ペットビジネスの本音
2024年5月19日。
無印良品 東武動物公園駅前にて「犬に関わる仕事を知ろう!中学生のための職業調べワークショップ」の開催を企画しました。
今回はイベントを開催するにあたって、オンラインサロン「愛犬文化村」内で、予習のような記事を書いておりましたので、こちらのnoteにも共有させていただきます。
あくまでクローズドのコミュニティでの話題ですので、至るところに火種がございます。
火気の取り扱いにはくれぐれもご注意の上、話半分でお読みくださいませ。
=== 今ここに予防線という名の消化器を用意しましたからね! ===
トリマー編
そんなこんなで本題です。
まずはじめに、齋藤が肩までどっぷり浸かってきた『トリマー』についてを深堀りします。
とはいえ既にnoteでは、酸いも甘いもお届けしつくしてきたわけで、ここでトリマーのお仕事紹介なんてのも野暮な話。
そこで、一般的にはなかなかご理解いただけてないような心情をお話ししたいと思います。
リクルートの情報誌みたいなことをよく言われます。
僕個人の感想を述べると一切の共感を得られないと思うので、多くのトリマーを主語にお話しますが、実際のところトリマーという職業は、ちょっと不憫な一面があったりします。
犬が好きだから選んだ仕事であるものの、好きな犬には好かれにくい仕事であるからです。
理由は様々で、
チクチクとしつこく毛玉を取ってくる人間
ヒヤッとするまで爪切りをしてくる人間
耳毛をブチブチ抜いてくる人間
シャワーを顔まで浴びせにくる人間
体の隅々までやたらと触ってくる(洗ってくる)人間
強風(ドライヤー)を浴びせ続けてくる人間
長時間にわたり直立不動(カット中)を強いてくる人間
(カット中)刃物を近づけてくる人間
大好きな飼い主さんを引き離してくる人間
などなど、挙げればきりがないわけで、もしも僕が犬ならばきっと同じように嫌がるだろうと思います。
#どれも不慣れが原因ですが
「毛玉を作ったのは飼い主さんなんだが…」
「体を触らせるのを慣れさせてないのは飼い主さんなんだが…」
「爪を伸ばしすぎてきたのは飼い主さんなんだが…」
思うところは多々あるものの、犬たちにとっては理解しにくいわけなので、結果トリマーが損な役回りを受けています。
それどころか、
なんて。
犬たちのためを想い、飼い主さんのためを想い、しわ寄せをかってでいるわけなのに、そりゃないぜって感じです。
もともとは僕らだって犬が好きな身。
分かってはいるものの、ついついそんな事を言われると、そこそこの精神的ダメージを食らいます。
#みんな悪気はないんだが
先日インターン実習で来ていた学生さんがこんなことも言っていました。
ほとんどのトリマーが一度は経験するこの悩み。
それでも犬が好きだから、犬たちのためにと悪者にさえもなって作業をこなす…
道半ばで挫折する学生の多くは、ここの壁を乗り越えられず去っていきます。
だからこそ、プロとしての大義を胸に、できる限りの技術を磨き、誠意を持って仕事に望んでいるわけです。
トリミングが終わった後、頑張ったお互いを称え合いながら、笑顔で出迎えてくれるであろう飼い主さんを待つひととき。
こうやって、心身ともにクタクタになった自分を鼓舞しながら、日々の仕事をこなしています。
しかしながら一方で、多くのトリマーが課題としていることがあります。
それは、犬たちには必ず人間(飼い主さん)が付いてくるという点。
#言い方よ
どんな暴れん坊であろうが、どんな汚れた状態であろうが、トリマーは”好き”の気持ちで乗り切れます。
ただ…
こと”接客”においては話が別。
学生の中には、
こんな理由で志望するケースは少なくありません。
ただ、あまりにもここが強いと、トリミング以外の業務が負担でならなくなるんです。
結局はトリマーだってサービス業。
犬が好きなことは大切だけど、だからといって人間相手をせずに働けるとは限りません。
“トリマーは飼い主さんを相手にした接客業でもある”
そんな一面を自覚してるかしていないかで、就職後のエラーは減らせたりするので、”人も好きになる努力”も必要だと思っています。
スタッフ間での人間関係しかり、好きなことを仕事に選んでいるからこそ、妥協ができずに離職するトリマーは少なくありません。
トリマーを目指すなら、犬とのコミュニケーションだけなく、人間とのコミュニケーションも磨いておくと、もっと仕事が楽しくなると思います。
