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売れた

A:あれ、何食べてんの。
B:ばかうけ。
A:あらー、いいですね。
B:よかったら。
A:おえ、ども。珍しい。
B:いっぱいあるから。
A:なぜ急にばかうけ。
B:CM。
A:ほお。
B:ザコシのCMがめっちゃいいんですわ。
A:あそうなん。
B:観てない?
A:ちょっと存じ上げないです。
B:ではリンクお出ししておきますね。
A:はえ。
B:ビーイーエフシー……
A:読み上げるスタイル。
B:ウソですよ。こちらです。​​https://befco.jp/bakauke_pr2024/
A:あらご丁寧に。つって漫才の時どうすんだよ。
B:もともとザコシが好きでさ。
A:嫌いな人いないだろ。
B:いるだろ。割と好き嫌い分かれるタイプだっつの。
A:まあ、俺も尊敬する先輩の一人よ。
B:俺もそんな詳しいわけじゃないけどさ、身体張って、人のために笑いやってて、常識やルールに縛られないスタイルは最高だなって思うわけ。
A:だったら「さん」をつけろよ。ザコシさんだろ。
B:いやいや、これは戦略的な「さん」なしよ。
A:何がさ。
B:あれでしょ「さん」をつけないと失礼って言う。最近話題にもなったけど。
A:そりゃそうだろ。同じ業界というか先輩だし、「さん」つけるのは当たり前だろ。
B:有名人はたいてい呼び捨てになるよ。大谷翔平とか織田信長とかみんな普通に呼び捨てじゃん。
A:ニュースとか教科書で呼ぶのと、こういうとこで名前を出す時では意味が違うっていうか。
B:「さん」をつけると勝手に自分と親しい間柄を匂わせるというかさ。
A:誰も思わんて。
B:究極のこと言うと、天皇を「さん」で呼びやしないだろ。
A:全然別の話だろ。「さま」なんだから。
B:そっか。とにかく自分とザコシが近いわけじゃないから、憧れの有名人としてあえて「さん」なしのザコシよ。
A:どうかなあ。
B:そこまで気になる?
A:なるよ。相方が先輩をザコシ呼ばわりしてるなんてヒヤヒヤしちゃうもの。
B:じゃザコシさだな。
A:何だよそれ。
B:ザコシとザコシさんの間を取ってザコシさ。
A:もういいよ。とにかくザコシさんが好きって話ね。
B:も一つあって。
A:何よ。
B:最近『パッチ・アダムス』観たのよ。
A:有名なハートフル映画ね。
B:一応これもリンク貼っとくか。日本語の公式サイトがなくてAmazonのページでしかも長いから短縮URLにしちゃって恐縮ですけども。
https://x.gd/ogeSr
A:だから漫才の時どうすんだよ。
B:漫才する機会ねえだろ。
A:じゃいいか。
B:それはいいとして、映画の中でザコシさが持ってるメガネみたいな、目玉がぼろんと落ちるびっくりメガネが出てきたの。

A:あのパーティグッズみたいな。
B:そうそう。そこでビビッときたのよ。
A:ほえ。
B:ザコシで『パッチ・アダムス』をリメイクしたい。
A:あー、なるほど。めちゃおもしろそうだね。
B:ザコシのキャラクターイメージとパッチ・アダムスの精神がばっちり重なるしね。
A:いいじゃんいいじゃん。やってくれよ。ぜひ観たい。
B:ていう話。
A:……
B:……
A:へ?
B:何さ。
A:んだよ。終わり?
