“みんな”ではなく、”自分の楽しい”からはじめていく ー 観光プロデューサー 佐々木 正志
「思いを持って活動しているけど、周りが共感してくれない」「地域(や会社)のために、頑張っているのに…」そう孤独を感じる人は多いのではないでしょうか。
今回、話を伺ったのは大山町を拠点に活動する“まーしー”こと佐々木正志さん。(以下、まーしー)なぜか、彼のまわりには自然と人が集まり、みんなが楽しんでいる。自分が楽しいと思ったことをし続けた結果、だれかの楽しみをも生み出している彼のスタイルは、頑張るあなたの考えをきっと広げてくれるはず。
会社ではなく、チームで動くおもしろさ
まーしー:「現在は、個人の仕事として観光事業の『OrangeTrip』、野菜通販の『OrangeBox』、大山の食材を味わう『大山パーティー』などを、法人の事業ではクラウドファンディングで資金調達した泊まれる芝畑の『トマシバ』とシェアオフィスの『シゴト場カケル』の運営をしています。」
加えて、シェアオフィスに入居するデザイナーや動画クリエイターなど個人のスキルを掛け合わせることで企業や団体のクリエイティブワークも請け負っているそう。
佐々木正志:東京生まれ、鳥取県大山町在住。大山町地域おこし協力隊を一年、個人事業を二年経て、合同会社sunsunto設立。鳥取大山を拠点に観光事業OrangeTrip / 野菜通販OrangeBox 等を展開。泊まれる芝畑「トマシバ」や、シェアオフィス「シゴト場カケル」もチームで運営。2018年クラウドファンディングにて、チーム一丸となり335万円を資金調達し、泊まれる芝畑「トマシバ」を開始。
“楽しむ”ことから仕事が生まれる
現在、法人の事業として行なっている『トマシバ』は、『グランピング施設をつくりましょう!』という形でスタートしたわけではないそう。
まーしー:「あるときから、自宅近くの芝農家さんのお手伝いをするようになって。自分だけではなく、フリーランスで働いている仲間や芝作業に興味ある人も誘い始めて、気づいたら芝農家さんのグループLINEメンバーが20名を超えるくらいになったんですよね。芝畑の作業を手伝いながら、芝農家さんや、フリーランスの仲間たちと『ここで何かできたらいいね』と話す中で、自然と『トマシバ』の構想が生まれたんです。』
(トマシバ/1日1組み限定の泊まれる芝畑。夜はバーベキューをしながら野外で映画も楽しめる)
日中は景色がよく、夜は星がとても綺麗。ツアーや手伝いに訪れる人の新鮮な反応が、そこに『すでにある価値』に気づく機会になったとまーしーさんは言います。
まーしー:「芝農家さんも外の人の目線が入ることで、『この場所は本当にいいんだ』と実感できたんです。それで一緒に、泊まれる芝畑をやろうという話になりました。」
さらに、『フリーランスの人が芝畑に集まる環境があるなら、近くに仕事場も作ってしまおう』とまーしーさんは思い、『シゴト場カケル』が生まれました。
“人がいること”からはじめる
まーしー:「『シゴト場カケル』は、作る前から誰が使うかはある程度決まっていました。場所を作ってから入居者を募集するのではなく、使う人たちが必要としていたものを作ったんです。」
『トマシバ』事業をいかに継続させていくかを考えた時、辿り着いた形態が『シゴト場カケル』でした。
まーしー:「芝畑の近くに仕事場を作ることで、芝畑の周辺に常に人が居る状態ができるんです。そうすることで、『トマシバ』にお客さんが泊まる日は、仕事場に入居している人がアルバイトとして設営をサポートしてくれて、『トマシバ』に常駐スタッフを配置する必要がなくなるんですよ。」
従来のキャンプ場のように、常駐スタッフをつけてしまうと人件費だけで大きなコストがかかってしまう。地域にある資源を活かしながら、持続可能な事業にするために生まれた仕組みでした。
まーしー:「地方と東京の仕事の仕方は根本から違うなと思っていて、地方は場所という資源がたくさんあって、大きなお金をかけずにスタートできるところが一番のメリット。だから、いかに小さく始めて続けていくかが大切だと思っています。」
未来は、わかりすぎない方がおもしろい
『未来は、どうなるかわからない方がおもしろい』と満面の笑みでまーしーさんは語ります。
