わたしはアートを連れ出した~『月へ行く30の方法』レビュー
『月へ行く30の方法』展 最後のレビュー。
2階の展示室で、なにやら長い筒を持ったり、大きな紙を巻き巻きしている人たちがいた。
売店かなにかでポスターでも売っているのだろうか。
後でのぞいてみようかな。
と思って会場内を見渡すと、今まさに大きな紙を手にとっている人を見つけた。
「かもめのジョナサン」を想起した。
大好きな小説の一つ。
何度も読み返した作品。誰かにプレゼントしたこともある。
トレスさんの意図とは異なるかもだけど。
これはいいな。
私の部屋に連れて帰ろう。
1枚手にとり、丁寧に丸める。
ちょうどジム通いにつかっていたリュックだったから髪の毛用ゴムが2本あった、それで留めた。
地下1階の展示では受付で預かってもらえる親切なサービスもあってうれしい。
帰りの電車は寄り道が必要だったけど変な折り跡が付かないよう注意して。
かくして私の部屋に張られたこの作品は、同じように持ち帰った人の家にも飾られているのだろうか。
この作品をそれぞれの場所でそれぞれの見方で味わっているのだろうか。
作者が意図したように、この作品は展示空間から飛び出した。
変わりゆく意味や価値、記憶と忘却など、様々なはざまの関係性や感情の間を移ろいでいる。
トレスさんは1996年に亡くなっている。
トレスさん、30年ほどの時を経ても作品はこうして”現在”を生きていますよ
アートってすごい。