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ほのぼの暮らせるコミュニティマンション あかぎハイツ|千葉・松戸市
omusubi不動産が2014年から関わらせていただいているあかぎハイツ。現在omusubi不動産が事務所を構えるこの場所も、当時は空室も目立つありふれた古いマンションでした。そんな中、あえてその古さをポジティブに捉えた「ほのぼの」というキーワードをきっかけに、オーナーさん自らの手で一室のリノベーションを行ったことが、マンションの未来を大きく変えることに。今では、「近すぎず、遠すぎず、だけど何かの時には頼りになる。」といった独自のコミュニティマンションのあり方が注目されているあかぎハイツ。オーナーと不動産屋として、そして同世代の仲間として仲良くさせていただいているオーナーの赤城夫妻に、あかぎハイツのこれまでとこれからについてお話を伺いました。
プロジェクトのポイント
omusubi不動産・殿塚とオーナーが出会い、セルフDIYの可能性を共有する
古さを捉え直し、「ほのぼの」というコンセプトを一緒に見つける
omusubi不動産の事務所が入居し、あかぎハイツ100年構想をともに描く
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左:omusubi不動産の代表・殿塚建吾
中:あかぎハイツを管理する赤城芳博さん。
ほのぼのとしたキャラクターでよっちゃんと親しまれる
右:奥様の真樹子さん。持ち前のデザインセンスで心地よい空間をつくりだす
omusubi不動産との出会い
───あかぎハイツは芳博さんのおじいさんが建てられたとのことですが、何年前のことですか?
赤城芳博さん(以下、よっちゃん) このマンションが建ったのが1970年なので、もう50年以上も前になりますね。僕も201号室で生まれ育って、家の前の吹き抜けでサッカーをしたりして遊んでいました。僕が生まれた頃は、父が一階のほとんどのスペースを使ってあかぎマートというスーパーも経営していまして。このあたりも個人商店が結構あり、今よりも下町みたいな雰囲気で盛り上がっていましたね。近所に大型のスーパーができたこともあり、僕が高校生くらいの2002年くらいに閉店してしまったのですが。
───生まれてからずっとこのマンションに住んでいるのですか?
よっちゃん 結婚する前に、少しの間同じまちの違うところに住んでいましたが、結婚して戻ってきた感じですね。
赤城真樹子さん(以下、まきちゃん) 私は松戸市内のここから10分くらいのところが実家でして。このあたりはよく知っているエリアではありますが、マンションオーナーなんて当然はじめてですし、慣れるまでは大変でしたね。家にいても住民の方が誰か来るかも知れないと落ち着かなかったり。すっぴんでうろうろしづらいかなとか(笑)。もう慣れましたけどね。
お話を伺ったのは、一階で真樹子さんが営むスペース「atelier 106」
───omusubi不動産が関わるようになったのはどのような経緯だったのですか?
殿塚 僕がomusubi不動産をはじめる前に、松戸でまちづくりをしているMAD Cityという会社で働いていたのですが、そこにお父さんと来てくれたのが最初の出会いだよね。
よっちゃん そうだね。商工会議所の方が、松戸に面白い不動産があるからと紹介してくれたんです。当時は半分くらい空室があったので、とにかく入居者さんを見つけたくて不動産屋さんに相談することも多かったけど、あまりいい結果が出ていなくて。MAD CityさんはDIY賃貸というのをやっていたので、それにも興味がありましたね。
殿塚 すべての空室をDIY物件にするのは予算も時間もかかってしまうので、まずは3部屋をDIY可能賃貸物件として貸し出すことにしたんだよね。
よっちゃん それで入居者の方が来てくれたんですけど、そのあと一旦DIY賃貸はやめたんです。そのあとに、とのくんがomusubi不動産を立ち上げて、挨拶に来てくれたんです。
殿塚 まだ緊張しながら、「赤城さん」「殿塚さん」と呼び合っていてね(笑)。近くにロッコーハイツというあかぎハイツに似たようなマンションがあって。オーナーも同世代だし、セルフリノベーションして賃貸する面白いことをやっていたので、よっちゃんにも紹介したくて一緒に行ったんだよね。そしたら、「よっちゃんもやっちゃえばいいんだよ!」って発破をかけられてね(笑)。で、その一言がきっかけとなって...。
よっちゃん 古くなっていた一部屋を解体しちゃったんです(笑)。もともと床も抜けていたし、まあ変わらないかなと思って...。
まきちゃん お父さんが旅行に行っている間にね(笑)
よっちゃん 「間取り変わっちゃってるじゃん」と父も驚いていましたね。自分でもDIYで一部屋作ってみたい気持ちもあって、責任を取ってその部屋に住むことになり、2階から2階に引っ越しました(笑)
殿塚 それまでやったことなかったんでしょ?未経験なのにできちゃうんだから本当にすごいよね!お父さんも最後は若い人のセンスを信頼してくれていい関係ですね。
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古さがよさに変わった「ほのぼの」というコンセプト
───その後、omusubi不動産はどのような関わり方をしていたんですか?
殿塚 MAD Cityから引き継ぐ形で、入居募集のお手伝いをしています。あかぎハイツの部屋には大きく3パターンあって。よっちゃんがセルフリノベーションした部屋、一般的なリフォームをした部屋、古いままの部屋。募集したらきれいな部屋から段々入ってくれたよね。
まきちゃん 殿塚くんが切り口を見つけてくれたのが大きいと思っていて。古い物件のよさだったり、ほのぼのというキーワードだったり、古さを味わいとして評価してくれた人は今までいなかったので、新しい価値観を生み出してくれたと感じています。
───ご自身はこの古さがいいんだとは思っていなかったんですか?
