私の「第二の脳」を作る、個人用ナレッジマネジメント
はじめに
みなさん、こんにちは。
この投稿は、裏法務系アドベントカレンダー2024の記事です。昨日のえびさんからバトンを受けまして、本日はクリスマスイブ、24日目の投稿となります!
誰がこの記事を書いているのか?
まず、例年どおり、簡単に自己紹介させてください!
元メーカー法務で、現在は契約書管理クラウドサービス「Hubble」でカスタマーサクセスの担当執行役員(CCO)の山下俊といいます。
私自身、このlegalACの企画には、4年連続4回目の参加になります。
今回のテーマ
この数年、リーガルテック界隈にいる中で、いわゆる「ナレッジマネジメント」に非常に悩まれている法務の皆様が多いことを実感しています。この課題については当社でも色々な事例や解決策をご提示させていただきました。
その一方で、法務人材の流動性が上がり、会社に属する知識・知恵とは別に、個人のナレッジマネジメント(Personal Knowledge Management、PKM)の方法も意外に重要ではないかと思っています。
つまり、ある程度の回数の転職を想定するなら、会社に残す知識・知恵と同じくらい自分の中に残す知識・知恵のことも考えるべきなのでは?ということです。かく言う私も三十余年生きてきた中で、なんとなくEvernoteを使ったり、Mac純正のメモ帳やNotionを使ってみたりしたものの、あまり決まった方法を構築できず、こぼしてきてしまった知識・知恵がたくさんあると思っています。
特に直近では、生成AIの登場で、アイデアの発散・考えの要約が容易にできるようになった一方で、それらのアウトプットが出しっぱなしで置き去りになり、折角のアウトプットを活かして考えを深めることができなくなっていた(追いつけていない)ことに気づきました。今後記憶力も更に低下していくため、きっと自分の脳に残せる情報には限界があることも実感してきているところです(ちょっと悲しいですが…)。
そういった観点から本稿では、改めて生成AI時代における個人のナレッジマネジメントについて自分の試行錯誤の内容を書き記しておこうと思います。私は現職は法務ではありませんが、法務パーソンにおいても汎用的に使える話となるように努めます。
個人のナレッジマネジメントの2つの手法
個人のナレッジマネジメント(PKM)の手法として、代表例の2つの方法を、以下に簡単にまとめます。
①Zettelkasten(ツェッテルカステン)
Zettelkastenは、社会学者のニクラス・ルーマンが考案した、カード型のメモシステムです。特にその特徴は、1つのメモに1つのアイデアのみを記載し、これを関連づけることで、単なる情報の保存ではなく、新しいアイデアの創出を促進する点にあります。
②PARA(パラ)
PARAは、ティアゴ・フォルテが提唱した情報整理の仕組みで、アクションベースで情報メモを以下の4つのカテゴリーに分けて、実際の業務や活動に直結した形で知識を管理できるのが特徴とされています。
Projects:現在進行中のプロジェクト(具体的施策や案件のイメージ)
Areas:継続的な責任領域(私ならカスタマーサクセスやLegal Ops)
Resources:将来的に参照する可能性のある情報
Archives:完了または非アクティブな項目
Obsidianを中心としたPKM
私は、自らが手がけたこちらの記事内で橋詰さんがおすすめされていたのをきっかけに、今年1月からObsidianというノートアプリを中心として、ZettelkastenとPARAを組み合わせたPKMを実施してきました。
私がObsidianを選んだのは、知識や考えが相互に連関して広がっていくことを、UIや機能上でも表現してくれているところが自分の感覚にフィットしたところにありました。(プラスして、業務ではNotionを使っていることもあり、敢えて別サービスをフルで活用してみたいという気持ちもありました。)
メモ同士の紐付けとフォルダ分け
Obsidianでは、バックリンクの形で相互にメモを紐づけることで、従来は困難だったZettelkastenの管理手法を実現できます。これ自体はNotionでも実現可能なのですが、少しユニークなのが、このメモ間の繋がりを、ネットワーク的に可視化してくれる点です。これが私の感覚にフィットしたポイントでした。
そして、自分のメモは、何かの施策に向けてその着想を記載するなど、アクションベースでのメモも多いことから、Zettelkastenに加えて、前述のPARAにしたがって、セクション分けをObsidianの中で実施しています。