B:そうよ。
A:つまんねー。やりたい、てだけかよ。
B:ええ。現実問題さ、別にあたしは脚本家名乗ってnoteにネタ書いてるけどテレビや映画の仕事したことないし。
A:そうかもしんないけどさ。
B:芸能界にコネがあるわけじゃないし。
A:実はいるんですけどね。
B:そうか、親戚に一人映画監督がいたか。
A:その人に頼めばいいじゃん。
B:いや作風とか全然違うし別に相談する間柄でもないし。
A:クラファンはどうよ。みんなに声かけて協力してもらいながら、お金と人を集めてやるってのもなくはないんじゃない?今っぽいし。
B:やだよあんな意識高いプロジェクトにしちゃったら。こっちはノリと勢いでやるだけなのに。
A:じゃどうすんのよ。
B:どうもできないて。俺には何もないからさ。
A:難儀ですな。
B:金もコネも実力も。俺には何もない。
A:いやー、でもさ。
B:何よ。
A:こういうのって、思いがけないところで本人に届いたりするんじゃないの。
B:そうかなあ
A:そうよ。SNSでDM送りまくって自分を売り込む人もいるし、超有名人が気まぐれにシェアして爆発的に売れることもあるわけだし。
B:そんなんウルトラレアケースだろ。
A:とにかく、やりたいなら何か行動しないと。
B:そうだけどさあ。
A:ザコシさん本人は「ええやんええやん」て言ってくれそうだけどな。
B:なめすぎだろ。
A:絶対言うって。
B:仮に本人が「ええやん」てなっても映画作るにはもっと多くの人に「ええやんええやん」て言ってもらわないとだめだろ。
A:気に入っちゃって。ええやんええやん。
B:ええやんええやん!つい言いたくなるよな。
A:そりゃいいとして、何かしなよ。
B:何かって何だよ。
A:わかんないけど。
B:俺も。
A:とにかく行動よ。成功するには実力とか運とかいろんな要素があるけど、絶対に必要なのは行動っていうからね。
B:何だよしょうもないビジネス本の受け売りみたいな。
A:売れたいね。
B:売れたいねー。
A:売れたいんだよ。
B:まあ、たしかに売れてれば話は違うよな。
A:そらそうよな。
B:知り合いのプロデューサーに「こんな話どうすか」とか「これやってみたいんですよ」とか言うと、売れてればいろいろショートカットして現実味あるもんな。
A:売れたいね。
B:売れたいね。
A:売れたいんだよ。
B:ぶっちゃけ、金持ちになりたいというかチヤホヤされたいって別にないじゃん。
A:そう?俺はちょっとあるけどね。
B:それ自体は否定しないけど。その欲はあんまりなくて。
A:じゃなんで売れたいの。
B:うーん、解放感というか安心感というか。
A:へえ。眠たいこと言っちゃって。
B:売れなきゃ、ていう焦りやプレッシャーから解放されて自分らしく平穏無事に生きたいわけ。
A:まあ、わからんでもないけどさ。そうも言ってられない業界でしょ。
B:それはわかってるけどね。でも電通で広告賞獲った人も似たようなこと言ってて「受賞してはじめて、この世界で生きる資格をもらえた感じ」みたいな。
A:ほお。
B:それそれ!ていう。
A:何も受賞してないお前が言うなよ。
B:うるさいわ。
A:いやでもマジな話、こういうのっていつどこで実現するかわかんないからね。
B:どういうこと。
A:仮に本人なり業界関係者がこれ見て興味持ってくれたとすんじゃん。
B:はあ。仮の話ね。
A:そうそう。で、じゃあ企画書くださいてなるわけじゃん。
B:その時点で無理よ。企画書なんてつくったことないし。
A:そこは何とかやれよ。
B:おお。
A:で、実際にやりましょうとなったとして。
B:おお。仮にな。
A:資金やスタッフ集めに奔走して、撮影時のハプニングがあって、家族や仲間と衝突した末に絆を強めて、大胆な奇策でトラブル解決してのハッピーエンドでしょ。
B:何でお前の方がそこまで見えてんの。
A:そういう時は勝手に物語が動き出すっていうかさ。とにかく絶対何かやった方がいいって。
B:言いたいことはわかる。わかるよ。でもさ。
A:何だよ、せっかく熱い想いがあるのに。
B:いや、その肝心の想いがないのよ。
A:はあ?何をなめたこと言っちゃって。
