集団なんだということを自覚して、アクションを起こし続けている人たちが、今のONE JAPANに残っている人たちなんじゃないかと思っています。そのアウトプットとして、1000人規模のカンファレンスや意識調査を5年間も継続している。それはそれですごいことだと素直に思うし、そういう土壌づくりができた5年間だと振り返っています。
一方で、あえて厳しい言い方をすると、この5年でつくった「土壌」の居心地の良さに安住していないかな?という懸念はあります。土壌ばかりつくっているのは、ストレートに言うと「土いじり」「庭いじり」じゃないですか。庭いじりに終始するのではなく、せっかくつくった土壌に種を植えて、花を咲かせていこうよ、という話になっていかないといけないし、なっていくべきですよね。
ONE JAPANを存続させること自体が目的ではなくて、ONE JAPANはあくまで手段に過ぎません。「辞めるか、染まるか、変えるか。」で「変える」を選択した集団だからこそ、「会社を変えるためにはこういうことをやる必要があるのでは?」「会社を変えるためにはこういう運営の仕方ではまずいよね」と時には議論してほしい。また、それぞれの会社でより一層アクションを起こし、社会にインパクトを出してほしい。「何のためにONE JAPANをやっているのか?」という原点を忘れないでほしいと思っています。
僕自身も、副代表としてONE JAPANに参加する有志団体それぞれの思いやモチベーションを尊重しながらも、時にはもう少し目線を高くしてもらうよう求めることもあります。最大公約数でまとめるのは簡単だけど、それではONE JAPANがその辺にある“仲良し交流グループ”と変わらなくなってしまう。最大公約数でなく、それぞれの会社を少しずつストレッチさせて“最大公倍数”を作ってみたい。その調整は大変だけど、そのことが最終的には参加する有志団体の、ひいてはONE JAPANの大きな価値につながると信じています。
自分にプレッシャーをかけ、成長し続けられる「道場」に―ONE JAPANの「これから」
―これからのONE JAPANに関わる人や、次の世代に伝えたいことはありますか。
ひとつ伝えたいのは「自分の会社をを知り尽くしていますか?」ということ。自社を変えたければ、「社内がどんな仕組みでどのように動いてるのか」「自社がどんな事業をやっていて、どんな人たちが関わっているのか」ということを徹底的に「知り尽くして」ほしいと思っています。
イノベーションというものは、結局「あるもの」からしか生まれないというのが僕の考えです。みんな一生懸命「ないもの」を探そうとするんだけど、世の中にないものなんて、そうそうありません。会社が手をつけているものをピボットさせたり、あるいは組み合わせたり、再定義したりするところから生まれるものなんです。
だから、「ないもの」を作ろうとしたら、まず「あるもの」を確認しよう――ちょっと禅問答みたいだけど、まず社内にあるものを探して、ないものはONE JAPANと探して、結合させる。それが、イノベーションでいうところの「新結合」だと思うんです。
ONE JAPANに来てくれる若手の人たちには、自分の会社を「知る」ではなく、「知り尽くす」レベルに到達するまで、徹底的に自分に対してストレッチをかけてほしい。ストレッチをかけ続けると段違いに成長できるし、そこで掛け算が起きたときに、まだ見ぬ価値が生み出せると思っています。
―最後に、神原さんにとってのONE JAPANとは?
「自分自身にプレッシャーをかける場」ですね。僕がONE JAPANに参加するときは、「ここで何が学び取れるのか」と、自分自身にかなりのプレッシャーをかけ続けています。
ONE JAPANという場は、コミュニティ設計をみんなで考えていて「心理的安全性」があるから、プレッシャーを感じずに活動することができるんです。だけど、少し逆説的な言い方ですが、「心理的安全性」があるからこそ、安心して自分にプレッシャーかけることができる場でもあると思うんですよね。
ONE JAPANで自分にプレッシャーをかけ、挑戦する。そして、そこで得られた経験や知見を会社に持ち帰って実践する。あるいは会社で実践したことをONE JAPANで、もっと試してみる――僕にとってのONE JAPANとはそういう場ですね。このインタビューでもだいぶ厳しいことを言っているかもしれないけど、これも自分自身にプレッシャーをかけているんです(笑)。
ONE JAPANに集う仲間も、これからは若手・中堅からミドル層へと世代が少しずつ広がっています。そのすべての人にとって、ONE JAPANが自分にプレッシャーをかけてくれる「道場」のようなステージとして発展していけばいいですね。僕もそういう皆さんと一緒に、実践者としてもっと切磋琢磨していきたいと思っています。
ー5年前も今も、ONE JAPANだけではなくその先にある会社・社会について深く考え、そして自身にもプレッシャーをかけ続ける神原さん。一見厳しくもONE JAPANのことを誰よりも想う気持ちが伝わりました。ありがとうございました。
構成:堀尾大悟
インタビュアー・編集:岩田健太(東急/水曜講座)
撮影: 濱本隆太(パナソニック/BOOST)
デザイン協力:金子佳市
取材場所協力:Shibuya Open Innovation Lab
【ONE JAPAN公式Facebookページ】
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【ONE JAPAN公式Twitter】
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