愛玩動物看護師編
齋藤の黒歴史にも登場するこちらのお仕事。
もともと僕はこの職業を目指すため、生まれ故郷でもある山形県から上京しました。
今から30年近くも前なので、インターネットもありませんし、流行だって3年遅れで届きます。
#フジテレビのチャンネルがなかったとか
#田舎あるある
そんな情報弱者の田舎モンに洗礼を下したのは、都内専門学校に非常勤講師で来ていた現役獣医師。
授業が始まるやいなや、教室を見回し放った言葉が…
今なら3ハラくらい名付けられそうなこの発言。
とはいえ、獣医師と違って独立ができない仕事ゆえ、一家の大黒柱としては見込みの薄い選択であることを伝えた、抗いがたい事実でした。
#進路相談の段階で知りたかったよ本当に
将来に繋がらない仕事に時間を費やすモチベーションはないと決断した齋藤青年。
入学して半年ながら、すぐに退学届を提出しました。
#根性なしめ
とまぁ、自分の話ばかりもなんなんで、興味のある方はこちらをどうぞ。
そうは言いつつも、僕の中ではトップクラスに尊敬している仕事に変わりはありません。
常に生と死と隣合わせの時間を過ごす看護師は、そうそう生半可な覚悟でやっていけませんもの。
このあたりは皆さんもなんとなくのイメージが付くと思うので、さほど現場との乖離がない職業ではあるものの、いささか不安定な仕事になっていたのがここ数年。
僕が講師をしていたトリミングスクールの社会人クラスには、なんと”現役看護師”も複数名通われていたんです。
なぜ現役の看護師さんが??
そう思ってしまうわけですが、これにはのっぴきならない訳があり。
ペットブームが起きてから、至るところで動物病院が開設されました。
これにより、獣医師を目指す大学生も増加したわけですが、同時にインターン実習も爆増したんです。
すると、さすがにメスは握れない彼ら彼女らは、診療補助やオペの補助、なんならカルテ管理までやるようになっていました。
その結果、動物看護師のお仕事が奪われてしまったんです。
大学で医療を学んできたインターン生は、動物看護師のスキルを優にこなしてしまうんですもの。
獣医師と言えども経営者です。
人件費の面からしても看護師を数名雇うより、ある程度の仕事量をインターン生に任せた方がコストカットになるわけで。
また、動物病院に併設されたトリミング部門のトリマーも競合になりました。
トリマーは犬の扱いには長けているわけで、保定や入院動物のお世話くらいはできますからね。
獣医師は医療のプロである一方、トリミングのプロではありません。
看護師にやれることはできても、トリマーにやれることはできないわけです。
であればと、こちらも少ない人件費でトリマーを雇い、彼ら彼女らに看護を教えた方が割が良いと考えました。
インターンシップ
トリマー
これらが動物看護師の仕事とバッティングしていったんです。
ところが昨今、その動きにも大きな変革が。
そうです、この度晴れて国家資格となったからです。
\愛玩動物看護師/
アニマルヘルステクニシャン…アニマルナース…ベテリナリーテクニシャン。
色々な名称がありましたが、これからは業務独占資格、名称独占資格となります。
職業としての価値が格段に向上したわけですね。
というわけで、頭一つ飛び抜けたこの資格を、民間資格と同じ列に並べるわけにもいかないのですが、ことの経緯も踏まえ解説させていただきました。
興味のある方はリンクも覗いてみてくださいね。
ドッグトレーナー編
トリマーが短時間の間に結果を出さなければいけない仕事であるならば、ドッグトレーナーは地道なお仕事。
明日のために今日があり、明後日のために明日がある。
終わることのない日々をコツコツ積み重ねていく仕事です。
憧れの眼差しで見ていると、どちらも輝いて見えるのですが、ドッグトレーナーの一日はビックリするほど地味なんです。
勉強、学力、学習。
どのような言い方をしていても、共通するのは”積み重ね”。
ドッグトレーニングもまた然り。
分かりやすく「伏せ」を例にとって説明すると…
お座りをさせる
トリート(ご褒美)を持った手を下降させながら誘導する
肩がちょっとでもすくんだら褒めてトリートを与える
これを数センチ単位で更新させながら、且つ犬のモチベーションを保ちながら、毎日毎日繰り返すんです。
#ほらね
#地道でしょ
