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余白と継続が、オリジナルの人生をつくる秘訣。 | ”おみせ”の人びと

自分の肩書きが見つからない。

ここ数年、肩書き迷子に陥っている。ライター、経理など1つに限らない職種でお金を得ていて、自分を説明するわかりやすい言葉が出てこない。

フリーランスあるあると言えばそうなのだが、昨今、パラレルワークやプロボノなどの言葉も浸透し、多様な働き方を選ぶ人たちは社会的にも増えてきている。

これからより一層、先が予想できない世の中になっていくことは、誰の目にも明らかだろう。それならば、仕事や人生も、既存の選択肢から選ぶというだけでなく、”自らつくり出す”という表現が向いているのではないか。

ではどうしたら、自分が輝く仕事のあり方や人生を、つくっていくことができるのだろう。

今回は、オリジナルの人生を歩もうとしている若い世代の方々にお話を伺った。ともに八柱・常盤平エリアで活動をするyoca、gaga motorcycle base(以下gaga)の2組だ。

見逃されてしまうものにも”価値”を与える

yocaは古谷由布さん、若月美南さんのユニット。それぞれアートや工芸を学び、現在は自宅をワークショップや教室の会場として開きながら、内装や什器制作にも携わっている。

元々柏で暮らしていた2人が松戸にきたのは、2020年の秋。DIYができ、教室やワークショップ会場としても利用できる住居兼用物件を探していて、omusubi不動産のホームページにたどり着いた。

お2人は一言で言うなれば、全部自分でやってしまう人たちだ。部屋数も少なくない一軒家の、ほぼ全ての空間を自分たちの手で改装。なんと外装までやりかえた。改装に2年ほどかかったというのも納得する。
(詳細は、ぜひomusubi不動産のnoteをご覧いただきたい)

彼らのnoteのサムネイル。お洒落な内装が目を引く。
自宅兼ワークショップスペースの一角は、ショップにもなっている。

そもそも、2人が自分たちで場所をつくろうと思ったのはなぜだったのか。

古谷さん:コロナ禍に入る前、僕は海外に行くことも少なくありませんでした。「これから先も、こんなふうに海外に行きながら活動を続けていくのかな」と思っていたらコロナになって。今後について2人で話したとき、自分たちで教室やワークショップができる場所を持ちたいという結論に至ったんです。

yacaのお二人。左から、若月美南さん、古谷由布さん

omusubiの物件に入居しているアーティストやクリエイターの方は、アトリエとして借りてくれる方も多いが、2人は当初から”外に開く”ことを視野に入れていた。

古谷さん:yocaという名前は、休暇の”余暇”から発想したんですけど、もう1つ、価値を与えるという”与価”という意味もかけています。ゴミとされてしまうようなものや、見逃されてしまうようなものにも、価値を見出したい。この場所は、そういう自分たちの気持ちを共有する場にしたかったんです。

若月さん:”美術”って、やっぱりどこかとっつきにくいイメージがありますよね。教室としてオープンにすることで「ちょっとやってみようかな」くらいから入って、「アーティストってそんな風に考えているんだ」って感じたり、「意外と面白いな」って思ったりしてもらえたらいいなって。アートに馴染みのない人にも、いい意味で軽く捉えてほしいと思っています。

改装を終え、2022年にグランドオープンを迎えた後は、定期的にワークショップやオープンアトリエを開催。様々な人とアートを繋ぐ場をつくっている。

地元の仲間で始めたキャンプブランド

gagaの3人に私が初めて出会ったのは、2023年12月に行われた「ときわ平やってみようマーケット」でのこと。一際若い3人が、バイクやオリジナルのアウトドアグッズなど、自分たちがかっこいいと思えるものを置き、誰もがくつろぐことができる空間を作っていたことが印象的だった。