まきちゃん 思ってなかったですね。雑誌の「天然生活」みたいだねと言ってくれたんじゃなかったかな。そういう風に捉える人がいるんだなと。そういう客観的な視点ってすごいなと思います。それがマーケットを企画しようと思ったきっかけではありますね。
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殿塚 レトロな雰囲気はすごくいいなと思っていましたが、オーナーの人柄が大きいですよ。まきちゃんが企画した「akagi heights de market!」が大きな転機になったよね。
まきちゃん あかぎハイツでFacebookイベントをつくっても、誰にも伝わらないから、自分たちだけでやるのではなく、色んな人に出店してもらうとあかぎハイツを知ってくれる人も増えるかなと思ったんです。
よっちゃん 当時はうちの社長(父)も保守的だったので、「やる意味あるのか?」という感じだったんですけど。このままじゃ将来が不安すぎると思い、何かを変えなければとやってみたんです。そうしたら、すごくたくさんの方が遊びに来てくれて、親父もとても感動していました。
殿塚 そのマーケットがきっかけとなって、一階のテナントに本屋のsmokebooksさんが入ってくれることも決まり、あかぎハイツの雰囲気も変わっていきましたね。
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───今はどれくらいの空室があるんですか?
よっちゃん 改装待ちが5部屋ほどあるのですが、それ以外はおかげさまですべて埋まりました。
殿塚 え、もうちょっとだね!最近「松戸のomusubi不動産です」と自己紹介すると、「あかぎハイツがある街ですよね?」って言われることもあって。募集していなくても、入居希望の方から連絡がありますよ。今はDIY賃貸とはうたっていないので、空間とコミュニティの雰囲気がいいからだと思うけど、それ以上に二人の存在が大きいと思うなあ。
よっちゃん いえいえ、omusubiさんがたくさん入居者さんを呼んでいただいていますから。
殿塚 でもね、内見には必ずよっちゃんを呼ぶもんね(笑)。会ってもらったほうが安心して決めていただけるだろうなと思うし。オーナーさんと借り手を会わせるのはあまりやらないことですよ。
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オーナーと不動産の新しい関係がつくる未来のマンションへ
───今あかぎハイツの自慢をするとしたらどんなところですか?
よっちゃん 一階のテナントさんかもしれないですね。駅から少し距離があるにも関わらず、本当に素敵なテナントさんに入っていただいて、僕たちも住んでいて楽しいです。
まきちゃん 適度な距離感というのも一つポイントかもしれないです。コミュニティマンションと言われますが、ベタベタしたいわけじゃないし、そもそも人見知りだし(笑)。
───数年前に比べるとすごく活気づいて、本当に住んでみたくなりますね。
よっちゃん とはいえ、課題はたくさんありまして。古い建物なので、修繕費用も大きな額になりますし...。
殿塚 DIYできる賃貸って、オーナーにとってはお金をかけずに貸せるというメリットがありますが、あかぎハイツの場合は修繕費用も積み立てていかないと長期的に存続が難しくなる可能性もあるので、ある程度家賃を上げていく必要があるかと。そこによっちゃんのDIYによる付加価値がうまくマッチさせたいなと。中長期的にコンクリートや水道管の延命策も考えていきたいね。
よっちゃん いやあ、たくさんアドバイスをいただけてとっても心強いです。
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───ちょっと遠い未来の話もしたりするんですか?
殿塚 あかぎハイツ100年構想を話したりするよね。100年を超えたら文化財にもなるんじゃないかなって(笑)。赤城さんはオーナー業を自分たちでやっているのが特徴なので、僕たちは変に介入しすぎないほうがいいと思っています。新しい人を連れてきたり、そういうところで貢献していきたいです。
よっちゃん あと50年ですね。omusubi不動産もその時までよろしくおねがいしますね(笑)
殿塚 そうですね、お互い頑張りましょう!
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赤城芳博
あかぎハイツ3代目
1985年生/千葉県松戸市出身
千葉県立市川工業高校機械科卒
自社物件のリノベーションやリフォーム、修繕などを担当している
現在あかぎハイツの空室をせっせっとリノベーション中。
赤城真樹子
医療関係や飲食業を経て、あかぎハイツ3代目よっちゃんと結婚後、家業を少しお手伝い。たまにひらくアトリエ「atelier106」をイベント等でたまにオープン。
殿塚建吾
omusubi不動産代表/宅地建物取引士
1984年生/千葉県松戸市出身
中古マンションのリノベ会社、企業のCSRプランナーを経て、房総半島の古民家カフェ「ブラウンズフィールド」に居候し、自然な暮らしを学ぶ。震災後、地元・松戸に戻り、松戸駅前のまちづくりプロジェクト「MAD City」にて不動産事業の立ち上げをする。2014年4月に独立し、おこめをつくる不動産屋「omusubi不動産」を設立。築60年の社宅をリノベーションした「せんぱく工舎」など多くのシェアアトリエを運営。空き家をDIY可能物件として扱い管理戸数は日本一。2018年より松戸市、アルス・エレクトロニカとの共同で国際アートフェス「科学と芸術の丘」を開催。2020年4月より下北沢BONUS TRACKに参画し、2号店を出店。田んぼをきっかけにした入居者との暮らしづくりに取り組んでいる。
Photo=Hajime Kato
Text=Takehiko Yanase