2001 US OPENのあと、
初めてのトーナメントに参加させてもらってから私はいっそうストリンギングの深さに感動し、日々研究に勤しんだ。
ただお客さんにトーナメントに行ってきた、と話しても観戦してきたと思われたのであまり印象にはならなかった。
そんな6月くらいだったか、またトーナメントのお誘いが来た。
今度はUS OPEN、グランドスラムだった。
期間は3週間、長いと思ったがUS OPENなんて滅多に行けないしこれはいい経験になると思っていくことを決意した。
それでもうトーナメントは終わりにしようと思っていた。
NY に着いたらお迎えが来ていた。数ヶ月前にお世話になってからなんとなく打ち解けていた。
仲間に入れてもらえた気がした。
空港からホテルに直行と思いきや、先にUS OPENの会場に行くという。
多少時差ぼけだったが、会場に行くと聞いて目は冴えていた。そこで早速IDを発行してもらった。
写真を撮るとき仲間からからかわれて笑っていたら撮られた写真がそのまま採用。いかにもアメリカチックだった。
グランドスラムは規模が大きく、全てが偉大だった。仕事は大変だったけど仲間がたくさんいて楽しかった。
大会のハイライトは男子シングルスの準々決勝、サンプラスVSアガシのナイトセッションでオールアメリカンはテレビ中継で盛んに盛り上げていた。
結果は全てタイブレークというタイトなセットを制したサンプラスが勝利。そのまま決勝まで勝ち上がった。
アガシのストリンガーがウチのボスで試合前から入念にアガシ本人と打ち合わせしていたが、残念ながら敗北。
翌日、ボスの部屋を覗いたらグシャグシャになったラケットが壁に吊るしてあった。
楽しい3週間を過ごし、予約便の都合で二日後に日本帰る予定でいた。帰る前日、私は時間ができたのでMLBを見に行こうと思ってヤンキースタジアムに地下鉄で向かっていた。チケットを手に入れ、一度ホテルの戻ろうと思い地下鉄に乗って1個目の駅で突然止まってしまった。その後アナウンスで車内から出されさらに駅からも出されてしまった。
一体何???なんだかわからず右往左往していると目の前に座っているおじさんが「じきに動くよ。NYの地下鉄なんてのはそんなもんだ」
いやいやそれにしたって消防車や救急車がバンバン走ってるし、、
致し方ないので歩いて移動している人たちの後を追ってみることにした。
橋を渡っているときにふと南方向に目をやる。
尋常ではない煙が発生していた。見たこともないことが起きている。
しばらく歩いているとタクシーを捕まえられた。乗ってすぐ行き先を伝えるとドライバーが妙なことを言い出した。
「ビルに飛行機が突っ込んだ。それでビルがもうなくなったよ」
ビルに飛行機が突っ込めば、そりゃビルも崩壊するだろう。っていうかそもそも飛行機がビルに突っ込むことがあるのか???
自分の中でこの情報をどう整理していいか、いささか混乱していた。ドライバーによくわからないからラジオつけてと言うとラジオからそのニュースを繰り返し伝えていた。
タクシーがホテル付近まで来るとマンハッタンは混乱していた。お店ももう閉まるというところが多く、私も急いで水と食料を買い込んだ。
もう今夜のヤンキースは見れない、それどころか明日帰れるのか?
ホテルに戻ると1Fのフロントあたりに宿泊客がたくさんいた。電話ブースには行列ができていてみんな家族に連絡しているようだった。
私は部屋に戻り、日本の家族に連絡。徐々にことの重大さがわかってきた。
テレビでは繰り返し、飛行機がWTCにアタックする場面が流れる。
それしか流れない。
もうとんでもないところに来てしまった、と思った。