最難関資格デリヘル検定【合格】

「国家資格」
我が国を代表する国家資格といえば、「司法試験」「医師国家試験」「公認会計士」「税理士」といったものが挙げられるだろうか。
言わずもがな、そのどれもが超難関と位置付けられる試験であり、合格に至るまでには想像を絶するほどの途方もない努力と根気が必要だ。
しかしながら、そうした気の遠くなるような勉強の末に、合格者にはその難易度から裏付けされる社会的信用と地位が与えられるのである。



___そんな日本最高峰の難易度を誇る国家資格のひとつに、「デリヘル検定」と呼ばれる資格があるのを貴方はご存知だろうか?






俺は2月某日、デリヘル検定を在宅受験した。これは、ブログ閉鎖の報せを聞いた俺が積年の感謝を込めてLINEブログに贈る、これまでの資格受験人生の集大成となる最後の備忘録である。
この最難関資格の挑戦に際し、俺は受験を家族に打ち明けるか迷っていた。帰省し、家族で夕飯を囲んでいた折、どこかぎこちなく歯切れが悪い様子の俺を見かねた母は「どうしたの」と問いかけてきた。俺としては気丈に振る舞っているつもりだったが、ここまで俺を育ててきてくれた父母の前でそんな隠し立てなぞできようはずもなかったのだ。俺は涙を飲み込み、正座をして両親に打ち明けた。
デリへル検定受験の意向を伝えた瞬間、母は目を見開いて息を呑み、父は俺の胸ぐらを掴んで頬を殴り飛ばした。
「この、親不孝者が…………ッ!!」
普段は温厚な父が、唇を震わせながら叫んだ声は今でも忘れられない。しかし、それは至極真っ当な反応だろう。この資格に挑んだ者は、気が触れて廃人になるか、最悪の場合そのまま死に至るケースが後を絶たない。
それでも、俺は覚悟を決めていた。「俺は、自分の存在を証明したい」と。
「快楽へと、感動へと、人間は正直に生きるべきだと考えている。どうせ俺たちは、生まれた日から唯一無二の思想家だから。"正義"だとか、"悪"だとか、そんなのはどうでもいい。大事なのは"愉しい"かどうか。ならば、俺は在るがままにこの試験に挑まなければならない。そして前人未踏のUnknown-New-Worldに羽ばたいてみせる。この世界の果てで、自らの存在証明を証(あか)してやるんだ。父さん、どうか俺を信じてくれ」
血の混じった唾液を吐き捨て、俺は父の目を真っ直ぐ見据えて訴えた。
そして俺の覚悟を受け取った両親は涙を流しながらも受験を認めてくれた。その日から俺の人生は大きく変わっていくこととなる。
■試験概要さて、ここからはデリへル検定の概要に触れていこうと思う。
https://white-hands.jp/seminar/kentei2/

試験方式は在宅でのweb試験。試験申込をし、検定料金を支払うと後日メールアドレス宛にPDFで試験問題が届く。回答期間は試験問題が届いてから一月以内であり、その間に公式サイトの回答フォームから答えを送信するというものである。
なんということだろう。
つまり試験時間は24時間×30日=720時間ということである。かの司法試験ですら、試験時間は20時間前後だ。
これだけでも常軌を逸した試験であることが窺えよう。
検定料金はテキスト(デリへル六法)+試験料なら11,000千円。試験料のみなら3,000千円である。俺は予算の都合上、テキストなしで挑むこととした。
出題範囲はデリヘル六法全てと、試験実施団体である風テラスが作成した「明日の嬢」というweb漫画になる。噂によればデリヘル六法のページ数は5,000ページにも及ぶとされており、これはかの聖書(旧約聖書+新約聖書)の2,500ページ弱を遥かに上回る物量となる。
合格にあたり、このデリヘル六法の全暗記は必須になることは言うまでもなく、さらに明日の嬢の漫画については内容把握はおろかそのサイトに組み込まれたソースコードまで理解しておく必要があるだろう。
最難関国家資格デリへル検定に合格すると、その権威は一国の軍事力にも匹敵するとされている。過去の例によると、アメリカ合衆国という"国家"とデリヘル検定合格者という"個"が対等に友好条約を結ぶケースすらあったという。そう、つまり範馬勇次郎もこの試験の合格者だったいうことは想像に難くない。
■対策俺は合格を目指すにあたり1日22時間勉強をした。自宅を改造し、ベッドにトイレ機能を搭載。栄養は点滴から補給をして、寝る間にも夢の中で参考書を広げ続ける日々を送った。
「1日22時間?そんなんじゃ受からないよ」
彼はそう言った。彼はかつて、デリヘル検定に挑み、生還を果たした超越者である。
ある日、俺は彼からメールで呼ばれた。場所は日本橋のマンダリンオリエンタル東京。地上37階のマンダリンバーである。