もう内職に近い感じで完成形まで仕上げていくので、根気がめちゃめちゃいるんです。
でもってもう一つ重要な要素が「創意工夫」。
子供たちだって、みんながみんな公文式で学力が伸びないように、こどもチャレンジが合う子もいれば、学校の授業だけで理解できる子もいます。
したがってドッグトレーナーは、常にPDCAを回しながら仮説と検証を繰り返し、その子が理解できるアイデアを練っていくんです。
「このパターンでは気付きが得られないかぁ…。ではこれを使ってこうやって…」
日常にあるものを用いながら、犬のひらめきを探っていくわけですね。
僕が師事を仰いだ警察犬訓練所の所長さんは、
なんて言ってました。
#なぞなぞを使った頭の体操なんかよくやらされたなぁ
そうそう、そんなお師匠はんですが、僕がはじめて会ったのが20代後半。
師匠は40代だったのですが、年齢不詳の童顔でした。
誰しもが認めるイケメンであったのですが、なぜかずっと髭面だったんです。
その理由が面白くて、
童顔だと飼い主さんにナメられてしまうからね(笑)
前述の通り、ドッグトレーニングは教科書の丸暗記なんかではなく、経験からヒントを見出していく仕事。
そのため、いかに場数を踏んできたかが重要になるわけです。
となると、初対面での見た目(第一印象)が意外と大事なんだそう。
そんな理由から、致し方なくヒゲを生やして年相応に見せていたんです。
そう思ってしまうかもしれません。
でも、これには僕も心当たりがありまして。
はじめて訓練所にお邪魔した際、お師匠はんがこんなことを言ってたんです。
そこで働くスタッフを見ながら、
急なカミングアウトに焦っていると、
はてなマークに襲われている僕を見ながら続けるお師匠はん。
それまでトリマーとして技術だけを磨いてきた僕にとっては衝撃的な一言。
だって、必要なスキルが”人柄”ってことなんですもの。
ドッグトレーナーもまた、”指名”のある職業。
いかに能力が高けれど、飼い主さんの評価が付いてこなければなんの価値もありません。
預かり訓練などでよく言われるのですが、訓練士さんの前ではおりこうさんにできるのに、お家に帰ると元通り…そんな話しを聞いたりしますよね。
これでは本末転倒で、犬に教え込むくらいはプロであれば容易いこと。
しかし、それを本来の飼い主さんにバトンタッチできなければなんの役にも立ちません。
「ドッグトレーナーにとって必要なスキルは”トーク”ですから。」
良い学習、悪い学習、それらを導いているのは、日頃接している飼い主さん。
その飼い主さんに学びを届けられるかがトレーナー最大の責務です。
だからこそ、信用信頼してもらわなければならず、それには関係性がとっても大事。
犬以上に好きになってもらう必要があるため、”説得力”や”おだて力”が必要だったりするんです。
専門学校で非常勤講師も務めていたお師匠はん。
関西人ということもあり、授業ではトークの大切さも教えていました。
#人間社会を例にして話す方法とか
#齋藤がよくやるやつです
ということなので、トリマーにならびドッグトレーナーもまた、接客業であることが分かります。
人ったらしであることが能力になる仕事、それがドッグトレーナーなんです。
ブリーダー編
”にわか”ではありますが、僕の祖母もブリーディングをしていたもので、外からと中から見た感想を述べますと、ぶっちゃけあまりオススメできません。
#それってあなたの感想ですよね
こと齋藤少年に至っては、出産を手伝う度に(子犬✕頭数)分の御駄賃(売上)がもらえていたので、そこそこのお小遣い稼ぎに丁度良かったのは事実。
#すさんだ少年時代だなオイ
しかし、社会人において生活費を稼ぐとなると、なかなかシビアなお仕事です。
なぜならブリーダーは、”割に合わない仕事”だから。
言葉を選ばず表現すれば、”ガチャ”がある仕事なんです。
#言い方よ
女の子であれば台雌(子が取れる)にもなるので高く売れます。
しかし、男の子はよほど色素や骨格等がしっかりしていなくては、さほど価値にはなりません。
#おいおい皮肉がダダ漏れですぞ
ひと腹5頭全員♂なんて、引きが悪いどころの話しじゃないんですもの。
「この子(♂)たちでどう利益を出す(売れ残りを防ぐ)か…」
生まれた瞬間からそんなことまで考えてしまうんです。
そこで利用するのが市場(オークション)だったりして。
#外に出したら大火事な記事
#消化器持ってきてー!
