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ハンバ

A:これやったら絶対売れるぞ、ていうビジネスのアイデアがあってさ。
B:景気の良い話ですな。
A:ハンバ。
B:ハンバ……?
A:みんな大好きハンバーガーあるじゃないですか。
B:その「あるじゃないですか」て嫌いなんだよな。うるせー。
A:まあまあ、聞いてよ。
B:みんな大好きかもわかんないし。
A:コンセプトは良いと認めます。
B:何だよコンセプトって。
A:食事としての軸というか、核となる考え方というか。
B:ちょいちょい、意味わかんないわ。
A:お肉をパンで挟もう、ていう企画意図は明確だし、競合とも差別化を図れるから良い着眼点だと思うわけ。
B:食事の世界にも競合てあるんだ。
A:でもね、ユーザーエクスペリエンスという点では改善が必要だね。
B:さっきから小難しいことばっか言いやがって。
A:要は、食べづらい。
B:あー、そうね。言われてみれば。
A:お口がっばーて開けなきゃいけないし、噛んだところで中身がポロポロこぼれてきちゃう。
B:はいはい。
A:そんな経験、あなたにもありませんか?
B:だからうざいんだって、いちいちこっちに同意を求めるな。
A:ベンチマークのA社やH社と比べて、食べづらいのは確かでしょう。
B:何だよA社とH社って。
A:アメリカンドッグ社とホットドッグ社だよ。
B:競合他社みたいに言うな。
A:ステークホルダーに迷惑をかけるわけにはいかないからさ。
B:余計な配慮は逆に失礼だぞ。
A:特に業界トップのS社は圧倒的だからさ。
B:S社?
A:寿司社ね。
B:寿司かよ。
A:やっぱ魚とごはんを一口で食べられる、っていうコンセプトは秀逸。
B:そんなん考えたことないわ。
A:おにぎりも良いよね。ごはんとおかずを一緒に食べられるようにしよう、そして手が汚れないように海苔を使おう、ていう。
B:知らねーよ。
A:でも一口で食べられないし、結局海苔の部分を持ったところで手は汚れるからね。
B:たしかにそうだけどさ。
A:コンセプトは良いけどエグゼキューションでつまづくのはよくあることだから。
B:その中途半端なカタカナ用語やめた方がいいって。
A:つまるところハンバーガーはおいしいのに、ほかの食べ物に比べて絶望的に食べづらいことがネックなわけ。
B:でもほら、ハンバーガーだって汚れないように大きめの包み紙があるじゃん。
A:こぼれることを前提としたプロダクトなど、そもそも破綻していると言わざるを得ない!
B:食べ物をプロダクトって言うやつ初めて見たよ。
A:ある種のゼロトラストというか。レジリエンスを重視した設計思想という意味では興味深いけどね。
B:何言ってるかわかんない。ビジネスにかぶれすぎだろ。
A:食事は栄養摂取の目的や味わいというエンタメ性が重要なのはもちろんだけど、機能的かつ合理的なUSPをアピールしてブランディングしていく必要があるわけ。
B:あーもう、うるさい。
A:タピオカやらマリトッツォやらを見てみなさいよ。レッドオーシャンの中、新規性とマーケティングだけでは生き残れないって話。
B:ハンバーガーは十分生き残ってんだよ。お前ごときが偉そうに語るな。
A:ともかく、僕はハンバーガーの食べづらさだけが気に入らないのよ。
B:そうなんですね。
A:そこで考えました。
B:いよいよ本題ですか。
A:はい。
B:ごめんなさいね、だいぶ長くかかりましたけども。
A:お待たせしました。
B:はい、いきましょう。
A:パンの厚みを半分にします。
B:「バンズ」な。
A:でも、お肉の厚みはそのまま。
B:「パティ」な。
A:うるせ!
B:ハンバーガー用語だろ。
A:初めて聞いたわ。
B:割と言うから。ビジネスやるなら調べとけ。
A:じゃ野菜は何て言うんだよ。
B:野菜は野菜だよ。
A:うわ。でた。
B:しょうがないだろ。
A:ここにもハンバーガーの致命的な欠陥があったわけですな!
B:大した欠陥じゃないって。
A:我が新規事業の足を引っ張るような無能は要りません!
B:好きにしてくれ。
A:思い切って野菜をなくすことで大幅なコストカットを実現しました!
B:目的それだろ。
A:ともかく、パンの厚みは半分だから、かぶりつく必要はなくなるわけ。
B:まあ、そうですね。
A:さらに、X軸とY軸に対するZ軸も従来の半分にします。
B:また何言ってるかわかんない。
A:いわゆる奥行きです。
B:何だよハンバーガーの奥行きって。
A:つまり、ハンバガーの。
B:ハンバガーて何だよ。
A:ごめん、これは素直にタイピングミス。
B:いいから先進めよ。
A:ハンバーガーの直径も半分にします。
B:ほお、全体の大きさをコンパクトにするのね。
A:その通り。早い話が、従来のハンバーガーより縦も横も半分のサイズにします。
B:そうなるね。
A:「ハンバーガー」の半分、だから「ハンバ」。
B:なるほど「ハンバ」。
A:これなら口を大きく開ける必要もないし、中身がこぼれたり手や口の周りが汚れたりする心配もない。
B:そう言われたら確かに合理的かもしれん。
A:一口サイズで食べやすく、見た目もちょこんとしててかわいい。
B:なんか女子にウケそう。
A:価格も半額。
B:おー。
A:お店のテーブルやイス、トレイとかも全部、半分サイズ。
B:はは、それはインパクトあっておもしろいかもな。
A:インスタ映えーの、バズりーの、チルいーの、エモいーの。
B:全部おじさんにとって遠い響き。
A:マジ卍。
B:それはさすがに古いってわかるわ。
A:店員はみんな、センターマンみたいな制服。
B:懐かし!でも半裸だから制服として成立しないだろ。
A:そっか。じゃあ、あしゅら男爵タイプ。
B:わかるかなー、2人の人間が左右で半分ずつになってる、みたいなね。
A:これでZ世代からマジンガーZ世代まで注目されること間違いなし。
B:くだらねー!!
A:え……?
B:はい?
A:おもしろそうだけど、カロリーが心配だって?
B:聞いてないです。
A:半分サイズだから当然、カロリーも半分!ダイエット中のあなたも安心!
B:急に通販みたい。
A:そもそも、やせようと思ってるならチマチマとカロリーを気にするより歩いた方がいいぜ!
B:話変わってくるから、やめましょう。
A:ともかく、絶対成功すると思うんだけどなあ。「ハンバ」。
B:だったら自分でビジネスやりゃいいじゃん。
A:いやー、副業禁止だし。
B:ビビってんじゃねえよ。つまんねーやつだな。
A:どこぞのM社がアイデア買ってくれないかな。
B:マクドナルドが乗ってくるわけないだろ。
A:いやいや、三菱商事とかさ。
B:ビジネスなめんな。
A:遊び心を理解してくれるB社ならワンチャンありそうじゃない?
B:バーガーキングな。それもねえだろ。
A:いや、ベネッセあたりがさ。
B:チャレンジすぎるだろ。
A:そうかなあ。
B:自分で事業やらないんだったら所詮そのレベルの話だよ。しょうもない。
A:いやあ、実は「す」のビジネスで手一杯だからさ。
B:「す」?
A:従来の「寿司」をサイズも価格も半分にして手頃に楽しめるようにした「す」。
B:絶対成功しねーわ。

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