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「組織内コミュニティが陥る罠と打開策」への質疑応答①

先日ONE JAPANさんの有志団体総選挙にて審査員を務めさせていただきました。その時標記のタイトルで短めのセッションを担当したのですが、これについて会場から出た質問について非常に端的にしか回答できなかったので補足も含めてこちらでテキストにしておこうと思います。


創設者がいなくなってしまった。どうしたらいいか。

私は、組織の中のコミュニティを「組織的、個人的なビジネス上の目的達成のために従業員が諸力を提供して関わり合うことによって、技能熟練や知識創出、そして自身の内的心理発達を促進する集団であり、その成果が何らかの形で組織に還元されるもの」と定義しています(ちょっと固い書き方ですけど定義なのでご容赦ください)。

創設者の想いやリーダーシップはコミュニティを発展させる重要なエンジンになり得ますが、定義に照らせばそれよりも重要なのはメンバーがどのような目的をもって集まっているかと言うところです。みんなが創設者のリーダーシップに頼りきりでついて行っているだけ、では「諸力を提供して関わり合うこと」が成立しないためコミュニティとは呼べない、と言えるでしょう。逆に言えば、それさえ成立していれば創設者がいなくても大きな問題はないとも言えます。

大切なのは、自分たちが何をしたいのか。そのためにお互いにどのようなことができるのか、です。創設者がいなくなったことを逆に好機ととらえて、ゼロからコミュニティの在り方を考えてみると良いかもしれません。創設者がいなくなって今路頭に迷っている心境かもしれません。ですが、既に何かをきっかけに集まった人々なのですから、心の奥にはまだ言語化できていない動機が眠っているはずです。

本業をやらずに会社を去ってしまう人がいる

非公式なコミュニティ活動というのは、社内とは言え全く異なる状況に属するという意味では越境的です。つまり、会社にいる自分とコミュニティにいる自分は違う人間に感じられる事があります。これは平たく言えば、仕事は楽しくないがコミュニティ活動は楽しい、もっとそういう方向に進みたい、という状態になりうるという事なので、会社を去ってしまうというのはある意味理にかなっています。実践共同体研究においては、これはアイデンティティ形成と言う観点から議論します。

この点について法政大学の石山先生は、「(知識の)還流のプロセスを経験し、越境元共同体に異種混成の実践を生成することを通して、複数共同体基底価値観を受容できるようになる」と述べています。ここでいう「複数共同体基底価値観を受容」というのは、複数の価値観を自分なりに咀嚼、納得し、新たなアイデンティティが形成されるということです。逆に言えば、知識還流のプロセスがなければ複数の活動を包摂したアイデンティティは形成されず、「会社の私」と「コミュニティの私」はバラバラのままになってしまうという恐れがあります。したがって、ここで重要なのは、コミュニティの活動内容が実際の業務との関連性を持っているか、コミュニティで得た知識やスキルを本業の場で活かす機会があるか、ということになります。

このために重要な構造として「二重編みの組織」が挙げられます。これは組織的な支援(知識の世話)と、そこからコミュニティが生み出した知識がビジネスに適用される(知的資本の適用)事が相互に関係、循環している状態を指します。これにより知識形成が進み、コミュニティメンバーにはさらなる学習が促されます。このような状態を作り出すには組織とどのような相互作用が必要になるかを考えていく必要があるのですが、それはまた別の話なのでここでは割愛します。ただ、現時点で二重編み組織へと至っていないとしても、小さなことでも知識資本の適用が行われていれば、それが第一歩となるでしょう。

二重編みの組織


長くなるので一旦ここまでとして、次回以降で分量見ながら残りの質問を取り扱っていきます。

・コアメンバーとそうでない人の熱量の差をどう埋めればよいか
・新人はどうコミュニティに関わればいいか
・ずっと根性だけでは続かない。継続して活動するためにはどうすればいいか
・この様な活動は今後日本でどうなっていくのか


参考文献
石山恒貴. (2013). 「実践共同体のブローカーによる,企業外の実践の企業内への還流プロセス」,経営行動科学26(2), 115-132.

Wenger, E., McDermott, R. A., & Snyder, W. (2002). Cultivating Communities of Practice: A Guide to Managing Knowledge. Harvard Business School Press. (櫻井祐子訳. (2002). 『コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践』. 翔泳社.).