私が情報発信者として心掛けている2,3のこと
【この記事はVi-Crossマガジンに収録されています】
ここ10年ほどのSNSをはじめとする情報メディアの浸透により、今、私たちは誰もが情報を発信できる時代を迎えています。
ほんの30年ほど昔は、情報発信ができるのは本を書けるほどの知識と立場のある人など、ごく一部でした。そう考えるとこの何十年かは人類史の中でも指折りの「情報」に関する変化があった時代であり、今や世界は人類史上もっとも情報にあふれている時代だと言えるでしょう。
しかし、誰でも情報が発信できるということは、裏を返せば、信用に足る情報が相対的に随分少なくなっているということでもあります。
そのことを歴史を振り返りながら振れたのが拙稿「有益な情報はどこから知ればいいの?: 「知識を得る」ことの歴史を振り返る」でした。
今や時代は情報を探すことよりも、価値の低い情報の山から有益な情報を発掘することの方が大変な時代を私たちは迎えているわけですね。
それゆえに今の時代こそ、有益な情報をたくさん持っている「専門家」の重要度が高まっているというのがこの記事の結論でした。
「専門家」というと縁遠く感じるかもしれませんが、これを「信頼されている情報発信者」と言い換えると、きっと皆さんもSNSのフォロー内で思い当たる人がいることでしょう。
…さて、私は通りのいい肩書としてVTuberを名乗ってはいますが、そのコアは物書きであり、つまりは情報発信を主な活動としています。
そしてその矜持にかけて信頼されるような情報発信をしたいと常々心掛けています。
(実際に「信頼できる発信者」と皆さんに見えているかは分かりませんけれども)
そのために物書きとしての密かなポリシーをもっているのですが、先日それに少し触れたところ、思った以上に反響がありました。
というわけで、今日は私が情報を発信する上で心掛けている3つのポリシーについてお話ししたいと思います。つまり、
1.ただの情報の羅列でない「意味のある情報」を発信する
2.不正確な情報を発信しない。誤っていた時は訂正する
3.意味もなくネガティブな情報を発信しない
この3点です。これは私と同じ物書きや、VTuberを含むTwitterのインフルエンサーなど、「多くの人に見られる立場」であれば誰にも、何事にも共通する原則ではないかなと思っています。
では順番に見ていきましょう。
◆「意味のある情報」を発信する
A. 近くの100軒のお店全ての販売価格がずらっとならんだ一覧表
B. 「ここで買うのがお得!」と安い3軒だけをピックアップしたチラシ
Q1. 情報量が多いのはどちらでしょうか?
Q2. 意味のある情報はどちらでしょうか?
…冒頭にも述べたように、今の時代、情報を得るというのはとても簡単です。正確には情報を探すこと自体は簡単です。
が、情報は見つけ出したあとに、それを理解し我が物にして初めて「意味」を持ちます。
これは例えば、物理の教科書を読んで一言一句丸暗記したとして、それで物理の問題がなんでも解けるわけではないのと同じです。その内容を理解して、情報を「知識」に変換しなければ意味がないわけです。
そして私がいう「意味のある情報」とは、こうした「知識」に変換しやすいよう料理された情報と言い表せるでしょう。
端的なのが冒頭にあげた2つの情報で、情報Aの100軒分の価格情報は確かにすごいのですが、それを意味のある知識に変換するのはちょっと大変です。
一方で、「安さ」に的を絞ってトップ3だけを書いたBの情報は、情報量としては圧倒的に少ないものの、理解のしやすさは比べるまでもありません。
おそらく、受け手にとっての「意味」はBの方が上ではないでしょうか?
ではなぜBの方が理解しやすいのか?
