薫香物語 第2章
華々しき獣
(あらすじ)
この物語は、あらゆる神獣や鬼が現世にいた平安時代。
令和時代から転生した女性の愛(まな)、
麝香(ムスク)の香り漂う鬼の青黒(しょうこく)、
柑橘(シトラス)を香り放つ龍の王龍(ワンロン)、
薫衣草(ラベンダー)が芳しい一角獣(ユニコーン)の一角(ひとづの)、
の、穏やかな1妻3夫の物語である。
久しぶりの休み。
4人は、屋敷の裏手にある、小山で、昼食をとった。
時期はちょうど、桜の散り際から、若葉が茂り始めのこと。
枝垂れ桜が、風に揺られて、薄緑と薄桃色の美しさがより際立つ。
「王さんの、お弁当、美味しかった。」
うーんと、愛は座ってまま、背伸びした。
全員、王龍お手製の、ふきのとう、きのこ、タンポポの天ぷら、蕨の煮付け、玉子焼き、塩むすびをたらふく食べて、ご満悦である。
「本当に、今日は、いい日和じゃの〜」
そう言う青黒は、四六時中、愛を膝枕にしながら、朱色の盃に、桜の花びらを浮かべた白酒を飲み干す。
「まな様、この近くに、蓬やオオイヌノフグリが咲いている平地があるので、一緒に観に行きませんか?早ければ、山ツツジも咲いているかもしれません。」
一角の誘いに、愛は胸をときめかして頷く。
「えー。まぁ、もうちょい、わしのそばにおってくれんかー。」
「ずっと、お前がまなにしがみついていたら、まながしんどいだろうが。」
不貞腐れる青黒に、王龍は、クイっと瓢箪の酒を一気に飲み干す。
「なんじゃ、王(おう)、何なら、わしと酒の飲み比べやるか」
「ほほう、昨晩は飲み潰れた鬼が、また挑むとは。望むところよ。」
いつもの飲み比べ対決が始まると、もう誰にも止められない。
一角は、二人に失笑しながら、一角獣の姿になる。
「あの二人はほっときましょう。さあ」
愛は、言い合いする二人が酔いすぎないか、少し心配になりつつも、一角獣の背に跨った。
ひと蹴り、妻を乗せた一角獣は空を翔け、少し離れた平地に降りた。
野山の中にある小さや平地には、深緑の蓬が茂って、オオイヌノフグリの淡い青が一面を飾っている。
「きれい。」
きれいな草花の美しさに、息を飲む。
持ってきた竹の籠に、柔らかい蓬の葉を二人は摘んでいった。
「これぐらいたくさん採れたら、薬やお茶の他に、王さんに蓬餅や天ぷらにしてもらえるね。」
籠いっぱいなった蓬を見て喜ぶ妻の顔を見て、人間に戻った夫はつられて微笑まずには、いられない。
「そうですね。それに、これは、あなたに。」
一角は、そういうや否や、愛の右のこめかみをかきあげ、ツツジの花をかざした。
いつの間にか、一角が愛のために摘んできたのである。
「一(いち)さん。ありがとう。」
鮮やかな濃い桃色の花びらからは、ほのかに甘い香りがする。
一角は、妻のこめかみに花をかざした手で妻の頬を撫でる。
「まな様」
常に麗しい瞳で見つめる夫は、ことの時ばかり、愛おしい妻への愛欲が襲ってきた。
「一さん。」
愛は、撫でてくれる手を握りながら、そのまま、夫の胸に寄りかかる。
微風にのり、春の草花と共に、薫衣草の香りが、愛の心を落ち着かせる。
やがて夫婦は互いに抱擁を交わしながら、蓬の褥で横になった。
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