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デジタルトランスフォーメーション 【ONE JAPAN CONFERENCE 2020レポート:VALUE③】

日本企業が生き残るためには必要不可欠なデジタルトランスフォーメーション(DX)。その重要性を語るフェーズはとっくに過ぎている。今、求められているのは、単なるデジタル化ごっこではない。企業を抜本的に変革するDXだ。実際に大企業の中でDX推進の指揮を執っている東芝最高デジタル責任者の島田太郎さん、富士通CIO兼CDX補佐の福田譲さんと、企業のDXを支援しているシナモンAI社長の平野未来さん、INDUSTRIAL-X社長の八子知礼さん、モデレーターとして日経クロステック副編集長の島津翔さんに「DXのあるべき姿」について話していただいた。

【登壇者】
■東芝 最高デジタル責任者 島田太郎さん
■富士通 CIO兼CDXO補佐 福田 譲さん
■シナモンAI社長 平野未来さん
■INDUSTRIAL-X社長 八子知礼さん

【モデレーター】
日経クロステック 副編集長 島津 翔さん

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■3カ月でDXは何かという資料を作り、200回以上社内でプレゼン

【島津】まずは実際に企業内でDXを推進している島田さんと福田さんの具体的な取り組みについてご紹介ください。

【島田】DXを推進するために東芝に招聘された時、まずやらなければならないことは、DXをしっかり定義することだと思いました。それで3カ月間でDXとは何かという資料を作って200回以上社内でプレゼンしました。すると、「こういうところがピンとこない、腹落ちしない」という疑問がたくさん出てきた。それに答えていく過程で、トランスフォーメーションを起こすということについて詰めていきました。

もう1つ非常に重要なことは、トランスフォーメーションは一夜にして成るわけじゃないということです。社内で特に時間がかかる領域こそ本当にトランスフォーメーションを起こすための強い意志とビジョンが必要不可欠です。ゆえに、ビジョンとしてみんなが共有できるまで、かなりの時間を使いました。

それと、東芝に入った瞬間から「日本からプラットフォーマーをつくる」と言い続けています。ではプラットフォーマーとは何か。そもそも1960年代から未来を予測することは不可能だということがわかりはじめています。しかし人間は大変に弱い生き物で、なんでも樹形図や組織図のようにして構造化することを好みます。組織は構造化した瞬間から腐っていきます。実際の世の中はカオスで不平等です。インターネットの世界で例えると、ものすごくたくさんのリンクを持っているわずかな人間と、ほとんどリンクを持っていない大多数で構成されています。この状態を「スケールフリー・ネットワーク」と呼んでいます。

このスケールフリー・ネットワークはイノベーションが臨界点を超えると爆発するというパーコレーション現象が起こります。ある一定の領域を超えると突如として価値を持ち始めるということです。例えばInstagramは我々東芝のような会社が作っている非常に複雑な制御システムに比べるとものすごくシンプルで、ましてやコンテンツすら入っていません。ところが、人がコンテンツをアップする、さらに人がフォローする、ハッシュタグをつける、いいね!を押す、ということによって、先ほど話したスケールフリー・ネットワークが自動的につくられるような「場所」をつくっているわけです。自動的に「コト」が起こるような場所をつくることがスケールフリー・ネットワークであり、プラットフォームの基本なのです。

我々はお金をかけずにモノを大量に配る「アセットオープン化」という方式で、サイバーフィジカル上でスケールフリー・ネットワークを初めてつくりました。例えば紙で受け取っていたレシートが電子レシートとしてスマートフォンに届くレシート管理アプリの「スマートレシート」もスケールフリー・ネットワークです。

もう1つ、「ifLink(イフリンク)」は、様々なIoT機器やWebサービスをモジュール化することで、ユーザーが自由に組み合わせて便利な仕組みを簡単に実現することができるIoTプラットフォームで、ユーザーが自分で写真を撮って動かすとそれが完成するというスケールフリー・ネットワーク・ジェネレーターです。プログラミング不要なので誰でも簡単にシステムを作れるようになるので、つくる速度は10倍になり、つくり人が100倍になり、ソリューションが1,000倍になります。そのためにオープン化し、100社を超える企業がすでに活動しています。