ときわ平やってみようマーケットの様子。gagaがプロデュースした空間でライブも行われた。

岩本和磨さん、川上雄万さん、佐藤凌太さんからなるgaga。この3人の出会いは、小中学校時代に遡るという。

川上さん:僕と岩本は、小学校1年生の時に同じクラスになってからの付き合いです。佐藤は中学校に入ってからですね。僕と佐藤は高校も一緒だったんですよ。

左から、gagaの佐藤さん、川上さん。もう一人のメンバーの岩本さんは残念ながらこの日は欠席。

彼らが大学1年生の時、コロナが流行。大学の同級生と遊ぶことが難しく、必然的に地元のメンバーで集まることが多かった。卒業が目前に迫っていた大学4年生の頃、「何かやってみたい」と話し始め、思いついたものが、遊びにいく時の定番だったバイクとキャンプ。オリジナルのアウトドアグッズを作ってみたいと考え、夜な夜なコンビニの駐車場に集まってアイデアを練り続けた。
そんな時、「場所欲しくない?」と佐藤さんが話したことをきっかけに、歯車が動き始める。

川上さん:まずは近くの常盤平団地を見に行って。お昼に亀吉農園さんに行ったんですね。食べ終わってぶらぶらしていたら、常盤平の物件情報が目に止まった。いいじゃん!って思ってすぐお店に入って。それがomusubi不動産だったんです。

いくつかomusubi不動産で物件をみた中で、RIMという物件の1室に決めた。川上くんは「ボロボロすぎて、正直一番先が見えない部屋だと思った」そうだが、佐藤くんには「借りるのだったら、自分でリノベーションして空間を作ってみたい」という思いがあった。

佐藤さん:大学も建築学科で、元々DIYやリノベーションに興味がありました。確かに見た目はすごかったんですけど(笑)、自分たちでやれなくはないかなって。あとは、屋上があったことと、RIMのオーナーの山中さんの人柄が決め手になりましたね。本当に良い方なんですよ。

川上さん:この間も、山中さんと屋上でサウナやりたいねって盛り上がったんです。サウナは申請の関係で結局ダメだったんですけど、そうやってよくカフェで相談したりしています。

物件を借りてからは、閉店してしまう近隣のパン屋さんから色々なものを安く譲ってもらったり、縫製工場に入り切らなくなってもらったという工業用ミシンを借りたり。様々な人のサポートを受けて工房を整え、多方面に活動を広げようとしている。

「とりあえず、やってみよう」

それぞれに共通しているのは、こうすればいいという決まった道があるのではなく、オリジナルのやり方をしていること。
彼らがそうしようと思ったきっかけは何だったのだろう。

若月さん:一つのきっかけがあったというよりも、「やっちゃおう」と思ったことを積み重ねていったという感じですね。その結果、良い人に出会ったり繋がりができたりして、今に至っているように思います。

例えば、最近よく通っているコーヒー屋さんがあるんですが、元々は大家さんから差し入れでいただいたことがきっかけで知ったんです。美味しくて通うようになって、今ではワークショップのサービスドリンクとして提供させてもらっています。そうしたら、コーヒー屋さんも私たちの展示にも興味を持ってくださって。

直接的に仕事にならなかったとしても、少しずつ生まれた人との繋がりを大事にしたら、どんどんやりたいこと、やれることが膨らんでいくように感じています。だから、「ちょっと大変かもしれないけどイベントに出展してみよう」とか、「とりあえず行ってみよう」ということの積み重ねが大事だなと思いますね。

gagaにとっては、物件を借りたことが1つのターニングポイントだったという。

川上さん:それまでは、辞めようと思えばいつでも辞められたんですよね。でも物件を借りた時、後に引けなくなった。あとその時、omusubi不動産の他の入居者さんの活動やエピソードを紹介してもらって。皆さんの話を聞いて、自分たちももっと本腰を入れてやってみたら面白いんだろうなと感じました。物件を決める一連の日々が、大きなきっかけになったと思いますね。

そしてもう1つ、ときわ平やってみようマーケットも大きなきっかけだったと話す。

佐藤さん:実はその時、物件を借りてまだ1ヶ月くらいだったんです。工業用ミシンもなかったから家庭用ミシンで帆布を縫って。色々な人の手を借りて、イベントギリギリまで準備して。大変だったけど、色々な人と知り合えたり、小さい子がバイクに乗ったりして楽しそうにしているのを見て、すごく良い風景だなと感じました。こういう場や経験を増やしていきたいと思いましたね。

4人が当時の話で盛り上がるのを聞きながら、私は改めて周囲の人々の存在の大きさを感じていた。大家さん、周りのクリエイターの人たち、本当に色々な人が手を差し伸べている。それはなぜなんだろう。

