浦桃金太郎
産業廃棄物で汚染された浜辺で、一機のカメ型潜水ポッドが打ち上げられている。近年普及した、個人用完全AI操縦の水中ポッドだ。
その周りでは、5人の汚い身なりの男たちが車に向かって落ちている金属片を投げつけている。
「おいおい、車が可哀想じゃないか。この美味すぎるきび団子をやるから、さっさと家に帰りな。」
浦桃金太郎はそう言うと、担いでいる斧の柄の端を捻り、そこからきび団子を取り出した。きびだんごからは少しばかり煙のようなものが漂っている。
男たちは喜んでそれを受け取り、各々家の方へ走って行った。
「そのきび団子のことは、誰にも内緒だぞー。」
浦桃金太郎(以下、太郎)は、カメ型ポッドに近づくと、中に乗り込んでみた。
太郎「こんにちは。」
ポッド「こんにちは。私は、カメ型水中ポッドのchat-tttです。残念なことに、現在このポッドは故障しております。船底部の修理をお願いします。」
幸いなことに、太郎はメカニックとしての才能と、とんでもない馬鹿力の持ち主だった。こんな故障などすぐに直すことができる。
太郎は船外に降りて、およそ1トンはあろうかと言うポッドをひっくり返し、船底の修理を行なった。
太郎「さぁ、直ったぞ。」
ポッド「ありがとうございます。私は現在、龍宮町1丁目の乙姫様の持ち物であります。故障により流され打ち上げられました。今、あなた様に修理して頂いたことを乙姫様にメッセージにて送信したところ、ぜひお礼をしたいと申しております。さぁ、お乗りください。」
太郎「そうかそうか、あの大富豪の持ち物なんだな。じゃあ、お礼とやらを受け取りに行くかな。」
そういうと太郎はポッドに乗り込んだ。
ポッドは、太郎が乗り込んだことを確認すると、電子音と共に動き出し、水中へと進み始めた。
目的地に到着するまでの間、太郎はポッドと色々な話をした。
最初はポッドと他愛も無い会話をしていたが、やがてポッドの質問に答える形で、太郎は自身の身の丈を語り始めた。
太郎「俺は生まれた場所を知らないんだ。ただ、桃型のカプセルに入れられて海を漂っているところを、漁師のお爺さんとお婆さんに拾われ、育ててもらったんだ。二人はとても優しい人で、俺はたっぷり愛情を受けて育ったんだよ。周りの親子たちと同じようにな。
でも、だんだんと成長してくるにつれ、俺は特殊だと気づいたんだ。身長は2メートルを超え、村に現れた熊を投げ飛ばすほどの怪力となった。常人じゃこんなことできないだろ?おまけに見てくれ、頭の真ん中から一本の小さな角が出てきたんだよ。
だからそんな俺を怖がって、それまで仲の良かった友達や隣人は離れて行った。最後まで味方をしてくれたのは、お爺さんお婆さんの二人だけさ。
まぁ、二人はもう死んでしまったけどな、、。」
ポッド「それは、お気の毒に。大切な人を無くしたのですね。その後、あなたは何をしていたのですか?」
太郎「そのあとか、そうだな、何をしていたわけでもないよ。今日みたいにふらふらと過ごしていたのさ。」
まさか自分が、あのきびだんごで生計を立てていたなんてことは、口が裂けても言えない。
太郎はぐっと堪えた。
ポッド「そろそろ到着です。お疲れ様でした。」
太郎が窓の外をみると、広々とした正門が見えてきた。近付くにつれてその大きさに圧倒される。
流石は乙姫のお城だ。
太郎は唾を飲み込んだ。