自分だけの生き方(活き方)をデザインできるまち、南部町-NPO法人なんぶ里山デザイン機構-
ヒトやモノ、情報が溢れる都会での生活は便利で刺激的なもの。しかし、SNSが当たり前となり、他人の生き方も否が応でも日常的に目に入る時代となりました。
そうした中、人と自分を比べ「私の生き方はこれで良いのだろうか」とふと考え込んでしまうこともあるのではないでしょうか。
今回取材したNPO法人なんぶ里山デザイン機構は、里山という豊かな自然を有する鳥取県・南部町(なんぶちょう)の地域活性化に取り組む組織です。そこで働く職員のみなさんは、「南部町は、自分の活き方をデザインできるまち」だと言います。
自分の活き方をデザインできるとはどういうことなのか? なんぶ里山デザイン機構が取り組む事業は具体的に何なのか? 理事長の毎川(まいかわ)さん、事務局長の板持(いたもち)さん、理事の岩崎(いわさき)さんの3人にお話を伺いました。
移住者が安心して暮らすことができる仕組みをデザインする組織
まず、なんぶ里山デザイン機構が設立された経緯について理事長の毎川さんに教えていただきました。
毎川:「設立の背景には、町内外で活躍される方々による『なんぶ創生100人委員会』の存在があります。
なんぶ創生100人委員会は、町内外の団体代表や専門家、役場の若手職員、公募委員などで構成された委員会です。その中で農業や商工、観光、移住定住、子育て支援などの分科会を作って半年間協議し、最終的に南部町に住民の意見という形でまちづくりの具体的提案を行いました。
そこで提案した内容をもとに南部町において「なんぶ創生総合戦略」が策定され、地方創生を住民自ら実現するべく立ち上げられたのが、『NPO法人なんぶ里山デザイン機構』設立の経緯です。」
住民主体の組織として立ち上げられたというなんぶ里山デザイン機構。具体的にどういった活動を行っているのでしょうか。
毎川:「空き家の活用を通した移住定住促進、ふるさと納税返礼品事業、無料職業紹介、里山デザイン大学などを行っています。
なかでも移住定住促進において、移住者と受け入れ側がお互いに納得できるよう”お見合いの仲人”のような立ち位置で仕組みを作ることは、私たちの大きな役割の一つです。」
お見合いの仲人のように移住定住の仕組みを作る、とはいったいどういうことなのでしょうか。
毎川:「行政主体の支援だと、なかなか住民視点で話をするのが難しいという実情があります。また移住希望者を町外から呼び込むことももちろん大事ですが、もともとの町内コミュニティを維持することも非常に重要です。
例えば、自治会という組織は南部町の住民には必要なものですが、移住を検討される方々の中にはごく稀なものの、自治会に入りたくないという方もいらっしゃいます。
そういう方々に『自治会というのは、地域にも移住者本人にもメリットがある。』ということを説明するのはなかなか難しいもので、役場からの説明だと『自治会に入らないと困ります。』というニュアンスで受け止められがちです。そこで私たちが間に入り、納得できるよう説明をすることもあります。
移住定住というのは、慣れ親しんだ土地を離れる移住者希望者にとっても、受け入れ側の地域にとっても大きな決断です。結婚と同じくらい重要な人生の決断において、移住希望者と受け入れ側が双方納得できるような仕組みづくりは欠かせません。」
プロボノ支援が追い風に!目標の2倍に増えた空き家の登録者
移住定住を進める上では、移住希望者への呼び込みだけではなく、南部町で生活するための家を確保することも重要です。その課題を解決するために大きな役割を果たしたのが、鳥取県の地域課題解決人材(プロボノ)受入事業(以下「プロボノ事業」)(※)で集まった専門家の力だったと言います。
※プロボノとは
「公共善のために」を意味するラテン語「Pro Bono Publico」を語源とする言葉で、各分野の専門家(プロボノワーカー)が、職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動のことを言います。
板持:「移住定住を促進するにあたり、当初は移住希望者から相談を受けても提供できる空き家がないというのが課題でした。
そうした折に、たまたま鳥取県の担当課からプロボノ事業を活用して課題解決に取り組んでみないかという声をかけていただきました。首都圏の方6人、鳥取の方4人の合計10人で移住者用の空き家活用のプロボノ事業が始まりました。
プロボノ事業で外部の方々と相談する中で、空き家のオーナーの方への情報発信が不足していることに気づいたんです。これまで外から移住者を呼び込むことに目が行きがちで、内側への情報発信が足りていなかった。
そこで、地域住民への広報のためのパンフレットのリニューアルや車に貼るステッカー、ポスターなどを作ってもらい、地域住民への情報発信にも力を入れるようになりました。」
プロボノ事業で専門家(プロボノワーカー)の手を借りることで、実際に移住者に必要な空き家の登録件数も増えたと言います。
板持:「空き家を持つ方々には、これまで毎年固定資産税の納付書に簡単なパンフレットを送っていたのですが、その際にプロボノワーカーと連携して作っていただいたパンフレットを一緒に送付することで、オーナーから問合せをいただくことが増えたんです。
