100本目の浮気
A:ちょい相談。
B:ほい。
A:恋愛物でさ。
B:へー、珍しいじゃん。
A:いやあ、昔のアイデアだから詰めが甘いのも否めないんだけど。
B:言い訳はいいから。プロは書いたものがすべて。
A:きびし。
B:そういうもんだろ。
A:お前が言うな、て話ではあるけども。
B:そーれはお互い様じゃない。はい、デクレッシェンド。
A:なにそれ。
B:「徐々に弱く」て音楽記号さ。
A:あー、聞いたことあるかも。長い不等号みたいなやつよね。
B:そうそう。この不毛な話は少しずつボリューム絞ってなかったことにしよう、てね。
A:説明しなきゃいけない時点でアウトだよ。
B:やっちまった。
A:若干のインテリ臭というか嫌味な感じもあるし。
B:バレた。頭良く見られたいの。
A:しょうもねえな。
B:待て何の話だよ。お前の相談だろ。
A:そうそう。えとね『100本の浮気』。
B:お、売れなさそうな作品にありがちなタイトル。
A:やめろ。早くも心折れそうだわ。
B:大事なのは中身だから気にすんな。かもん。
A:だよな。タイトルは最後に熟考するとして、とりあえず聞いて。
B:はよ。説明は140字以内な。
A:Twitterかよ。
B:Xだよ。
A:うわ。すまん。
B:おじさんじゃん。アップデートしろって。
A:そだな。
B:若者に迎合しろとは言わないけど、時代には合わせとけ。
A:ごめんごめん。
B:で、どんな話よ。
A:えと、結婚間近で同棲中のカップルなんだけど、男はめちゃくちゃ浮気してる。
B:ほう。
A:男は浮気をするたびに、せめてもの罪滅ぼしとしてアイスを買って帰るの。
B:ほう。
A:なんつーんだろ、棒付きアイス。ガリガリくんとかホームランバーみたいな。
B:こまけーな。別に何でもいいだろ。
A:まあまあ。で、ある日のこと。また性懲りもなく浮気をした日にアイス買って帰ったら、彼女がそわそわし始める。
B:ほう。
A:やべ、気付かれたかと思って焦るんだけど、実は違うの。
B:ほう。
A:彼女がサプライズでプレゼントをくれる。
B:ちょ、なげーな。
A:もう終わるから。
B:ほう。
A:プレゼントていうのも、彼女はアイスの棒をひそかに取っといて数えたのね。それが今回で100本溜まったから、お返しにってことで彼氏にプレゼントをくれるわけ。
B:ほう。
A:自分は100回も浮気したのに、彼女はずっと健気に優しくしてくれる。そこで男は心を入れ替えて、突然のプロポーズ。
B:ほう。
A:ていう。
B:へ。
A:へ。
B:おしまい?
A:おしまい。
B:うそん。
A:え、だめかな。
B:だせえ。きもい。センスない。やめちまえ。
A:そこまで言う……?
B:大体、アイスの棒を取っておくってのが現実味ないし、重いし、ていうかサイコみあるし。
A:それもそうかあ……
B:彼女の無邪気な姿で感動させたいんだろうけど、アホかと。
A:ダメですかねえ。
B:男目線では都合良すぎておもしろくないし、女目線でも浮気男への苛立ちでおもしろくないし。どっちにしろおもしろくない。
A:だいぶ全否定。
B:コロッケかと思ったらカキフライだった。……で?ていう。
A:たしかにカキフライだー!いよっしゃあああ!!てならないもんね。
B:このレベルで誰かが感動するだろうと期待しているのであれば一生、不協和音の中で暮らした方が幸せだろうよ。
A:よくわからんけど、わかった。もう勘弁してくれ。
B:作品に仰々しいメッセージとか教訓とかは込めなくて良いけど、何したいのかわからんぞ。
A:いやまあ、展開のサプライズというか、悔い改めて身近な大切な人の存在に気付くというか……
B:うるせえ。身の毛がよだつわ。地獄に落ちろ。
A:だよな。
B:大体、脳内で勝手にイケメンと美女に変換してるだろ。
A:たしかに。ジャニーズの子と長濱ねるのイメージだったわ。
B:ジャニーズって言うな。だからアップデートしとけよ。
A:やべ、つい癖で。
B:嫌なタイプのおっさんじゃん。
A:こういう恋愛ものはダメだな。
B:ダメだ。ダメすぎる。☆1でももったいないよ。
A:やっぱ向いてないな。
B:つって、恋愛ものの執筆依頼が来たらどうする?
A:やるよ。
B:やるんかい。
A:長濱ねるは俺のもんだ。
B:話変わってくるからやめろ。