値段を調べる目的とは、つまり安いお店を探すことに他ならず、Bはそこに情報を絞り込んでいます。別の言い方をすれば、Bは「この3軒で買えばお得だよ!」というメッセージが込められた情報なのです。
このメッセージが込められた情報は、受け手にしてみれば「こうすればいいのか」と実際的に理解しやすいので、速やかに「知識」へと変換できます。
逆にAのようなメッセージ性のない情報は「結局何が言いたいの…?」と分かりにくいため、中々意味のある情報に変換するのは難しいわけですね。
例えばスマホの新機種を比較した情報でも、スペックの比較をずらりと並べたツイートよりは「この機種はこんな人におすすめ!」とメリットデメリットを箇条書きにしたツイートの方が「良い情報」と感じられることでしょう。
調べさえすれば情報が出てくる今の時代、個人レベルでの情報発信者に求められるのはまさにこの「情報にメッセージを添えてお出しする」ことであり、それが意味ある情報を発信するということ…と私は思うのです。
メッセージのない、ただ単に情報をシェアするという行動は、小麦粉を右から左に渡しているようなもの。それを頑張ってカップ麺に加工してから渡すことで、ぐっと情報としての質が上がるし、受け取った方も簡単においしく食べられるわけです。
◆不正確な情報を発信しない
しかし一方で注意すべきであり、また情報発信のもっとも難しい所が「間違った情報を発信しないようにする」ことです。
憶測やデマのような情報をシェアするのは当然慎むべきですし、「怪しいな」と思ったら情報のソースをたどったり、別ソースを探したりするのは現代の情報リテラシーの基本です。
「信用を積み上げるには時間がかかるが、崩すのは一瞬」とよく言いますが、まさにその通り。
現実の人間関係でも、不確実な噂話ばかりする人の言葉は話半分に聞くのと同じで、人間は結局、どんな情報でも少なからず「誰が言ったか」でその情報の質を判断するものです。一度デマを拡散してしまったら、次の情報もまた「デマ」と判断されてしまうかもしれないのです。
もちろん、そこまで神経質になるものでもないでしょうが、自分が発信する情報が自分のイメージを作るということは心に留めておくべきだと思います。
しかしながら、いくら気をつかってもなお、誤情報の発信をゼロにするのは難しいものです。というのも、これは一つ前にお話しした「意味のある情報を発信する」ことの裏返しだからです。
意味のある情報とは、メッセージのある情報だということを前の章でお話ししました。
が、メッセージを持たせるということは、つまり色を付ける、方向性を持たせるということでもあります。これはともすれば、人をミスリードしたり、あるいは自分の間違った解釈を人にも共有することにもなりかねないことがお分かりでしょうか?
例えば先ほどの価格情報A・Bであれば、Aには誤解の余地がありませんが、Bは「この3軒でしか売っていない」という誤解を生む可能性もあります。
あるいは書いている人が税抜・税込の表示を見間違えていたら? 値段の話ならいいものの、スマホの機種比較の場合「それはあなたの感想ですよね」と言われかねないバイアスのかかった情報だったら…?
情報を加工することは、誤情報を生む可能性と切っても切れない関係なのです。
実際、法律の条文や新聞、学術論文、身近な例だと百科事典などの書き方は、中々読みづらくて「何が言いたいの?」と思うこともしばしばあります。
けれどそれは、極力こうして「色」を付けるのを避けた結果だったりするのですね。混ぜ込まれた著者の意見が、誤解や誘導につながるのを嫌って、ああいう書き方になっているわけです。
では、情報を発信する側はどうするべきか?
もうこれは「気を付けてバランスを取る」しかありません。結局、情報に意味付けするのと、誤情報を生む可能性は二律背反なのですから、単純明快な解決策はありません。
間違った情報を発信しないよう注意しつつ、それでも自分の意見を込めていく。メッセージの無い文字の羅列にならぬよう、けれども自分の意思ばかり濃くなって情報が歪まぬよう。
そのバランス感覚が、他人から見た情報発信者としてのあなたの「キャラ」を左右するのでしょう。
あ、もちろん、間違っていると思った情報はちゃんと訂正することはくれぐれもお忘れなく。
上手くバランスを取るのには自省こそが必要不可欠ですし、それがあなたの言葉を聞いてくれる人に対しての誠意でしょうから。
◆むやみにネガティブな情報を発信しない
さて、最後の1つです。
これは特にVTuberをはじめとしたエンタメ系の情報発信者が最も気を付けるべきポイントだと、個人的には思います。
皆さんは「見ていて楽しくなる情報」と「見ていて気分が沈む情報」、どちらを見ていたいと思いますか?
普通の人は前者を選ぶはずです。
「見ていて楽しくなる情報」は、例えば良い知らせや面白いアイテムの紹介、TIPS、好奇心をかきたてる興味深いニュースなどもこの部類でしょう。
逆に「見ていて気分が沈む情報」としては、悪いニュースやスキャンダル、愚痴、物申すツイートなど…まあ人次第ではありますが、TwitterのTLをつらつら見ていれば、皆さんも一目でわかることでしょう。
では、前者の楽しい情報が多い情報発信者は、あるいは後者のネガティブな情報が多い情報発信者は、はたして受け手にはどんな風に見えるでしょうか?
