昔の想い出をトレースする
岐阜県のとある世界遺産でのお話です。
眺めのいい展望台で記念撮影サービスに勤しんでいると、3人のご家族がやってきました。
お見掛けするに18歳くらいの息子さんと、そのご両親のようです。
すぐさま撮影の待ち列に並んでいただきました。
そしてご家族の順番がやって来ました。
するとお父様が私に話しかけられました。
「15年ぶりにここに来たよ」
「えっ!? 15年ぶりですか」
「夏やったなぁ、15年前の夏。この場所で撮影してもろたんや」
懐かしそうに話すお父様の隣では、お母さまがにこやかに目を細めます。
撮影を始めようとすると、息子さんを中心に並びます。
「ここはほんま昔と変わらんなぁ。あの時は息子が小さかったからね、抱っこして撮ってもろたんですよ。せっかくや。15年前と同じように撮ろっか」
「あ、それいいですね。ぜひ撮りましょう」
お父様の提案に私は賛同しました。
「来い。抱っこしてやる」
「やめろって、恥ずかしいだろ」
即答で拒否する息子さんと、その様子を微笑みながら見守るお母さま。
私はこの素敵な雰囲気をそのまま写真におさめたいと感じ、素早くカメラを構え、空かさず
パシャッ!とシャッターを切りました。
撮影が終わり、写真の仕上がりを見ていただきます。皆さまとても良い笑顔で写っていただきました。
「よく撮れてるわ、ありがとうございます」
笑顔でまじまじと写真を眺めるお母さま。息子さんも嬉しそうです。
お礼を言われて私は、「私にとっても、想い出深い撮影となりました」と本心を述べました。
「いい撮影やったで」そう言って私の肩をポンと叩くお父様。
やがて記念写真をお土産に、笑顔で帰っていくご家族。
その後ろ姿を見送る私の中では、自分の両親の姿が想い浮かんでいました。いつか私も両親と、昔撮った同じ場所で記念撮影をしたい。できれば昔と同じ構図で。
なぜならそれは、写真を見返すだけでは味わえない、より深い想い出の噛みしめ方だと感じたからです。
記念写真に写る「昔」と目に映る「今」とを見比べつつ、かつて訪れた土地を両親と歩く。それってとても楽しそうですよね。
あの時みんなで何をしたっけ、どんな会話をしてたかな、この道ってこんなに短かったんだ。あれこれ言い合いながら当時の行く先をなぞる。考えただけで素敵な旅になりそうです。
忘れてしまった想い出も、みんなで懐かしみ歩いていれば、きっとたくさん想い起こせるに違いありません。
そこで新たに撮影する記念写真は、私たち家族の新しい宝物。昔の写真が過去から今に想い出を繋げてくれたように、今から未来へと想い出を紡いでいってくれるはずです。
このように記念写真とはただ見返すだけのものではなく、想い出をより深く味わうために色々な使い方ができるものなのだと改めて発見しました。
これからも私自身、大切な想い出を大切な誰かと共有するためにも「今」をできるだけ記念写真に残したいと感じました。
そしてそんな感慨深い、想い出深い撮影をさせていただけた今日のご家族にも、心から感謝を申し上げたいと思います。