他のメディアとの連携
Obsidianはベースの機能に加えて、豊富なプラグインでWebブラウザ上の情報やKindle、YouTubeなどから得た情報も連携して、メモの形式で集約できます。
特にリーガルテックやカスタマーサクセスといったテーマで先に進んでいるとされる米国の記事が貴重な情報源になることもありますが、deeplなど翻訳ツールと組み合わせることで、日本語訳されたWebサイトをそのままメモとして取り込むことも可能です(同様のことはNotionでも実現は可能です)。
生成AI時代のPKM
こういったPKMは、いわば自分の外部脳「Second Brain:第二の脳」を作ることがコンセプトとされますが、もはや生成AIが第二の脳になり得、上述したナレマネすら不要なのではないか、とも思ったりします。
確かにChatGPTやClaudeなど生成AIの登場により、アイデアの発散・考えの要約などの取り組みは劇的に変化しました。ただ、むしろこうしたアイデアの発散や考えの要約は、「自分がここまで調べ、考えた」というログをベースとして深めることにより、発展性を持つことになります。このため、むしろ生成AIをより上手く使うためには、依然としてPKMが必要ということになると考えています。例えば生成AIとPKMとは、以下のような役割分担になると思われます。
生成AIの活用領域:
一般的な情報の検索と要約
基礎的な概念の説明
アイデアの初期展開のサポート
過去の思考履歴をベースとした思考の発展
Zettelkastenなど個人のナレッジマネジメントの活用領域:
個人の経験や気づきの体系的な整理
専門分野における深い知見の蓄積
ちなみに、Obsidian上では、CopilotというPluginを使うと、右側にGPT-4oやClaudeを立ち上げて、メモの内容を参照して生成AIに質問を投げたり、生成AIの回答をメモとして取り込むことも可能です。
PKMを実践してみて良かったこと
PKMを実施したこの約1年間で、いくつかの明確な効果と課題を実感しています。
良かった点
最も大きな成果は、様々な媒体から得る情報の一元管理とその情報の結びつけを実現できたことです。WebやPDF、更には動画など様々な媒体から得る、これまで散在していた情報が他の情報と結びつく形で一箇所に集約され、自分の思考の外縁(既に考えたことと、まだ考えていないことの境界)を知ることができるようになりました。特定の論点について、ここまでは考えた、というログを残しておくイメージです。
そして、生成AIとの組み合わせで特筆すべきは、自身と生成AIとの思考プロセスを記録として残せるようになったことです。記憶は時とともに曖昧になりますが、生成AIを使いながら実施した過去の検討内容や結論に至るまでの経緯を、確かな記録として振り返ることができる安心感は想像以上に大きなものでした。さらに、生成AIとの組み合わせにより、考察の際の視点がより多角的になり、思考の網羅性が向上したと感じています。
これからの課題
一方で、課題も見えてきました。生成AIとの連携はまだ発展途上で、より効率的な統合の余地が残されています。加えて、現状では意識的な保存作業が必要な部分が多く、より自動的に情報が集約される仕組みの構築が今後の課題です。
おわりに
私は、学生時代に、時代や地域、更には経済や文化など世界のありようが様々な側面から結びついて成り立つ、世界史という科目に非常に魅力を感じていました。こうした背景から、ただ最初から最後まで読み通すのではないく、まさにバックリンクなどを使って、関連する歴史的事象を自由に行き来して関連づけて読み進められる世界史の「電子教科書」を作ってみたいとすら思っていたこともありました。
今実際に世界史の教科書がどのようになっているのか、自分は必ずしも認識していませんが、あの時に思い描いた、情報や知識・知恵が有機的に結びつくことを身近に実感できる時代がやってきた感じがあります。
そこへ来て、生成AIで自らの考えも従来とは比べ物にならないほど拡張できるようになりました。ただ、ここから生まれた知識・知恵をどのように自分の中で消化するのかは依然として自らに委ねられています。私はその手段としてPKMを用いて「極めて自分向けの教科書」を作っていこうと思います。
最後までご覧頂き、ありがとうございました!
明日は、いよいよ裏法務系アドベントカレンダーの最終日。msut1076さんにトリを飾って頂きます!