ちゃちゃっと
お洋服たちの長い行列がわたしの前にできているような日々を過ごしています。
スレッズにて、できるだけ毎日その日のお直し内容を更新しておりますが、わたしが立っているお店では受付からお渡しまで基本的には一週間程度、状況によってはもう少しお日にちをいただいております。お急ぎのお客様からは”ちゃちゃっと~”と言われることもあるのですが、お洋服行列の先頭から作業していくのでそれぐらいかかってしまいます。
数をこなすことと、お客さまの大切なお洋服を一着いっちゃく確実に仕上げていく中で”ちゃちゃっと”できない理由を自分なりに整理して書いてみようと思います。
まず、わたし達お直し職人にはルールがあります。それは現状仕上げです。わたしがこの仕事を始めた頃から師匠に口すっぱく教え込まれた掟です。「あんた!こんな直し方ダメよ!現状仕上げが基本よ!」とよく怒られたものでした。この厳しくも可愛いおばあちゃん師匠たちのエピソードもおいおい書けたらと思います。
さて、この現状仕上げとは、お直しを受け付けた際のデザインを残しつつ必要箇所を直すというものです。この話をわたしの旦那さんにすると「昔ブーツカットの丈詰めをお願いしたら、ストレートになったって漫才あったよね。」と言われましたが分かりませんでした。
現状仕上げがなぜ必要かと言うと、ブーツカットがストレートにならないようにと言うことはもちろん、生地の処理を正しくしないと着心地が悪くなったり壊れやすくなるためです。パンツの丈詰めで言うと詰める寸法分を切って縫うだけでは不恰好になったり、衣服としての機能が落ちてしまうのです。
次の理由としては、工場生産の既製品であれば仕方ないことではありますが、左右の丈の長さが違うということがあります。裁断前に一旦左右の寸法を間違いなく測る必要があるのです。もちろんそのお客さまの姿勢で左右の長さが変わることもあるので、採寸がとても大切になります。
また、最初の現状仕上げにも含まれることですが糸選びも重要です。糸もデザインの一部と考えられるので、ブランド特注の糸色や経年劣化による変色などを考慮しつつ一番近い色を選びます。このミシン糸というのは色数が非常に豊富でして、瞬時に選抜できるようになるにはある種のテクニックというか自分なりの法則が必要になります。
※この記事の下にデニムとスラックスを直す際の工程を掲載しておきますので興味がありましたら是非ご覧ください。
大きなルールとしてはこんなところですが、これらを踏まえつつ常に最速作業であらゆるお直しをしております。
”ちゃちゃっと”というお客さまの何気ない言葉から、改めて自分の仕事について考えることができました。デジタルや機械化が進む中でより時間の流れが感覚的に速くなってきているように思います。もちろん職人達は早くお渡しできるように頑張っておりますが、人の手だからこそ小回りの効いたお直しができるのかなとも思っています。
今後も自分がいる業界のことを一方的に発信するのではなく、お客さまとのやりとりや頂いた言葉から自分なりに考えたり振り返ったりしたことを綴っていけたらと思います。
こんなこと聞きたいよ~とかご感想などありましたらコメントいただけると嬉しいです!
また次回までお元気で!
Shiho
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edit: AkinobuSakimoto
illustrations: AkinobuSakimoto
おまけ〜パンツのお直し工程〜
デニム・カジュアルパンツ編
採寸
カット
糸選び
縫う
アイロンプレス仕上げ
お忙しいところ恐れ入りますが、パンツの採寸は大切です!
前述の通りですが、既製品の新品と言えど工場の流れ作業で作られていると、左右非対称の丈になることもあります。採寸せずに詰め寸(丈詰めの長さ)だけで裁断してしまうと長さがチグハグのパンツになってしまいます。。
採寸にご協力いただけますと助かります!
カット、裁断はいつもドキドキなのです。。
糸選びも前述しました通りです。お直し業界に飛び込んで糸選びに苦戦した職人は少なくないはず!
アイロンプレスは力仕事な上に繊細な作業でもあります。
熱を加えると変色する恐れがあるので、丁寧に!生地の性質にも気を配ります。
スラックス・フォーマルパンツ編
採寸
カット
ヘム調整
ロックしまつ
ルイス(まつり縫い)
アイロンプレス仕上げ
デニム編と工程としては似ていますが、別のミシンを使用することと、さらに一手間加える必要があります。
フォーマルの装いはキレイなシルエットや縫い目を目立たせないこと、シワが出ないようにすることなどが、カジュアル服とは違う注意点です。
裾の三つ折り処理の際、ヘム調整にお気をつけください。
ヘムとは縫い代のことです。縫い代として裾の幅出しが肝心で、幅調節せずに内側に折ってしまうと、縫った後くしゃくしゃにシワが入ってしまいます。。
お洋服は生地が折り重なったりするので、薄い布を切って重ねて縫うというより、立体物の展開をするイメージが近いかもしれません!
ルイス、人ではありません。まつり縫いのことで、専用のミシンがあります。縫い線が表に出ないように縫うのがルイス(まつり縫い)です。
手まつりで仕上げることもあります。
以上、おまけでした!
こういった技術的な話もできたらと思いますので、ご意見やご要望もお待ちしております!