流出動画でデンベレ選手がしゃべったこと
2019年にFCバルセロナのウスマン・デンベレ選手が来日した際、ホテルの一室で撮影したプライベート動画がこの度、ネット上に流出。その内容が人種差別的と非難され、内外で物議を醸している件ですが、撮影の目的に大胆な想像をめぐらしつつ、デンベレ選手の発言の真のニュアンスを推理します。
デンベレ選手の謝罪後も批判が続いている目下、正直にこれを述べるのはなんだか勇気が必要で、どきどきしてしまいますが、結論から言うと、彼の言動は、わたしにはふてくされたぼやき節にしか思えず、日本人への侮辱や差別意識を感じませんでした。(唯一、部屋へ呼ばれた日本人男性の顔をアップで撮影したのは無作法だと思いましたが。)
まぁまぁ、もうちょっと読んでください。
まるっきり勝手な想像ですが、この動画の撮影の目的は、「遠征先での残念な出来事」とでも銘打って、仲間同士で笑い話をするためのネタだったのではなかろうか。「夜さー、みんなでサッカーゲームやろうってんで、テレビのモニター使いたかったんだけど、結局バグってトホホ」みたいな。折りにふれ、旅先からそんな動画を送信し合って、遠征に選ばれた者も選ばれなかった者も(わかりませんけど、たぶん)、いっしょに見て楽しんでいたのではないでしょうか。だとすると、ウケるネタは、いきおい、情けないエピソードとなります。順調であっぱれなストーリーなんて犬も食わないですから。(ありゃ、犬に失礼な言い方を。スミマセン。)
デンベレ選手の謝罪の言葉にあった、「どこの国だろうが、同じ光景が繰り広げられていたかもしれない」は、もしかするとそういうことなのではないでしょうか。
そんな頭でこの動画を見ると、彼の発言内容は何も問題ないように思えてしまうのです。音声テキスト(7月4日付リベラシオン紙より抜粋)と拙訳は以下のとおり。
①Toutes ces sales gueules pour jouer à PES, mon frère.
なぁ、ブラザー、サッカーゲームやるために、寄ってたかってシケた面でやんの。
②T’a pas honte?
こんなことで気兼ねするなんてな。
③Putain, la langue!
クソ、何言ってやがんだ、さっぱりわからねえ。
④Vous êtes en avance ou vous n’êtes pas en avance dans votre pays, ouais?!
おじさんたち、この国で、機械のこと、ちゃんとわかってる人? わかってない人が呼ばれちゃってんじゃねーの、おいおい?!
②の直訳は、「おまえ、恥ずかしくないか」。'honte'の第一義は「恥」ですが、その指し示す範囲は日本語とは異なり、「気兼ね」「遠慮」のニュアンスを含み得ると認識しています。
④は、直訳すると、「あなたがたの国の中で、あなたがたは進んでる人たちですか? 進んでいない人たちですか?」。(=Are you advanced, or not advanced in your country?)
たいへん多くの方がこの文を、「あなたがたは先進国の人ですか? そうではないんですか?」とし、設定変更に手こずる技術スタッフをなじるニュアンスを前面に出して訳していらっしゃいます。
しかし、動画の音声にあくまで忠実に、「あなたがたの国において」という副詞句をないがしろにしない訳文をこしらえてみたのが、上記です。
デンベレ選手は、わたしには、宮藤官九郎さんのドラマで塚本高史さんや大倉孝二さんが演じる役柄のような、やさぐれ系で、態度のよくない青年の印象です。素顔の彼が、もし本当にそんなキャラで、それも相まって大いなる誤解を招いたのだとすれば、自身の言動をもう少しくわしく、丁寧に言葉にする何らかの機会があってもよいのでは、と感じさせられます。
(写真は、2019年春に閉店した、東京・青山のブラジル音楽のライブレストラン、プラッサオンゼの入り口。ブラジルの歴史と音楽には、人種と文化の違いを乗り越える営みが厚く積み重なっています。)