前者はそのまま楽しい人、面白い人と見えるでしょうし、逆に後者にはネガティブなイメージが付きまとうでしょう。
前の章でも話した通り、発信する情報はそのままその人のイメージを形作るのです。
だから私はなるべくTwitterやnoteに愚痴や暗い話は書かないようにしています。
もちろんそれを書くのは個人の自由ですし、特にTwitterはそういう「つぶやき」を気軽に投稿するのが本来の使い方です。
ただ私は自分をそういう風に見て欲しくはないし、私のツイートや記事を読んだ人には楽しい気持ちになって欲しいな、と思っているのです。
もっとも、耳に痛くも有益な情報というのは少なからずあります。
「こういう行動は人を不快にさせるからやめた方がいい」というような自省を促す情報や、業界の厳しい先行きを伝える分析などはこの一例でしょう。
こうした情報は、根拠のない楽観論よりはずっと有益なことも多いですね。当の私もこの手の記事を時折noteで書いていることに、思い当たる方もいらっしゃるでしょう。
それでもなお、こうした「読むのがしんどい」情報は受け手には歓迎されづらく、ネガティブな情報と見られやすいのも事実です。それが人間の心理というものですから、責めるべきではありません。
だからそうした重い話題を避けるとか、ポジティブな話題に対して少ない割合にとどめるというのは、情報発信者としてのイメージを大切にするなら良い方法だと思います。
一方で、然るべき話題でも、ネガティブな内容だからと言及を避ける態度は不誠実だと感じる人もいるでしょう。ある意味、公正で責任感あるスタンスとも言えます。
もしあなたがそう考えた上で、「重い」情報も少なからず発信していくのであれば、私はここでもまたメッセージを付け加えることをお勧めします。つまり「重い情報」に「明るい情報」をセットで発信するのです。
例えば「ある趣味の人口が減っている」という残念なニュースには「けれど一方で、こんな新しい形でこの趣味に興味を持つ人もいますよ。こんな風に新しい人に楽しさを伝えていきましょう」と付け加えてみる。
あるいは「物申す」意見には「皆さんもこうしてくれれば、同じように困る人が減りますよ」と締めるのです。
耳に痛い情報というのは、裏を返せば「こうすれば良くなりますよ」という指摘でもあります。
そうした隠れた前向きなメッセージを、見た人が自然と理解できるように表に出すことでイメージは大きく変わりますし、「じゃあ私も今度からやってみよう」と前向きな気持ちになれるわけです。意味、メッセージをきちんと込めて前向きに発信することで、ネガティブな情報もポジティブに受け止めてもらうことができるのです。
ポジティブな情報と、ネガティブな情報。
それをどんな割合で自分の発信に込めるかもまた、情報発信者の「キャラ」を決めるポイントです。
自分がどう見られたいか、この情報がどう見えているか。
ここでもまたバランス感覚が試されるのでしょう。
◆さいごに
さて、思ったよりも長くなりましたが、いかがだったでしょうか。
今回、3つのポイントを上げましたが、実はこれが根っこのところでは繋がっていることに皆さんはお気づきでしょうか?
一つは、情報とは「受け手にとってどう見えるか」が大事ということです。
自分としては有益な情報を発信したと思っても、それが受け手から見て理解しづらく、何を言いたいのか分からないと「良い情報」とはいえません。
あるいは厳しいことを指摘する正論を書いても、それが受け手からはネガティブに見える、敬遠される情報になっているかもしれません。
「これを人が読んだ時、どう思うか…?」
そうやって、自分の言葉を客観視することが大事なのだと思います。
そしてもう一つ大事なこと。
自分がどういう情報発信者でありたいのか、どういう「キャラ」でありたいのか。それを理解した上で、うまくバランスを取っていくこと。
例えば、情報に込めるメッセージの強さや、ポジティブな情報とネガティブな情報の割合といった点。
行き過ぎれば法律や百科事典のように公正ながら無味乾燥な情報になったり、逆にメッセージ性ばかりが先行した断定的で扇動的な情報になったり。
あるいは「耳障りのいい話ばかりで大事なことは何も言わない人」と見られたり、「暗い話題ばかりで見ていてしんどい人」と見られたり。
どちらかに偏りすぎても良いとはいえず、絶対の正解はありません。
だからこそ、あなたにとっての中立点である「ありたい姿」をブレずに持って、バランスを保つのが大事なのだと思います。
もっとも、こんな面倒なことを誰もが気にかける必要なんてありません。
SNSとは、現実の社会と同じで、一定の節度さえ弁えさえすれば、何を言ってもよい自由な場なのです。
それでもあなたが「良い情報発信者」たらんとするなら…要らぬ気苦労を背負って、自分の言葉をもう少し気にかけてみるのもまた良いかも知れません。
最後に、2020年で一番心に残った白饅頭さんの金言で文章を締めたいと思います。
SNSが当たり前のインフラとして普及した現代社会では、「なにを語るか」ではなく「なにを語らないか」こそが、自分の日常を、ひいては自分自身をつくっていくことになる。
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この記事は
”バーチャルを通して自分らしい生き方を見つけ出す”
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