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針がとぶ/吉田篤弘

はじめに、私はおしゃれな文章が苦手だ。「ライ麦畑でつかまえて」も、野崎孝と村上春樹どっちのものを買うか迷って、村上春樹の方を買い、挫折した。

けれど、この人は、おしゃれながらに読みやすく、心地良い優しさがあって、するすると読むことができた。

「針が飛ぶ」の通り、どんなになにかを愛していても、全てを知ることはできない。けれどその欠けた部分に思いを馳せる風情もある。

そして、たびたび出てくる「クロークルーム」の通り、色んな人の色んな人生の、ほんの一部を覗くことができ、楽しい。不思議なことに、そのカケラたちは、ひとつの大きな物語へとつながっていく。
猿が飲み込んだ磁石が、方向を指し示してくれているようだ。

どのお話も、全てを拾うことはできないもどかしさが広がっていた。でもそれは悲しいだけのものではなく、じんわりとあたたかい。
反して、全てを拾うことはできないのに、辺鄙な島のある雑貨屋に、世界の全てがあったりする。

これから私の人生でも、思いがけないところで世界の全てを見たり、贋物のルビーに救われたり、そんな素晴らしい出会いがあるといいな、そう思った。

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