古谷さん:うーん、でも、omusubi不動産が軸になっていることが多いと思います。ときわ平マーケットもそうでしたし。なんだろう、余白を残したまま、枠組みだけ作ってくれるというか…。
例えば、マーケットの会場はスケルトンで、何もなかったんですよね。無理難題のようだけれど、見方を変えると、すごく自由度が高くて、工夫したら自分たちがやりたいことに色々チャレンジできるかもしれないと思えたんです。

人によっては何も決まっていない状態に見えて、不安に思うかもしれない。それがかえって良かったということだろうか。

古谷さん:そうですね。僕らは色々やりたいことがあったので、「空間を演出してください」くらいの緩さで任せてもらえたことで、自分たちのやりたいことをやれたと思います。

gagaの皆さんはどうだろう。

川上さん:僕らは見切り発車というか、「とりあえずなんとかなるだろう」と思いながらやることも多いんです。だから、最初から明確なゴールがあるというより、やりながらああしよう、こうしようって作っていて。そういう意味でも、余白があって、色々と相談ができる環境の方がやりやすいなと思いますね。

繋がりを大事に、余白を楽しむ

このインタビューではいつも最後にこれから取り組んでいきたいことを聞いている。今回も問いかけると、yocaの2人からは少し意外な答えが返ってきた。

古谷さん:実は僕たち今、ビジネススクールに通っているんですよ。

なんと、美術をバックグラウンドにもつおふたりが、ビジネススクールに。

古谷さん:これまで、とにかくやりたいことを色々やってきました。でも今少し手一杯になってきたから、一度精査したかったんです。それで、僕らとは異なる視点を取り入れたいなと思って。今のところは、今後、内装のデザインや施工に力を入れていこうと考えています。マンションやビルの一室を借りてサロンや小さなショップなどを始める人向けに、原状回復ができるけど賃貸には見えないような空間づくりをやっていきたいですね。

対するgagaの3人は、実は今年大学を卒業し、それぞれ就職をしたばかり。仕事とgagaの活動を両立させていくことが、目下の課題だという。

川上さん:まずは、各々がそれぞれの分野で知見を深めることが大事かなと思っています。最初は仕事を覚えながら、合間を縫ってgagaをやろうと。社会人として経験を積んだら、アウトドアブランドとして、商品やグッズをしっかり販売していきたいです。

gagaが今、制作を進めているテント。
自らキャンプで使用したりしながら、アップデートを続けている。

佐藤さん:あと、やっぱり物件の屋上を使った企画をやりたくて。卒業旅行でいったタイでナイトマーケットがすごく良くて、屋上で実現したいんです。知り合いに古着屋さんをやっている人もいるので、タイの大規模なナイトマーケットを常盤平にきゅっと縮小させたようなものができたら面白いんじゃないかなと思っています。

川上さん:この辺りに住んでる若者って、遊ぶときはだいたい柏や都内に行っちゃうんですよ。だから、松戸にもそういう場があればいいのにとずっと思っていて。若い人たちが遊べたり、人と出会えたりする場所を、僕たちが作れたら良いなと思っています。

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オリジナルな仕事や人生をつくる。そのヒントを探りたいという気持ちで向かった今回のインタビュー。
見えてきたのは、”継続”と”余白”というキーワードだった。

偶然に生まれた繋がりを大事にしながら、小さくても良いからやりたいことを積み重ね、「こうしたい」という思いを言葉にして紡ぎ続ける。
そして、自分たちを許容してくれる余白のある”場”や機会を、めいっぱい楽しむ。

同じ街で頑張る若い世代の姿に、「私もいつか、自分にあう肩書きを生み出せるかもしれない」と勇気をもらった昼下がりだった。

ちなみに、omusubi不動産が拠点を構える八柱・稔台・常盤平エリアは、お二方を含めて「自らつくる」人たちが増えてきている場所。
もし今迷っていたら、まずは遊びに来てみてください。大変なこともあるけれど、日々面白がりながら、チャレンジしている人々が待っています。

(文章・写真:原田恵、一部写真提供:omusubi不動産、gaga motorcycle base)


【各店情報】

・yoca
住所 〒270-2265
千葉県松戸市常盤平陣屋前5-3
インスタグラム https://www.instagram.com/__yoca____/

・gaga motorcycle base
インスタグラム https://www.instagram.com/gaga_motorcycle_base/

※詳細は各店舗のインスタグラム等をご確認ください。

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