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AIは知っている

◯とある会社の屋上
   休憩しているAの元にBがやってくる。
A:おやあ、営業1課のエースじゃないですかあ。
B:やめろや。何観てんの。
A:『ダンダダン』。おもしれー。
B:へー。
A:それより聞いたよ。6カ月連続で社内の売上最高記録更新中なんだっけ。
B:おかげさまで。
A:すごいねえ。何か裏でやってんだろ。
B:まあね。
A:マジ?教えろよ。
B:やだよ。
A:別に俺に教えたところで部署違うし関係ないじゃん。
B:それもそうだけどさ、いうても機密情報だし。
A:じゃあ、俺も秘密教えるからさあ。
B:ほーん、何系?
A:経理のリコちゃん。あの人とデキてるんじゃないかっていう噂を聞きましてねえ。
B:なにそれ!
A:聞きたい?
B:聞きたい!
A:めっちゃ食いつくじゃん。
B:だってあのリコちゃんでしょ。誰も見たことないっていう。
A:そうそう。社内のプロフィール画像がめちゃかわいいけど、実際に本人を見たことある人は誰もいないっていう幻の社員、リコちゃんでございます。
B:そりゃ聞きたいって。
A:じゃあ、まずお前の営業の秘訣教えろよ。
B:わかった。まあ、簡単に言うとAIを開発したんだ。その名もアイ。
A:え、すご。名前、ださっ。
B:うるせえな。俺は昔から優柔不断がすぎるから、何でもアイに決めてもらうことにしたの。
A:はあ。
   スマホを取り出してSiriみたいに使うB。
B:今日のごはんは何がいい?
アイ:冷やし中華、ナン、しめ鯖です。
A:組み合わせ終わってんじゃん。
B:いんだよ別に。今日のごはんを食べながら観るのにおすすめの動画は?
アイ:『ウォーキング・デッド<シーズン4>第8話』です。
A:前後わかんないとおもしろくないだろ。てか食事中にゾンビとか観たくないし。
アイ:ゾンビというかウォーカーです。
A:うるせえな。聞こえてんのかよ。
B:とにかく、こんな感じ。何でもアイに聞いて、返ってきた答えを忠実に実行するだけ。
A:ほんとかよ。高倉健の年収は?
アイ:……(無反応)
B:あー、だめだめ。俺の声紋で登録してあるから、ほかの人は使えないの。
A:さっき反応したじゃん。
B:間違ってるのが許せなかったんじゃない?
A:なんか癪だな。でもさ、これを仕事でどう活かしてんのよ。
B:うーん、たとえば……来週、円谷コーポレーションか西村エレクトロンにアポ取ろうと思うんだけど、どっちが良い?
アイ:西村エレクトロンです。
B:よし。
A:よし、じゃねえだろ。何でだよ。根拠がないとダメじゃん。
B:聞いてみようか。理由を教えて。
A:できんの?
アイ:西村エレクトロンがおすすめの理由は以下の通りです。1.前回のアポイントから明後日でちょうど90日となるので、前回施策の振り返りや改善点をもとに新規の商談がしやすい。2.前期のキャンペーンの予算が700万円未消化でプールしてある。3.今期、山岸部長の成績が低迷していて新規提案を求めている。以上のことから西村エレクトロンをおすすめします。
A:すご!先方の予算状況とか営業成績までわかるの?
B:まあね。
A:えー、うそだろ。やば!
B:内緒だからな。
A:これ会社で共有したら結構すごいことになるんじゃない?
B:いやいや、コンプラ的にはアウトなんだよ。こちとら独自のプロトコルをかましてイントラとか違法サイトとかダークウェブとかいろんな裏のデータベースにアクセスして情報引っ張ってきてるからね。
A:そうなんだ。
B:まあ、悪用せず健全に使えば問題ないだろ、てことで。
A:大したもんだな。
B:このアイを開発してからは資料の要約も企画の提案も、挙句の果てには接待の準備までぜんぶ完璧。何から何まで驚くほど、うまくいっちゃって。
A:ほえー。
B:絶対言うなよ。
A:言わないよ。
B:なんか言いそうだな。杉山は言うと思う?
A:AIに聞くなよ。
アイ:言わないと思います。
A:本人が言わねえ、つってんだろ。
B:理由は?
アイ:技術開発部のエンジニアである杉山氏は営業1課とほとんど接点がなく、仮に報告をしたところで証拠もありません。社内に混乱を起こすリスクを冒してまで、彼自身が得られるメリットはないと考えられるからです。
A:大正解。すごいねえ。
アイ:また、仮にリークしたとしてもアプリのセキュリティシステムによって、この情報が流出する可能性は0.7%しかありません。さらに、杉山氏は現在開発中のサービスが当初のスケジュールより大幅に遅延しており予算も超過しそうな現状にあるため、上司とのコミュニケーションは極力避けたがっていると推測されます。
A:そこまでわかるのかよ!こわ!
