奈良大峰山「千日回峰行」の道を歩く
千日回峰行とは、簡単に言いますと、山道を1000日間8年かけてひたすら歩く最も過酷と言われる修行のことです。場所は京都から滋賀にまたがる比叡山と奈良の大峰山の2カ所があります。
私が今回挑戦したのは、奈良の金峯山寺から、山上ヶ岳の大峯山寺までを1日で往復するコースでした。
このコースで達成された修行僧は2人しかいないそうです。その1人である塩沼亮潤さんの著書を読んで私も歩いてみたいと思っていました。
片道24kmで、金峯山寺の蔵王堂(364m)から大峯山寺(1719m)の高低差は1355mもあります。1年のうち歩く期間は山開きの5月3日から9月22日までとされています。その間は1日も欠かすことはできません。リタイアしたら自害することになります。
往復48kmで修行僧でも15~16時間かかると言われます。私が今までで最も長く歩いた距離は約50kmです。しかも若い中学生の時であり、山道ではなく平たい舗装道路でした。当時も予定を大幅に遅れ、物凄く疲れたことを覚えています。現在56歳の私が全部歩けるものではないと思っていましたが、どこまで行けるのかと、修験道の聖地であり未だに「女人結界」の地が残るその場の雰囲気を感じてみたくて今回行ってみることにしました。
本来のスタート地は蔵王堂ですが、私は下にある観光駐車場に車を停めましたので、その分長く歩くことになります。出発時間は7時半でした。
因みに修行僧は、水で体を清めてから夜中の12時半くらいに出発します。
案内図にある「奥千本」までが観光地として整備されていて、ほとんどが舗装道路です。奥千本までで、2時間50分かかりました。全体でいうとまだ序の口です。
奥千本から抜ける所に旧女人結界碑があり、ここからが本格的な修行場になります。女人結界とは、女性はそこからは入れないという意味です。
これは昔のものなので、今は女性でも行けるようです。しかし私の妻は絶対行かないといいます。気にする人は行かない方がいいかもしれません。女人結界碑は山上ヶ岳周辺にもありますので、今はそこが本当の結界のようです。結果を言いますと、今回、私はそこまで行けなかったです。
ところでなぜ今の時代に「女人結界」があるのかと、女性の方は怒るかもしれません。江戸時代までは高野山も女人禁制でした。空海さんが修行の妨げになると決めたようです。明治になって明治政府がそれを止めさせたのですが、それまでも信心深い女性は高野山の周囲を回る「女人道」を歩いて遠くから高野山のお参りをしたそうです。
私は男性ですから、女性が近くにいると修行の妨げになるというのはよく分かります。ただ、女性でも「お参りをしたい」とか少数かもしれませんが「修行をしたい」という気持ちをないがしろにして良いのかと疑問に感じる所でもあります。
旧女人結界碑を過ぎると、険しい山道に入ります。
急な登りは早くは歩けませんので、少し平地になったところではできるだけスピードを上げます。今までの登山では考えられないようなペースで歩きます。やはり修験道の気のようなものがあるのでしょうか。
塩沼亮潤さんは、夜中の休憩中に鬼に引っ張られたことがあると書かれていました。さすがにぞっとしますが、私が歩いている範囲では鬼にも天狗にも会いませんでした。ただ、黒い蛇が足元にいてびっくりしました。
山上ヶ岳に行くまでに2つの山を越えないといけません。1つ目が1235mの四寸岩山です。ここに着くまでに約5時間かかりました。せっかく登った山を下って、2つ目の山である大天井ヶ岳(1438m)を目指します。
しかし、四寸岩山を下って車道に出た所にあった案内板を見ると、山上ヶ岳まで約11kmとあります。
この時点で13時を回っていました。帰る時間を考えるとここまでと判断して、13時半まで行ってから引き返しました。出発してから約6時間です。
片道24kmなので、距離的には半分以上は行ったと思います。しかし、そこからさらに高い山を2つ登ることを考えると必要なエネルギーは半分以下だったと思います。ここまででも足はかなり疲れています。まだ半分も行っていないのは、やはり「とんでもない」修行であることが少し分かりました。帰りは四寸岩山の頂上までは登らないといけません。そこからはほぼ下りですが、約4時間かかりました。
また、案内板のある広場で休憩していた所、軽トラにのった男性が止まりました。その人は山道から滑落した人を救助したといいます。そういえば午前中にヘリコプターの音が聞こえていました。救助された人は命に別状はありませんが骨折していたそうです。ヘリまで出しての救助は大変なことで、私も落ちる可能性を考えて帰りは慎重に歩きました。
この体験で得た情報は、物凄い量でとても書ききれません。これは、もう1度挑戦して全行程を踏破したいという意欲が湧きました。できたら来年も行ってみたいと思います。