mudai[1分小説]
目が覚めると当たり前のように、いつもとおなじ自分の部屋の自分のベッドの上にいた。いつもと変わらぬ朝のようなのに、何かが違うような気がしなくもない。なんとなくふわふわしたような違和感が自分をとりまく感覚として取り巻いている。まあ、恐らく暇なのだろう。慌ただしい朝なんかにはこんなとりとめのないことを気にもとめない。
私は時折考える。もしかすると、私がこの世の中に存在し、私自身の人生というものを生きているというつもりではあるが、それ自体が誰かの見た夢なのか、あるいは誰かの書いた物語の中の一人なんじゃないかな、と。過去の記憶を辿ってみて、たった一度きり起きた私にとって特別だった思い出ひとつとったとしても、私が本当に経験したことなのか、はたまた私の見た夢なのか、頭のなかで作りあげたものなのかよくわからない。こんな事を考えつくのも私だけなのか、誰でも一度くらいは思いつく類のことなのか。そんなことを一人いつもの朝のカフェオレの入ったカップの縁を、そっと下唇にあてながら考えていると、もしかしたら自分以外の人間というものすら、最初から存在していないのかもな、と。
あの時のことだけは。
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