ラジオのトークを書き起こしてみて、失われるものと現れてくるもの
Jロッカーって凄いね、なんかね。あんま、うん。
プロになりたいってことですね、ミュージシャン、うん。
そうか、まぁ、やりたいことをやるのがいいと思いますけど、でもやっぱ勉強をした上でやれるのがいいんでしょうね。自分はしてなかったですけどね勉強はね。
学校には行ってましたけどね。
でもまあ3年になったあたりでライブハウス出てたので、早退してましたねリハに間に合わないから。それが嬉しかったですけどね、そのリハに行かなきゃいけないから早退するっていうのが。
でも実際はノルマ取られてね、お金払って厳しい状態でガラガラのお客さんの前でやってるんですけど。
そんときゃ楽しかったといえば楽しかったけどな。うん。
大変ですよでもほんとに。なんか。
なれる可能性はかなり低いしね。だから頑張れとはあんまり言えないな。
めちゃくちゃ才能があってダメだった人もすごい知っているので。自分に才能がめちゃくちゃあったとも思ってなかったしその当時。運もあるし。
嫌なことのほうがほんと多いです。でもどうにかなったらそれを面白おかしく話したりできるので。やっぱりね、大変、ほんと大変。
頑張って欲しいですけど。やりたいことをやるのが一番です最終的に。誰かのせいにしないことですね。誰かのせいにしてしまいそうな決断を省いていけばいいと思います。
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トークを文字起こしすることによって、そのときに喋っている声のトーン、リズム、スピードといった、口語表現に纏わるニュアンスが失われます。特にこのような、リスナーからのメールによる悩み相談の場合、出演者はその相手に向かって言葉を選びながら誠実に向き合おうとするので、それが喋り方に現れて、その気持ちがリスナーにも伝わってくるのですが、それが文字にするとごっそりなくなってしまいます。
文章にしたときに代わりに立ち上がってくるのは行間です。時間の経過とともに流れてしまうものを掬い取って、気の済むまで眺めてみる。そこに何かしら面白いものが潜んでいるかもしれない。
逆に言えば、聞いていて、何かが隠れていそうな予感がしたときに、僕は文字起こしをしてみるのです。山の中をハイキングしていて、ふと立ち止まって意識を張ってみて、何かを感じようとする行為に似ています。
岡田斗司夫さんがよく言うように、「お悩み相談」には、文面には出ていない相談者の内心が隠れています。そこを読み解くのが面白い。
今回の相談者の内面を深読みすると、まずこの方はバンドが楽しくてしょうがない、そのことで頭がいっぱいで、隙あれば誰かれとなくそれを伝えて回りたい、そんな感じなんだろうな、と思いました。
そもそもバンド音楽というものが、人間の喜怒哀楽を大声で叫ぶようなものなので、このお悩みメールそのものもロックバンド的表現だと思います。そして特に気持ちを伝えたかったのが、憧れのミュージシャンであり、かつて、今の自分と同じように音楽に熱中していただろう、尾崎世界観さんだった。
何かしらの回答を出すなら、尾崎さんのように「やりたいことをやるのが一番、誰かのせいにしないこと」という抽象的なことしか言えない。時として、具体的なアドバイスや解決方法よりも、このトークのように、お互いに共感すること、相手と感情を共有することのほうがよほど大切だろうな、と思いました。