一方、このガチャの確率を最大限にするため、ブリーダーが取る手段が「血統」です。
ドッグショーなどでタイトルを取っている種牡を交配に使い、良血統を生み出すわけですね。
スタンダード(理想)に近い遺伝子であるならば、骨格、色素、サイズ、遺伝的疾患、性格に至るまで”保証”へと繋がります。
ま、それが本来のドッグショーのあるべき姿なのですが。
#この話をすると夜が明けます
生まれてきた子犬を選定し、良血統を積み重ね、ガチャの引きを良くする途方もない仕事…
それがブリーディングの本質です。
#ひとたび選択を誤るとパテラや盲目の個体すら生まれます
長い年月が必要なことから、トップブリーダーの多くは高齢なのも特徴的。
また、後継ぎがいない傾向も強いため、体力気力の面から廃業されるケースが少なくありません。
#交配出産その後のお世話まで相当体力使うんです
なので多くのブリーダーは、トリミングやホテルなんかを副業に、生活費を稼いだりしています。
#ブリーディングが副業となるケースが1番多いかも
ただし、昨今のペットビジネスにおいて大きく舵をきることになったのが「MIX(ハーフ犬)」の登場。
それまでは”負”とされていたイレギュラーを、”世界にひとりだけの”と価値づけたことにより、希少犬種好きの愛犬家にヒット。
そこから怒涛のMIXブースが巻き起こりました。
#この話をすると二徹します
すると血統至上主義だったブリーダー、ドッグショー、ハンドラーにも徐々に影響を及ぼし、今では血統書の価値が紙切れ同然となってしまったわけです。
#一部を除いては
これはこれで時代なわけですが、個人的な想いを吐露すれば、ブリーディングの本質(健康体)に対する行方が気になるところ。
辺りを見渡せば、「パテラ(膝蓋骨脱臼症)」なんては"おまけ"のような状態にまでなっています。
MIXを否定するわけではないのですが、ニーズにかまけてブリーディングを怠っている繁殖家には、いささか憤りを隠せません。
#根本的には僕たち業者が1番悪い
チャーミングな見た目や広告、メディアによるフィルターに覆われて、闇の部分が見えなくなっているブリーダーに、子供たちの憧れが向いてしまってことには正直案じてしまうんです。
願わくば、情報(真実)がいくらでも取得できる昨今、ペット業界が築いてきた負の遺産に若者たちが気付き、業界を根本から変えてくれるような時代に期待したくも思います。
そのためにも、子犬を迎え入れる側の教育が不可欠なのではないでしょうか。
#これから犬を飼う人の相談会があるじゃない
#自分で言うな
まとめ
専門学校の説明会に参加すると、口当たりの良い話ばかりが並びます。
#その一人が僕でした
しかし、大切なのは"夢が叶った(仕事に就いた)後"なんです。
それぞれの職種を本質から見極めることで、多少の理不尽も苦手な分野も人付き合いも、"道半ば"と捉えれます。
だからこそ、ペット業界の明日を担う若者たちには、子供だましのようなことはせず、高い視座を持てるような教育機関であって欲しいと願います。
というわけで、今回の記事が子供たちにとって、ひとつの参考になれば幸いです。
長丁場、お付き合いいただきありがとうございました!
One for Dogが運営する愛犬家たちのコミュニティ
オンラインサロン「愛犬文化村」
愛犬文化村では、One for Dogの活動報告に加え、しつけやお手入れなどに関する記事を毎日書いていて、飼い主さんたちのリテラシー向上をお手伝いしています。
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日本の愛犬家に、正しい知識と必要な技術を
One for Dogでは『これから犬を飼う人の相談会をはじめ』、子犬のサロンデビューを応援する『はじめてトリミング』、飼い主さんと一緒に学べる『しつけ教室』や、飼い主さんのための『お手入れ教室』など、愛犬の成長に寄り添ったサービスを提供しています。他にも、教育機関や公共施設での講演会やドッグイベントなど、より良い愛犬文化の創出に取り組んでいます。
それでは皆さま素敵なドッグライフをお過ごしください。
One for Dog 齋藤でした!
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