合格にあたり、何らかのアドバイスを貰えるものと思い現状の対策方法を話したところ、彼にはこう返された。
「お前は風テラスが示した対策方法をなぞっているだけだろう?そんな素直さでこの過酷な道を歩めるはずがない。教科書通りにやって上手くいくと思うな。お前が"一秒の定義"を超越しない限りは、この戦いに勝機はないと思え」


一秒の定義……?


「お前は既に試験申し込みをし、今こうしている間にも終末の刻は刻々と近づいている。1日22時間勉強したとて、到底間に合うはずがない」
「じゃあ、俺はどうすれば…?」
「お前が本気でデリヘル検定を打倒したいのであれば、力を貸してやる。死のリスクも付き纏うが、もしこの修行を経ればお前の合格可能性は最大限に引き上がるだろう」
俺は頷き、彼と共に三千世界の果てへと足を踏み入れた。
そこからの過酷な日々は、筆舌に尽くし難い壮絶たるものであった。
人類が観測可能な痛みのすべてを超える激痛を前に、幾千では足らぬ数の意識を手放した。その視界に映る絶望を前に、1秒間に数万通りもの死を想像した。俺が自我を放棄したのは、修行初日のことであった。
そして俗世では1ヶ月が経とうとしていた。
2/14試験当日。
すべてをぶつける時がやってきた。感覚が冴え渡る。俺は人類が通常保有する視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚、つまり第五感を第64,382,091感まで増やした。
現実世界では1日は24時間に過ぎないが、一秒の定義を克服した俺にとって、時間なぞ意味をなさない。過去・今・未来、全てを視る無限の瞳をその目に宿していた。
俺に修行をつけた彼は「もう教えることは無い」と言い残し、闇に紛れて夜空に消えていった。
この検定を受けるにあたり最も重要なことは、風適法の条文をいかに暗記するかではない。恐怖に打ち勝つことだ。恐怖とは、死を避けるために我々人類が備え付けられた防御機構のひとつである。死を想像するから、我々の感情には恐怖感が芽ばえるのだ。しかし超越者は死なない。超越者にとって、想像できないことは起こりえない。つまり、死を想像できなくなるその境地に到達することが、この試験を乗り越える一番最初の試練となる。
俺はついに、スマートフォンから回答フォームを開いた。
その瞬間、俺は目を細めても未来視が使えなくなり、まるで金縛りにあったかのように身体の自由が効かなくなった。なるほどこの"圧"。およそ常人では耐えられない。
恐らく彼の修行を受けていなければ、俺はこの時点で壁のシミになっていたことだろう。
回答フォームのその向こう、"それ"が不敵に微笑みかけてくる。その微笑みは久々に骨のある受験者が来たことに対する悦びか、あるいは悪魔の誘いか。
やがて回答入力が始まる。

消えたのは笑顔。

現れたのは殺意。

発したのは同時「「さあ、始めよう」」と。

俺は全てを回答フォームに叩きつけ、全てを終わらせた。体感にして2秒。あの修行を経て、2秒。余力を使い果たした俺は、その場で意識を失った。
■試験結果

楽勝で草。

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