スイートな関係
あれは学生の時だったかな。
明治大学に通う男の子と会った。今となっては明治学院だったか明治だったかは定かでない。
その時私は彼氏と別れていて、やさぐれ時期で、とにかくまぁなんでもよかったのかもしれない。
誘われるまま映画を見に行った。
その時に観た映画のことがずっと記憶に残っていて、今でもたびたび検索する。
以前はサブスクで観れていたような気がするするが、先日検索したらそのタイトルはありません(配信していません)となった。
『スイートリトルライズ』
江國香織さんの小説を映画化したものだった。
内容は夫婦のすれ違い、不倫といったものだったかと思う。でもそれが、浅くもなく美しく静かに描かれていて。
全くそんな立場でもないし年齢でもないあの頃の私に、響いた。
その時はなんだこの映画?よくわからん。という感想だったが、あれから時を超えて、歳をとって、なぜか気になる。
あの薄雲がかかったような映像と、花の咲く小道、螺旋階段からの風景全てが猛烈に記憶に残った。
あの日、映画館で男の子は何を思ってこの作品を見せたのだろう。
何を観るかは知らされていなかった。その子は映画館でアルバイトをしていたらしかった。らしかった、というのはあまり彼に興味がなかったから特にそれ以上追求しなかったのだ。
映画館でバイトしてるから、ポスターとか期間が終わったらもらってるんだ、と自慢げに話す彼のパーマが揺れる。
上映中、彼がソワソワしているのがわかり、また、何度も何度も体をこちらに寄せてくるのもわかった。
肘かけを越えて、私の手の上に手を置いた時に、彼の方を向いて何かあった?というふうに首を傾げたら、彼は首を振って、手を引っ込めた。
私の中で、映画に一緒に行くことと、手を繋ぐことはイコールではなかったから、わからないふりをした。
あの時のあの瞬間が、蘇る。
友達ではいられない、そんな年頃だった。
私に後日恋人ができたと知ると、彼は当時のSNSでわたしをフォローから外した。