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大阪はライトパック、東京はフルパック
東京に引っ越して、はや数か月。
東京に行ったらおしゃれな美容院に通うんだ!という小さな夢を叶えるために美容院を転々としているが、いまだにお気に入りのお店を見つけられずにいる。
まだ暑さの残る9月、そろそろ前髪が伸びて嫌になってきたので、ホットペッパービューティーで近所のお店を探していると「表参道から移転!」という文字が目に飛び込んできた。
表参道といえばファッションの中心地で、おしゃれな人しかいないイメージ…。
そんな場所から来たお店に、私のようなちんちくりんが行ったら門前払いされないかしらと心配になったが、ものは経験、追い返されたらそれまでと予約してしまった。
当日、少しドキドキしながらお店へ。
心配は全くの杞憂で、白と黒がメインのおしゃれな内装と、静かな空間がとても居心地がよく、美容師さん(仮:Sさん)も気さくで親切だった。
そのSさんとの会話で忘れたくないなと思ったことがあったので、ここに残しておこうと思う。
大阪に行ったことがない
Sさんは、私と同い年だった(30歳で店長とのこと。すごい!)。
仕事や趣味の話をしていると「関西の人?」と聞かれた。方言で分かったらしい。
すると彼はこんなことを言った。
「今まで僕、大阪に行ったことがないんですよ。」
「え、一度も?修学旅行とかでも?」
「京都はあるけど大阪はないんです。だからUSJも行ったことなくて…。」
旅行先としてはベーシックな都市だと思っていたのでびっくりした。
「どうして?大阪嫌いですか?」
「嫌いじゃないよ!でも、今後自分が名古屋とか福岡とか、他の場所に住むイメージは何となくつくけど、大阪で暮らすイメージだけはつかなくて。
僕からしたら、東京と大阪ってほぼ同じなんですよね。仕事や暮らしの拠点にするなら、東京か大阪か。僕は生まれも育ちも東京だから、もう大阪に住むことはないと思うし、遊びに行きたいともあまり思わない。」
そんなん全然ちゃうから、一回行ってみ!と思わずつっこみそうになったが、たしかに、行ったことがないなら同じようなイメージを持ってもおかしくないかもしれない。
なら、私が感じる大阪と東京の違いって何だろう?
似ているけど、違う
「確かに大阪と東京は同じ都市なので、雰囲気は似ていますけど…でも全然ちがうと思います。」
「ほんとに?どの辺が?」
大都市東京と、関西の拠点、大阪。
「うーん、そうですね…。…例えるなら、東京が街のフルパッケージだとすると、大阪はその中から必要なものだけをピックアップしたライトパッケージ…みたいな。」
大阪はライトパック、東京はフルパック
私が東京にきて最初に驚いたことは、駅の大きさだった。
東京駅は北から南まで散歩できそうだし、新宿駅や池袋駅はもはやダンジョンだ。出口が10個以上あって案内表示がないと駅から出られない。
地上に出ると、今度は建物と看板の量にびっくりする。渋谷も新宿も、空にまで看板が貼りついているのかと思うほどだ。
警察署からのアナウンスが常に流れている街もあり、歩きながら五感をフルに使っているような感覚になる。
たくさんの情報と選択肢であふれる街だが、どこか洗練されている。それは、住む人々が誇りを持って生活し、より便利に新しく、前に進んでいこうという姿勢を持っているからなのか、日本の首都としての威厳すら感じるのだ。
一方、大阪は東京ほど人も多くないし店も少ない。難波のように眠らない街もあるが、新宿に比べたらかわいいものだ。
だけど不便さは感じない。スーパーや病院、観光地やテーマパークとひと通りあって、旅行や買い物だって楽しめる。
そして、なんとなく感じる地方感。これを作っているのは人だろう。人情の街と言われるだけあり、おせっかいで温かい人が多い。(飴を持ち歩くおばちゃんは本当に存在しているのだ…。)
大阪にいると、都会の雑多さと田舎のノスタルジック両方を感じることができる。
つまり、
東京→人が住む街として必要かつ、あると便利な要素を全て持つ街
大阪→その中からよさげなものを組み合わせて、さらに地方感というオプションをつけた街
というイメージの話をしたのだが、Sさんは大阪に少し興味を持ってくれたようだった。
終わりに
美容院からの帰り道。
生ぬるい、夕方の風に包まれながら、ふとその中にまじるにおいが気になった。
人のにおい、食べ物のにおい、雨あがりの川のにおい…。
東京の風はいろんなにおいがする。
私はまだ、東京になじめていない。
今日のSさんとの会話を思い返し、もしかしたら私は東京の先進的な空気に気圧されてしまっているのかもしれないと思った。
でもそのうち、東京の空気が当たり前となり、自分もその中に溶けこむ日がくるのだろう。
大阪への恋しさが懐かしさに変わるとき、私の東京に対する評価もまた変わるのだろうか…。そう思うとちょっと楽しみだな、と少しだけ息を吸い込んだ。