アイ:油を売ってないで一刻も早く仕事を進めるべきです。
A:できたらやってるわ。黙っとけ。
アイ:かしこまりました
A:言うこと聞いてんじゃねえか。
B:とまあ、俺の秘密はこんなとこ。
A:ビビったわ。すごいな。
B:次はお前の秘密教えろよ。
A:あー、リコちゃんの話な。
B:そうそう。
A:まあ、あくまで噂なんだけど信頼できる筋からの情報で。
B:一気にキナ臭くなったな。
A:いや、だいぶ近しい人からのタレコミよ。
B:ほお。
A:リコちゃん先月、休暇取ってたじゃん。あん時に、野崎の出張に同行してたって話。
B:おえ、マジ?
A:つまり、プライベートで出張に付いていったということは、そういう関係なんじゃないのっていうね。
B:なぬうううう、野崎って誰よ。
A:俺の上司。
B:ええー!リコちゃんと野崎の関係を教えて。
A:AIに聞くなよ。
アイ:二人は不倫をしている可能性があります。
A:ええー!
B:りり、り、り、理由は!?
アイ:リコちゃんさんがLINEをしている相手は84%の割合で野崎さんとなっています。ほかにも、先月の旅行の滞在先が野崎さんと同じであることや、SNSの画像解析をしたところ野崎さんとの類似点が多く見られます。
B:ま、マジか……
A:衝撃事実の発覚だな。まあ、あくまで可能性の話だし。真に受けなくてもいいっしょ。
B:いやあ、ラッキーラッキー。
A:へ?
B:このネタで野崎をゆすって何かの案件を回してもらえば、売上1000万達成も見えてきそうだな。
A:おま……てかこのAIすごいな。
B:だろ。
A:こんだけすごいの開発したんだったらさ。
B:おお。
A:独立したら?起業とかさ。
B:はあ。
A:何の事業するにしても、このAIがあればうまくやってけそうじゃん。ボロ儲けでしょ。
B:まあなー。
A:そしたらエンジニアも必要になるだろうからさ、俺も手伝うというか。
B:すでにやってるからね。
A:うえええええ!?
B:法人の名義は一応別の人にしてるけど、そこそこうまくいってんだよ。
A:すご。
B:誰にも言うなよ。
A:ちな売上は?
B:50億ぐらいは見込めそうな感じ。
A:え、やば。うちの倍以上あるっしょ。
B:倍どころか軽く6倍ぐらいはね。
A:げええええええ、雇ってくれよおおおお。
B:やだよ。バレるだろ。
A:もうこの会社にいる意味ないじゃん。そっちに専念したらいいのに。
B:そうだなあ。明日にでも退職願出すかー。
A:決断はや。
B:たしかに、もはやこの会社にいる意味なくなったわ。
A:まあな……て、え?
B:リコだよ。実は約束しててさ。
A:へ。
B:この会社で一番の売上を叩き出して営業のトップになれたらデートしてくれって。
A:……えええええええ、急展開。
B:それなのに……それなのに……
A:うーわー。何ていうか。きっついな。
B:この会社で働く意味どころか、もう何もかもやる気なくなったわ。
A:待て待て待て待て。
   手すりから身を乗り出して飛び降りようとするB。
A:おい!
B:売上とか昇進とかどうでも良くなっちったよ。
A:へいへい、落ち着けって。
B:あとは適当にやってくれ。アイはお前が使っていいからさ。
A:やったサンキュ。あ、でも俺は使えないんだろ。いや、そういうことじゃなくて!
B:みんなによろしく。
A:やめろやめろ。話聞けって。
B:いい、いい、もうそういうのムリだから。
A:ちょ待て!最後に!マジで!
B:いいってば。
A:リコはそんなことしてないって!
B:気休めはいいよ。勘弁してくれ。
A:俺はわかるんだ!絶対してない!100%!確実に!
B:ありがとうな。
A:間違ってたらうんこ食ってもいいから!
B:ガキみたいなこと言うな。最後に聞くセリフがうんこって悲しすぎるわ。
A:だろ、だからとにかく聞いてくれ!
B:そこまでいうなら、何だよ。
A:俺なんだよ。
B:へ?
A:リコはさ。あの、実は……
B:お前、まさか……リコと付き合って……
A:……
B:それはそれで……!
A:リコをつくったのは、俺なんだ。
B:……は?
A:リコは経理部の業務効率化のために開発したAIシステム「経理子」つってな。
B:……嘘だろ。
A:名前はそこからK-リコにして、社内のプロフィールやアイコンはすべてAIでつくった架空の人物なんだよ。
B:嘘だ、嘘だ……
A:野崎の出張に同伴したのはシステムの大規模メンテナンスとパーツ交換が必要だったからだし、LINEのやり取りは野崎からの指示や連絡がほとんどだったから当然だろうな。
B:ウソダロ、ウソダロ、ウソダロ。
A:たしかにリコのチャットボット機能は社内でも好評なんだよ。つってまさか恋愛感情を持つやつがいるとは思わなかったけどな。
B:ウソウソ、ヤメテ、ヤメテ、オネガイヤメテ。
A:お前のAIもなかなかすごそうだから、今度詳しく教えてくれよ。
B:ヤメテクダサイ、ヤメテクダサイ。
A:ああ、でも名前は安直すぎるから考え直した方が良いかもな。
B:ちょっと待って、アイ、この話は本当?
アイ:本当です。
B:知ってたんなら早く言えよ。

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