まーしー:「大きな方向性はあって、計画はあくまで補助線として引いています。でも、行動した結果として起こる偶然の出来事や、直感が一番大事だと思っているので、直感を信じて進む道をいつでも本線にできるようにしているんですよ。」
『行動を積み重ねていたら想像できないことも起こる。だから面白い』と語るまーしーさん。そのスタンスがまーしーさん自身も、周りにいる人たちをも楽しませる要因なのかもしれません。
まーしー:「もちろん計画も大切だけど、それによって視野が狭くなってしまうのは嫌なんです。当時は、3年任期の地域おこし協力隊を1年で卒業するとも思っていなかったし、野菜の通販や、グランピングをしているなんて想像もしてなかったですからね。」
『大山がヤバい!』と感じたのも、まさにその時の直感
まーしー:「東京時代に自分が関わっていた宿泊施設がオープニングスタッフをwebで募集するときに、たまたまその一つ下に『大山で観光プロデューサー職を募集します』という案内があったんです。直感的におもしろそうと思ったのでその週に大山に行ったんですよ。」
直感で行動するタイプのまーしーさん。その行動力はさすがとしか言いようがありません。
まーしー:「学生時代に東京から九州や北海道までチャリで色々な所に訪れたけど、海から山までがこれほどコンパクトに詰まった場所に出会ったことはありませんでした。」
『当時は何がヤバいのか言語化できなくて、とにかくヤバいしか言えなかった』と苦笑しながらまーしーさんは続けます。
まーしー:「東京で育った自分が全国各地の色々な場所を見て来たからこそ、大山に来た時『ヤバい』と感じたことは間違いじゃないと自分の中で確信していました。だから大山にやって来た。そして3年くらいかけてその『ヤバい』を言語化しました。
大山は海から山までの距離が近い上に、雪と紅葉が一緒に観れることもあるんですよ。車で僅か10数分の距離で季節のグラデーションが味わえる場所って、日本全国を探してもあまりないと思うんです。」
『直感的なことを伝えたいときに理論が橋渡ししてくれる』『直感も大事だし、理論も大事だと思う』と、まーしーさんは直感的なタイプだからこそ、必要な時には、理論も駆使して、相手に伝えるようにしているそうです。
『自分のため』と『人のため』の交差点
『自分の興味関心が広がったのは震災なのかもしれない』とまーしーさんは続けます。
まーしー:「東日本大震災までは、バスケ命でした。プロのバスケ選手になりたかったですし、ましてやボランティアをする人たちの気持ちなんて全然わからなかったんですよ。でも震災があった時は動かずにはいられませんでした。すぐに被災地にいきたかったけど、当時学生だったので、危ないという理由で入れなくて。学生を受け入れることができる状態になった一番始めの頃に日本財団の『Gakuvo』を見つけて被災地に入りました。」
まーしーさんはゴミ拾いや土を掘ったりして、一週間くらいの滞在を何度も繰り返し参加していました。
まーしー:「そこで一緒に活動したメンバーとの出会いも嬉しいものばかりでしたし、活動する中で現地の人に喜ばれることが、自分にとっても得るものや学ぶことが大きくて。結果として人のためにもなることが、ボランティアに参加する人の動機なのかなと、その時に初めて気づけたんです。」
それまではバスケ命でバスケしか興味なかったまーしーさん。『自分のため』に動いたことが、『人のため』に重なることがあると感じた瞬間でした。
大山には“おもしろい人”がたくさん暮らしている
(森のスープ屋の夜さん/現在は1組限定の宿を営んでいる/写真はスープ屋を営んでいた当時の写真)
まーしー:「最近できた『森のスープ屋の夜』はめっちゃおすすめです。元々スープ屋さんだったのですが宿としてオープンして、すごく落ち着く、素敵な場所なんです。なにより店主のかずぅさんが素敵すぎるので、ぜひ宿泊して出会ってほしいですね。」
趣味趣向の違う人におすすめのコンテンツを届けるために始めたのが『Orange Trip For You』というオーダーメイドのツアー。
まーしー:「大山にモデルがいるキャラクターから三人選ぶと、その人の趣味趣向にあったオリジナルのツアーコースができるようになっています。ガイドは15,000円(5名まで)で、6名以上は3,000円/1人。大山寺や大神山神社のような有名な観光地も案内しますが、『暮らしに触れる観光』をテーマにしていて、観光地以外の、『人が紐づいている暮らし』にも触れて欲しくて、人を紹介しながら案内するので関係性も生まれやすいんです。」
