学校で
ひとりのときは残酷行為に浸ってしまう私も、学校の中では普通の女の子でした。意図的に普通の子を演じていたというわけではなく、そのどちらもが自分でした。表と裏ですね。
だからというわけではないのですが、学校にいるときに虫やミミズを踏み潰すことは、ほぼなかったように記憶しています。学校や塾の帰りには何千匹のミミズや虫を処刑していた私なのに、学校ではそういう衝動に駆られることもありませんでした。それが校門を出てミミズロードが近付くと、パチンとスイッチが入ったかのように、残虐な心がぎゅんぎゅん湧き起こってくるのです。おもしろいですね(笑)
それに、友だちの目もありました。ひとりのときのあり得ないような変態姿を友だちに知られることを、私はひどく恐れていました。自分の変態行為を知られて蔑まれることを期待する心もあったし、それを妄想してオナニーすることもありましたが、それはあくまで妄想の中だけの世界。本当に友だちに知られてしまっていたら、自死を選んだかもしれないくらい恥ずかしいことでした。
そんな私も、ちょっとした好奇心から、友だちのいない空間で虫を踏み潰したことが、何度かありました。
年に二、三度あったのが、掃除の時間にトイレや体育館を掃除しているとき。私は「まじめないい子」ポジションだったので、遊ばずに掃除をするのが当たり前でしたし、自分もそれが当然のように感じていました。
でも中学のころって、男子はまじめに掃除したりしないですよね。裏庭でボール遊びしてたりして。なので、トイレを掃除しているとき、私以外誰もいなくなるときがよくありました。
そんなとき、ふっと足もとに這い出たゴキブリに、友だちの目がないことで解き放たれた私の残酷さが、ふっと姿を現すのです。
中学校の制服はセーラー服で、白い短めのソックスに、校内では白いバレーシューズを上履きとして履いていました。
その上履きが、フレッシュメイトという名前だったことを覚えています。バトン部の衣装を着るとき、足もとは制服姿のときと同じ、短めの白いソックスで、靴は黒い色の上履きが指定されていました。それがフレッシュメイトという名前で、近くの靴屋で名前を伝えて買っていたのでした。その頃、確か1,280円だったかな。上履きの横にトリコロールの飾りが目立っていました。黒い上履きって珍しいですよね。
校内の上履きは白いバレエシューズだったのですが、そちらは特に指定がなかったので、部活用の黒い上履きを買うときに、一緒に同じ上履きの白も買っていました。
その白い上履きをゴキブリの上にそっとかざした私は、ミミズとの感触の違いを確かめるようにつま先を乗せ、そのまま体重をかけて二度、三度と力強く踏みにじります。
上履きの靴底は薄いので、ゴキブリが白っぽい臓物を吹き出して、あっという間に平らになる確かな感触が感じられました。その後、友だちが戻ってくる前に、汚いゴキブリの死骸を和式便器に蹴り込むと、ちぎり取ったトイレットペーパーを床に落として、踏みつけながら床の汚れを擦りつけ、ゴキブリと一緒に流していました。
フレッシュメイトの靴底は私好みのデコボコした凹凸があり、魚の鱗のようなギザギザが並んでいました。そのギザギザが容赦なく、踏み潰したゴキブリをメシャメシャに引き裂いてバラバラにしていく様子に、私は多少なりとも興奮を覚えていたのです。
ちなみに部活用の衣装のまま、黒い上履きを履いて、ミミズロードで暴れたことも何度かあります(笑)それはまた別のお話で。
掃除のときのゴキブリ以外では、体育館につながる渡り廊下に、夏の雨の日によく現れていたカタツムリでしょうか。
でもこちらは、足もとをろくに見ないで走り去る男子に踏み潰されることも多く、私には踏むチャンスがそれほどありませんでした。
でも、友だちがいないときに渡り廊下でカタツムリを見かけると、感触を確かめるように丁寧にすり潰していました。
殻が壊れると、一気に靴底が沈んで、中の柔らかいものがビチャッとはじけ飛ぶんです。カナブンともミミズともまた違う感触でした。丁寧にすり潰した後で一歩、二歩と歩くと、もとはカタツムリだったベトベトしたものが、渡り廊下のコンクリにきれいな靴底の跡を残すのも好きでした。とはいえ、何歩か歩くと、すぐにわからなくなってしまうほどには、小さな生き物の儚い痕跡ではありましたけど。
こんな私の行為は、最後まで友だちにバレることはありませんでした。そもそも自分の変態行為を理解する友だちなんていないことは分かっていましたし、そんな狂った自分に明るく接してくるバトン部の友だちに対して、私は常に劣等感を感じていました。
矛盾するようですが、私のどす黒い嗜虐心はゴキブリやカタツムリを踏んでも、上履きの靴底をきれいに洗わないことで満たされていました。生き物を踏みつけたばかりの靴を履いて、邪心のない友だちと屈託のない会話をすることで、自分の邪悪さが実感できるような気がして、心のどこかで微かに興奮していました。
ときには靴底を見せつけるように、教室で足を組んで座って周囲の反応を期待したりもしましたが、誰にも指摘されることはありませんでした(笑)
それはそうですよね。他人の靴の底を注意して見る人間なんて、私のような特殊な嗜好を持つ変態くらいでしょうから。ましてや、それがゴキブリやカタツムリを踏み潰した後だなんて想像もしないと思います。仮にそれを知ったとしても、だからなあに?という反応かもしれません。
高校に入ると校舎内は土足で、そのままローファーを履くようになったので、人生で上履きを履いて積極的に踏み潰しをしていたのは、小中学生のときだけです。
フレッシュメイトを履いたときのあの感触、二十年たった今も、ときどき懐かしくなります。
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