斜め下の部屋を出て行った、元彼
「このマンションを出ることにしたよ」
入居からそろそろ1年が過ぎようとしていた頃。
まるで親戚の家に行ってくるよといった感じのトーンで、斜め下に住む元彼から報告があった。
「そっか。ついに彼女と同棲、結婚かな?」
「そうだね。そろそろ年齢的にも。色々とけじめをつけないとかなと思って….」
私と同い年、2つ歳上の彼女と付き合っていた元彼は当時30半ば。
何かを決意したような面持ちで伝えてくれた。
後日、送り出し会と称した、いつもと変わらない近所ごはんへ。
これまでのあれこれを振り返りつつ、本当に色んなことがあったねと寂しさに浸らず、笑い合った。
交際当時は聞いたことがなかった昔話なんかも聞いた気がする。
それでも会話の隙間に漂う空気は、どこかいつもより重たい。
これまでとは何かが違うということを感じた。
家の前まで戻ったところで私はようやく、この縁に終わりが来たことを理解した。
「今まで本当にありがとう。感謝しきれないわ。お幸せにね」と伝え、さよならのハグをした。もはや人生の同志(元夫)のような存在。
ほぼ反射に近い形で、目頭に込み上げてくるものを感じた。
彼も同じように涙なのか感情をぐっと堪えているのがわかった。
残念なことに私は比較的、大事なものに気づくタイミングが人より遅い。
ただ、ここでいう大事は、やはり友人としての縁という意味だ。
「こちらこそありがとう。これからは俺の中で君は死んだことにするよ、だから40を過ぎるまでは、もう会うこともないと思う。じゃあ!幸せにね」
それが彼からの最後の笑顔と言葉だった。
(死んだことにする..…ん?!まぁいいか。笑)
それ以降は、電話もメールも一切、音信不通。
意外にも共通の友人たちも同様で、誰も連絡をとれないまま、早数年が過ぎ、元彼はこの春40になった。
この先のことは誰にもわからない。
ただ、もし再会することがあるならば、その時は皆で笑顔で会える時なのだと不思議と思える。それが時間の力というものだ。
そして、子どもなのかペットなのか奥さんなのか、写真の1枚でも自慢してくれたなら、なお嬉しい再会になるのだろうと思う。
が、多くは願わない。し、期待はしていない。
これもまた、縁と流れのままに従うだけだ。
(このシリーズはいったん、本投稿のEp.4で完)