■必要なのはカルチャー変革であり、魚の釣り方を教えること

【福田】私が富士通に入社した際、既に社長は全社挙げてのDXを社内外に宣言済みで、そのこと自体に反対する雰囲気も社内にはありませんでした。みんな、ある程度今のままじゃいけないっていうことはわかっていたんです。一方で、「では何をどう変えるのか?」に関する共通理解やコンセンサス、プランは具体的にはまだ無い、という状況でした。全ての役員と面談して「何を目指しているんですか? 富士通はどんな会社になりたいのですか?」と質問をすると、みんないいことを言うんですが微妙に違うんですよ。共通の定義なり戦略というものがまだない、ということで、そこを明確にしようと努めているところです。

同時に、経産省の定義を元にDXとは何かという定義づけを行いました。それは「競争上の優位性を確立すること」。何も特別なことではないのですが、ベースとなる根本的な理解が揃っていない会社は意外と多い。DXをDとXを分解すると、X(Transformation)がやりたいことで、D(Digital)はそのための方法、道具です。また、現在の会社全体の構造をみなが理解し、DXの議論が噛み合うよう、全社DXモデルを作りました。

重視している視点の1つが「お腹の空いた子に魚をあげてはいけない、魚の釣り方を教えましょう」ということわざです。時代の変化にあわせて自らを変え続ける能力は一過性のものではいけない。仕組みをつくることがとても大事で、これをDXの主目的としています。DXを実現するために大事なこととして、①経営者のコミットメントとリーダーシップ、②現場の叡智を結集すること、③カルチャーの変革の3つに留意しており、特にカルチャー変革が重要だと考えています。

全社DXプロジェクトを開始して4カ月目に入ったのですが、「トップのリーダーシップ」「現場の叡智を結集する」「カルチャーを変革する」ために、どのような体制がベストなのかを考え立ち上げました。具体的には、まず社長自らが「チーフDXオフィサー(CDXO)」を兼務して自分ごととしてリーダーシップを発揮する。そして各現場の15部門から17名を各部門のDXリーダーとして「DXオフィサー(DXO)」に任命。CEO直下(CEO室)に現場から元気がいいタレントを専任8名、兼任14名集めて、「DXデザイナー(DXD)」として体制をつくりました。そのうえで、目指すべきカルチャーを、みんなで議論して「DXステートメント」として定義しました。

全社DXで取り組むテーマは、DXオフィサーから上がってきたもの、トップダウンで定義したもの、合わせて278あります。全部一気にはできないので3カ月ごとに優先度をつけ直し、アジャイルでデリバーしていきます。この際、デザイン思考やデータサイエンスなどマーケットである程度は効果が実証されているフレームワークを徹底的に活用します。お客様や社員の声をデジタルに収集し、AIで分析して打ち手に変える「VOICE」という仕組みもつくりました。

また、カルチャー変革のためには、人事制度や勤務規定、行動規範の変更も重要なので、ワーク・ライフ・シフトというプログラムをつくりました。全部自前でやろうとすると時間がかかるし非効率的なので、社内外を問わずにいろんな強みをもつ人たちと一緒にDXを進めようとしています。

■企業のDX支援は目的地のすり合わせから始まる

【島津】平野さんのシナモンはAIを競争戦略として活用してDXを推進し、八子さんのINDUSTRIAL-XはDXに必要なリソースをワンストップで提供しています。外部からどのように働きかけているのですか?

【八子】最初は、我々なりに企業のDXの目的や行き着く先を想定してその仮説をぶつけます。それが合っていたらそれを信じてDXをやっていきましょうと提言します。いざ実行フェーズに入った時、予算をはじめとして人材や技術など足りないものがたくさん出てくるので、我々がリソースを全部用意します。

【平野】私も同感で、組織全体としてDXの準備ができていない企業が非常に多いと感じています。DXはトップがコミットしていると進みますが、そうではない企業が多い。そのような企業に対しては、まずはトップ以下全社員がDXの必要性を理解することが大事なので、最近では社内でワークショップやセミナーを開催してみなさんの理解度を上げています。

■年1回から2週間に1回のアップデートにできるか

【島津】日本企業のDXに関して、大きな課題は何だと思いますか?