今まではこちらから空き家を探して営業をかける必要がありましたが、プロボノワーカーと作成したパンフレットは直感的にわかりやすいデザインで、今まで以上に住民の方からお問合せをいただく結果に。当初目標にしていた年間登録件数の2倍程度に増えています。」
モノや情報が溢れていない里山だから生じる人とのつながり
こうした空き家の活用など町の委託事業だけではなく、なんぶ里山デザイン機構は「里山デザイン大学」という独自の新規事業にもチャレンジしています。
岩崎:「南部町が有する『里山の自然』や『人財』といった資源を活かしながら、関係人口を増やし、より南部町を豊かに暮らしていけるまちにしようという思いで企画を始めました。
里山デザイン大学では、里地里山に関係したスキルを持った方々を講師に迎え、里山を活かした子育てや暮らしなどの講座を開催しています。
こうした講座を町外の方々に情報発信をすることで、町外からの注目を集めるだけでなく、町内の子どもから高齢者まで、すべての住民に向けて、改めて里山暮らしのすばらしさや生きがいを感じてほしいという思いでやっています。」
講座参加者の多くは、インターネットやSNSの情報をきっかけに参加されていると言います。
岩崎:「里山デザイン大学ではホームページはもちろん、FacebookなどSNSを活用した情報発信も積極的に行っています。
参加者全体のうち約42%がインターネットやSNSからの情報を見て参加されています。チラシや広告経由で参加されたのは23%程度なのでおよそ倍です。また、口コミで参加された方が30%もいたのが驚きです。」
里山デザイン大学のこだわりや今後の展望についてもお聞きしました。
岩崎:「講座の時間は、講師も受講者も緊張している様子です。そこで『ふうー』と力を抜けるような時間として、お昼ごはんを活用しています。
1時間、2時間で終わる講座もありますが、あえて食の時間を取り入れ、ゆるい時間の流れを演出すれば、受講者同士の会話やコミュニケーションが自然と生まれます。
新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、今後はオンラインでの講座開催も視野に入れながらプランを立てていますが、講座での学びやスキルの習得だけでなく、こうした”人との温度感”は私たちも非常に重要視しているポイントです。
多くの人に発信ができるオンラインの良さと、これまでの温度感ある講座のかたちをうまく両立できればいいなと考えています。」
1人1人が”里山デザイナー”ライフスタイルがデザインできるまち南部町
最後に、なんぶ里山デザイン機構の今後の展望についてお伺いしました。
毎川:「私たちのホームページでは“なんぶの里人(さとびと)”というコラムで、町が誇る里地里山でいきいきと輝く人物を紹介しています。これらのインタビューを読むと、都会ではなく田舎だからこそ、ライフスタイルが充実しているように感じられます。
これまで紹介した方々は『こういう面白い人がいるなら、ぜひ会ってみたい』と県外の方々にもきっと思っていただけるような個性豊かな16人なので、実際に会うことができる『なんぶの里山めぐり』といった企画ができないかなと考えているところです。
南部町には各所にという観光地もありますが、まちに住む”人”こそが本当の魅力だと思っています。イベントなどを通して、まずは町民のみなさんと接してもらう機会を今後も作っていきたいです。」
さらに毎川さんは、里地里山という地域の魅力を活かし、ここでしかできないライフスタイルをデザインできるのが南部町ブランドだと地域の魅力を語ります。
「私たちが掲げる”里山デザイン”とは、里山暮らしを通して、一人ひとりが活き活きとした生活ができるような仕組みを作ること。
ここにいる人はそれぞれの自分自身の形で輝いています。生涯里山から学び、里山を活かした個性的な活き方をされている”里山デザイナー”ですね。」
今回のなんぶ里山デザイン機構の取材を通して印象的だったのは、職員の方々の里山や地域と、そこで生活する住民の方々へのリスペクトにあふれる姿でした。
誰かの生き方に自分の生き方を無理やりあてはめるのではなく、里山を通したオンリーワンの生き方をデザインする―「デザインできるまち、南部町」に足を運べば、人と比べることのできない、新しい自分が見つかるかもしれません。
なんぶ里山デザイン機構(なんぶさとやまでざいんきこう)
鳥取県西部南部町にある特定非営利活動法人。南部町の総合戦略を住民自ら実現すべく設立された団体。移住定住促進事業、お試し住宅管理・運営事業、無料職業紹介事業、ふるさと納税受託事業、里山デザイン大学の5事業を中心に行っている。移住定住だけではなく、地域を応援してくれる「関係人口」の増加にも力を入れている。
なんぶ里山デザイン機構 http://www.nanbu-satoyama.jp/
里山デザイン大学 http://www.nanbu-satoyama.jp/work_shop/
南部町移住定住サイト https://www.town.nanbu.tottori.jp/satoyama/iju/
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