外界夜 夢中
あの顔は、見たことがある気がする。
これまでに、何万、何十万もの顔を見てきた私にとって、その顔はそんな中の一つに過ぎない。
大抵の顔の主は少年で、いつもこちらをまじまじと見つめている。
だが今、目の前にいるのは、20を少し過ぎたくらいの男だ。
今、目の前に立っている男も、かつては少年であった。
かつての、希望に満ち煌めく瞳はそこには無い。
けれども、真剣な眼差しでこちらの世界を見ていた頃の面影は、まだ残っている。
私が彼に直接会えるのは、この空間だけ。
そんな彼を、私は海へと突き落とす。
決して慌てず、焦らず、穏やかな気持ちで。
彼は、同じく穏やかに、海へと落下していく。
しばらくして静寂が訪れると、私は水面を覗き込む。
そこには、波で揺れてぼやけた先に、微笑をたたえた彼の顔が。
どんどん沈んでいく彼は、やがて漆黒に染まり、ついには何も見えなくなる。
私は笑顔で背を向け、その場から立ち去る。
もと来た世界へ、帰っていく。
彼はこの出来事を、覚えているだろうか。
そんなことを考えながら。
明日も、ソドー島は賑やかだろうなぁ。