【島田】なぜGAFAのような企業の株式価値が日本のすべての企業を合わせたそれよりも高いかということに答えられるかどうかですね。まずそれに答えられないようであればDXがどうのこうのと言っている場合じゃないです。その本質的な構造を理解するのが先決です。

【福田】印象的な課題はカルチャー、企業文化ですね。現場から上がってくる課題は、部門をまたがって重複しているものが多い。1つひとつ聞いていくと、その課題の原因はわかっているし、その解決策まである程度わかっているんです。じゃあなぜやらないのか。ここが変えるべき真因だと思っています。「この指とまれ」をなかなかやらないんですよね。

【平野】様々な企業がDXを進めようとしていますが、現状ではなかなか進んでいません。私はよくDXを阻む8割の壁と言っているんですが、その大きな理由の1つは「非構造データ」にあります。非構造データとは、メールや画像、音声、Word、Excel、PowerPoint、PDFなどのデータのことです。

一方、構造データとはデータベースに入っているキレイなデータのこと。例えば売上の数値情報やお客様の名前や住所情報などのようなタグ付けされたデータです。このような構造データはRPAなどを使って自動化できるのですが、非構造データはできません。この非構造データが企業にあるデータの8割を占めていると言われていて、それがDXを阻む最大の壁といえます。

しかし、非構造データを構造化してDXを進めようとするといわゆる「2025年の崖(※)」に間に合わないと思っています。そこで私たちは非構造データはそのままにして、まずは学習データを蓄積することをお勧めしています。そうすればその後にAIモデルをつくることができるので。

開発のやり方という観点では、ウォーターフォールからアジャイルへといったところですね。シリコンバレーでもすでに10年前に「もうウォーターフォールではなくアジャイル」と結論が出ています。ウォーターフォールは一番最初に要件定義を全部書いて、それに沿って最後まで地道にやっていくというやり方です。しかし人間そんなに頭が良くないので、一番最初に全てをパーフェクトに要件定義するなんて不可能ですよね。

アジャイルはまずは未完成でも取りあえず第1弾を出して、そこから2週間に1回アップデートして完成度を高めていくという方法。スタートアップでは当然のように行われています。アプリなら2週間に1回アップデートするのは当たり前だし、普通のウェブサイトなら毎日アップデートするのは当たり前なんです。この方やり方でないと、より良いもの、非常にエクスペリエンスに優れているものはつくれません。しかし大企業は数カ月に1回とか、ひどい場合は1年に1回なんです。これをいかにアジャイルに変えるかがポイントです。

※2025年には老朽化した企業のITシステムが深刻な状態に陥り、IT人材が約43万人不足する。その結果、年あたり最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある、と言われている問題。

■DXの本質はビジネスモデルやバリューチェーンの変革

【八子】我々が今年6月に行ったDXに関する調査では、業務改善を目的としてDXに取り組んでいるという日本企業が非常に多いことがわかりました。しかし、DXの本質はビジネスモデルやバリューチェーンの変革です。これが理解されていないのが今の日本企業の大きな課題だと考えています。

特に製造業では、全体最適の視点が少し不足していて、目的があいまいです。つまり、設計の段階から、製造、運用まで全体を見据えられていない、そしてデジタル化の目的があいまいであることが大きな課題だと認識しています。

いろいろな課題がある中で一番強く印象に残っているのは、「将来のことを考えない」ということです。実は本当に将来のことを考えたら恐怖で今すぐ動かざるをえないほど、様々なことが猛スピードで変化しているのに、全く動いていない企業が非常に多い。だから平野さんがおっしゃったようにサービスもビジネスも生活も、トライアンドエラーでアジャイルに進めていくしかない。これは別段困難なことではなく、今はいとも簡単にデジタルテクノロジーでできるので、それを用いて将来スケールしていくことや未来がどうなるかを真剣に考える必要性があると常に考えています。

【島津】今日のみなさんの議論を聞いて改めて重要だと思ったのは、DXは何らかの意義の元で進めなければならないということです。参加者の方も今日の話をそれぞれ持ち帰って、自社のDXに生かしていただければと思います。

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構成:山下 猛久
デザイン: McCANN MILLENNIALS
グラレコ:糸賀しえり

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