B:いやマジで。ザコシさで『パッチ・アダムス』やりたい。やったら絶対俺が喜ぶ。てだけなんだよ。
A:俺もおもしろそうだと思ったよ。ほかにも乗ってくれる人いるって。
B:ありがたいけどさ、別にそれ以外の特別な想いはないわけ。
A:はあ。
B:良い映画作って感動させたいとか、多くの人に笑いを届けたいとか、つらい毎日をすごしている人に少しでも癒やしを提供したいとか。
A:ねえのかよ。
B:あんのかよ。
A:ねえな。
B:だろ。そんな大層なこと考えてやってないんだから、こっちは。
A:それ言われたら終わりだ。はい。この話おしまい。
B:素人のサクセスストーリーにはドラマチックな展開だけじゃなくハートを震わす想いが必要じゃん。
A:そうだよ。売れる人にはやっぱり何かしらのストーリーがあるからね。
B:だろ。
A:ないのか。
B:ないのよ。
A:想いがなければ人はついてきてくれないよな。
B:そうそう。むしろ申し訳ないっていう。
A:ないかー。
B:ないのよ。仮に、何だかんだ作品つくってメディアのインタビューとかされたら困っちゃうね。
A:この作品を通じて伝えたいことはなんですか。
B:あ、別にそういうのはないです。
A:おい!てなるねえ。それはないだろ、みたいな。
B:せちがらいなー。
A:本人がそう言ってるなら仕方ないか。
B:売れたいなー。
A:売れたいなー。
B:売れたいなー。
A:ちょ待って、売れるってどういうこと。
B:世の中を我々の意のままに動かせる状態とでも言うかな。
A:それ昔、音楽番組でデーモン閣下が世界征服の話をした時のやつ!
B:これはこれで思うけど、理想の売れ方みたいんおは前も話したじゃん。
A:ざっくりな。誰かと似たようなネタがたまたまウケて、自分たちもわけわからない状態で消費されて、あっという間にブームになって終わっちゃうような売れ方は違うっていう。
B:そうそう。別に一発屋を否定してるわけじゃないよ。それはそれでめちゃすごいと思うわけ。
A:そうね。一発当てるのすらムズいんだから。
B:有名になりたいわけじゃなくて、業界のはじっこでいいからほそぼそと活動して、知る人ぞ知る感じが理想ていうか。
A:めちゃくちゃなめたこと言ってんな。
B:そうだけどさ、事実じゃん。
A:大丈夫かこの発言。
B:イメージの話だけどさ、100m走あるじゃん。
A:はあ。
B:ゴールに向かって全力疾走するわけだけど、多くの人はゴール直前に減速しちゃうんだって。
A:そうかな。しないだろ。
B:知らんけど、とにかくゴールの少し先を目標に走った方がいいわけ。
A:ふーん。
B:目標も同じで、この辺のレベルに到達したいと思ったら、それ以上の努力をしないとたどり着けないんじゃないかな。
A:おお。よくわからん。
B:つまり、別に売れたくないという中途半端なモチベーションで努力してても、そらまったく売れないわけ。
A:そういうことだ。
B:爆発的に売れてやるぞ、てぐらいの覚悟と決心と泥くさい想いで努力しないと、理想とする状態にはなれないと思うわけであります。
A:あつ。そう考えるといろいろバランスだよなあ。
B:何にしても誰かの手のひらで売れさせられるのはごめんだね。
A:な。超絶忙しくなって金使う暇ないとか本末転倒っていうか。
B:ほんそれ。
A:プライベートも窮屈になって、結局誰といても何をしても満たされないっていうか。
B:あるね。
A:軽率な発言で炎上したりアンチが騒いだり。
B:むず。
A:そう考えると売れたくないなー。
B:売れたくないなー。
A:売れたいけど売れたくないなー。
B:そうなんだよ。売れたいけど売れたくないんだな。
A:売れたいけど売れたくないなー。
B:これもう間取るしかないね。
A:どゆこと。
B:売れたいと売れたくないの間で、売れた。
A:売れた。間になるのかそれ。
B:いいのもう。売れたのよ。
A:売れたのか。
B:売れた売れた。
A:売れた売れた。いやちょっと待てよ。
B:何さ。
A:むなしいわ。


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