(Orange Trip で地域を巡る様子)
まーしー:「案内したところから関係性が始まるので、何度も来る人がすごく多いんですよ。来る度に仲良くなって、2,3回来れば関係性ができるので、気付いたら僕がいなくても来れるようになってますね。」
『関係人口を作る上で大切なのは、その人とその場所にとっての一番適切な距離感』だとまーしーさんは続けます。
まーしー:「人によって、季節ごとにとか、一年に一回とか十年に一回とか、大山に来るちょうどいい期間があると思うんです。そもそも大山に合っていない人もいるかもしれない。何でもかんでも近づけるのではなくって、その人にとってその場所との適切な距離感を見つけていくことが何より大切だと思います。」
鳥取の“行きにくさ”は武器になる
まーしー:「鳥取の行きにくさは武器になると思っています。行きにくい場所に行く時ほど自発性が求められますし、そうまでして来てくれるということは、楽しむ準備はもうできているんです。だからこそ、訪れてくれた人が、その土地で暮らす人と楽しめる関係ができると、何度も足を運んでくれるきっかけにもなります。しかも実際には飛行機で一時間なので、そこまで行きにくくないところも良いギャップですね」
『大山に来てくれたら、100%楽しんでもらえる』と自信満々に語る背景には、地道な活動の積み重ねもありました。
まーしー:「4月〜10月の春・夏・秋は、大山のツアーとグランピングをメインに活動していて、『トマシバ』もその時期にオープンしています。11月〜3月の冬の時期は、自分が東京や大山を訪れてくれた人のところに行く期間です。『来てくれてありがとう』で終わらせないようにしています。」
大山に居続けるのではなく、自分からも各地に足を運ぶまーしーさん。だからこそ、旅先での出会いだけに終わらず、継続的に遊びに来る理由になっているのだと思います。
まーしー:「東京や県外へ出向く際には、大山の食材を使ったイベントをさせてもらうんです。実際に大山を訪れてくれた人が『大山おもろいよ』と言える場所を作ったり、リアルな言葉を伝えれる場所を作っているのがその期間ですね。大山にいる自分ではなくて、来てくれた人が本当に思ったことを友達に伝えることは、広告よりも力がありますから。」
(県外イベントの様子)
『鳥取は行きにくいイメージがあるからこそ、“食”を囲むことで鳥取に足を運ぶ最初の一歩目を作ってあげる』とまーしーさん。そして、冬場に県外に出る理由がもう一つ。
まーしー:「大山全体の観光の課題として、春・夏・秋にお客さんが少ないということがあります。自分が冬に出向くことで大山を知るきっかけを作り、春・夏・秋に訪れてくれる人が増えたらいいなと思っているんです。」
自分が“おもしろい”と思うことを
『一人でやっていても面白くないから、自分たちの会社だけが大きくなることにはあまり興味がない』と語るまーしーさん。自分一人で大きくなる気がないと話す彼のまわりには、常に人が集まっています。
まーしー:「一緒の熱量やテンションを持っている人たちと活動できれば、それが広がっていくんじゃないですかね。自分がおもしろいと思うことをした方がいいですよ、絶対に。まわりがどうこういうよりかは、一緒におもしろがってくれる人とやればいいと思います。」
何かをはじめるときはつい、『みんなの共感を!』と対象が広くなりがち。でもまーしーさんは、『誰でも彼でもチームにして、“みんなでやれば遠くに行ける”と言うのは正確には違う』と言います。
まーしー:「同じ熱量でやれる人とやった結果、人が増えていって“みんな”になる。そうすれば遠くに行けるけど、最初から“みんな”を巻き込もうとすると、歩幅も違うし趣味趣向も違うからむしろ止まってしまうんです。結局は“一緒におもしろがれる人”を一人ずつ増やしていく、コツコツした積み重ねが最強だと思います。」
Orange Trip:http://daisenworld.jp/orangetrip/orangetrip.html
トマシバ:https://www.tomashiba.com
文・撮影:米泳ぐ(森田 悟史/河津 優平) 編集:藤吉 航介
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