第二十七回 李賀について、など
ご機嫌よう、愁颯です。
秋になったので雅号を変えました。ペンネームも装いならば、季節の移ろいと共に衣替えしないとね。
さて、李賀という人物をご存知だろうか。
“天才“李白・“人才“白楽天と並び、「鬼才」と称えられた中唐の詩人である。前の名前の「沓颯」も今の雅号も李賀の同じ作品から取っているから、今回は彼の話を書きます。
河南府試十二月楽辞并びに閏月
下のは、僕が雅号を取らせてもらった李賀の詩です。まずはお目通しあれ。
これは河南府(洛陽)で行われた官吏採用の予備試験で李賀が作ったもので、つまり試験の答案です。当時の官吏試験においては、作詩は必須科目でした。公務員試験で短歌を詠まされるみたいなものですね(楽しそう)。
彼は十二ヶ月に閏月を加えた十三ヶ月分の詩を作って提出し、そのうちの一つ、「二月」が上の作品というわけです。
僕が好きなのは(雅号もここから取ってます)「金翅蛾髻愁暮雲 沓颯起舞真珠裙」の二句なんだけども、ぜひ想像しながら声に出して読み下してほしい(蛾髻は「がけい」)。特に後の句。「沓颯起舞」というのは靴音を立てながら踊る様子です。
「金翅蛾髻」「真珠裙」なんかの華々しい言葉遣いは李賀の詩の特徴の一つで、他の作品にはもっと派手なのがいっぱいある。「黒雲城を圧し城摧(くだ)けんと欲す 甲光日に向い金鱗開く」なんて有名。
かの芥川龍之介がよく口ずさんでいたという「将進酒」も、「小槽酒滴真珠紅」とか「桃花乱落如紅雨」なんて、読んでるだけで酔ってくるよう。
李白もスケールの大きい詩人だけども、彼の大きさは天上に向かうものだと思う。仙界に遊ぶ者の、宇宙的な、果ての無い広さ。
対して李賀の美しさには陰がある。どこか狂っている。生身の人間の脳内で発酵する幻影。耽美派に通づる感じ。
そのあと
さて、彼は「十二月楽辞」を作って無事予備試験には合格したのだけども、言いがかりをつけられて本試の受験を拒否されてしまうんですね。李賀の才能を認めて庇護してくれていた韓愈の弁護も通らず、中央政府での出世の道は閉ざされてしまった。失意の内に故郷に帰った彼はその後も思うようにいかないまま、二十七歳で亡くなる。というのが大まかな流れです。
もっと李賀のことが知りたいと思った方には「李賀 垂翅の客」草森紳一をおすすめします。分厚いながら文章が上手で読みやすいです。詩集は、現在市場に広く出回っているものは岩波文庫の「李賀詩選」くらいかと思う。僕が持ってるのは見出し画像にしているやつです。新品はおろか中古でもなかなか見つからないんじゃないかな。
この本とは、ちょうど李賀の作品を読み始めた二年前、先に挙げた「李賀 垂翅の客」を読んだ一週間後くらいに元町商店街の古本屋の店頭で運命の出会いを果たしたという思い出があります。不思議なことってときどき起こりますよね。
ということで、今回は「二月」と李賀の話でした。彼についてはまた回を改めて何度も書こうと思っています。好きなので。
ではまた一ヶ月後に。ご機嫌よう!