取調べ通訳になっちゃった 〜手紙の検閲〜
いろんなところに通訳翻訳業で登録をし、語学のスクールにも登録をしたけれど、すぐに仕事が来るわけもない。どうして新米通訳翻訳者には仕事が回りにくいのかという話を本題前に少ししてみようと思う。
だいたい、何か翻訳案件や通訳案件が翻訳会社に入って、値段や納期の交渉が会社とクライアントで方向性がつきそうになった時点で「その価格帯にあった人選」なるものが行われる。高いのはよくできる人に、とにかく安くしてーっていう人にはそれなりの人というのがまぁ当然。通訳翻訳業をフリーランスでやっている人というのは、大体わたくしが最初にやったように複数に登録しながら、メインで受ける会社が決まっていることが多い。
その会社に来る仕事の内容、価格帯、納期などでその仕事を受けられる人が大体絞られてくるし、多言語を標榜していても、どの言語に強いかは手飼いの有能な人の電話番号をどれぐらいもっているかに寄る所が大きい。
仕事がほぼ受注、となる時点で翻訳者や通訳者にブッキングがかかるわけですが、その時に会社の中で「コーディネーター」と呼ばれる人に仕事が割り振られ、コーディネーターが翻訳者にブッキングをし、色々な調整作業をして、納品されたものにチェックが必要ならそれを「チェッカー」というまた別の人に回してクライアントに納品という作業を取る。チェッカー歴も長いので、またその話はまたの機会に。
コーディネーターも人の子なので、なるたけやりやすい人と組みたい。知らない人で、変な翻訳されたり、納期遅れられると困るからそりゃそうなのである。そうすると必然的に、勝手がわかっている人に案件が飛んでいくというパターンが多い。希少言語は他の言語の翻訳者と違い、案件数が圧倒的に少ないので、餌が少ない。笑 英語だと、細かく翻訳ジャンルが分かれていて、他のジャンルは受けないと聞くが、私たち希少言語はなんでもござれだ。商務翻訳からマニュアル、映画の台本までなんでもこなしてきた。ただ、年数を重ねると他でエースになってたりするのでブッキングの関係でおこぼれが出た時に、新米の出番となることが多いんじゃないかしらと思う。
気心の知れたコーディネーターというのは、実は翻訳者にとっても都合の良い存在でもある。大変な案件の場合は「納期ちょっと厳しいやん、週明けにして」とか「この量でこの値段はないやろ」とかどうにか納期か値段を上げるようなあの手この手の言説で「さもありなん」と思わせられたらしめたもの、クライアントに交渉してもらえる。
まぁ、クライアントはすでに私たちに払う何割もプラスで払ってらっしゃいますが、多少の無理を聞けるときは聞いておくと「この間頑張ってんから、これはちょっとそっちが頑張りなはれ」なんていうことも言えたりする、持ちつ持たれつの共同体のような関係になれる。
そういうことで、前置きがずいぶん長くなってしまいました。全く期待をしていなかったK通訳のYさんという事務員さんから電話があったのは一月もたたなかった頃だろうと思う。なぜYさんはコーディネーターではなく事務員なのかというと、あのプレハブのオフィスを思い出すにつけ「コーディネーター」なんていうカタカナのシュッとした肩書きには程遠い環境だったから仕方がない。
「手紙の翻訳来ましたので送ってよろしいでしょうか」という事務的な電話。指示書は当時ファックスで、コピーされた手紙の束が封書で数日後送られてきた。手紙は長さに関わらず、一件1500円。
手紙の翻訳というよりは、要約と言ったほうが正しい。自殺や事件を仄めかす内容かどうかを当局が確認するために内容を数行程度にまとめる。もちろん、その疑いのある場合にはその部分をきちんと翻訳する。
わたくしは、中部の農村地域に留学していたせいもあり、色々な生活水準の人の字を読んでいたつもりだったけれど、最初は読むのにずいぶん時間がかかった。人の手紙を読むという、普通では悪趣味で後ろめたく感じる作業が仕事となっているせいかもしれないし、人生でたくさん字を書いてこなかった人の字は自分にとって未知のものだったからかもしれない。とにかく書き手がさまざまな思いを込めて書いた手紙を定期的に覗き読むことが最初の仕事になっていった。
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