vol.4 クックとクロタ
桜も散ると、とたんに緑はぐんぐんと力をみなぎらせ成長を止まらせることはできません。それは、何かになろうと必死に手を伸ばし何かをつかもうとする勢いのようでした。
街は緑に飲みこまれ、人々はみなそわそわと落ち着きを失い始めました。
一瞬もじっとしていられず、どこかへ旅に出たいと思い始めます。
しましま猫クックも、そのひとりです。友人のクロタを誘って少しばかり旅に出てみないかと提案しました。
話しを聞いたクロタはすっかり乗り気で、ふたりは「何も決めない旅」に出ることにしました。クロタはとても慎重な性格の猫で、ようじんのためにいつも黒兔の着ぐるみスーツを着ていました。ですが、この時ばかりは興奮を隠しきれない様子だったのです。
気になる方もいらっしゃるかもしれません。なぜクロタは兔のふりをすると安心出来たのでしょう。クロタは猫であることを気が付かれないようにいつも細心の注意を払っていましたが、たいがいのものはクロタが猫であることに気が付いても黙っていました。それは皆、優しいクロタの事が大好きだったので、クロタを傷つけたくなかったからです。
さて、旅立ちのその日の朝、しまねこクックは、簡単な荷物だけトランクに詰め込むと、クロタを迎えに行きました。
クロタは大きな黒いマンションに住んでいました。
「張り切って早く来すぎてしまったぞ。」クックは約束の時間までクロタのマンションの前で待つことにしました。
春の終わりの太陽はキラキラとクックを照らすと汗ばむほどの暑さを感じさせます。
「あれれ??それにしてもクロタは少しばかり遅いよ。どうしたんだろう?」
いつも時間をきちんと守るクロタが約束を1時間も過ぎているのに姿を現しません。
クックは心配になり、クロタの部屋まで行ってみようと、マンションの黒い扉を押そうとしたその時…
クロタが現れ、そしてこう言ったのです…
「…ごめんね。ぼく忘れ物をしちゃったから、君、先に行っていてくれないか。君に迷惑をかけたくないんだ」
驚いたクックは
「いやだよ!待っているから、取りに行ってきなよ!大丈夫大丈夫!まだまだ時間はたっぷりあるんだから!」
クロタは少し考え込むと「わかった…」と言ってマンションへ戻っていったのです。
クックはもう先ほどまでの旅をワクワク楽しみにしていた気持ちはすっかり消えて、先ほどのクロタの少し寂しそうな顔ばかりが浮かんできました。
気が付くと、既に太陽は傾き、少しだけ涼しい風も吹いてきました。。。
待てば待つほどクックは、クロタに起こっている事態は自分が思っていたよりずっと深刻なものだったのだ、と後悔の気持に包まれました。
そして
マンションの扉は勢いよく開きました!
「クロタ!」
クックは擦れた声で叫びましたが、中から出てきたのはクロタではなく、トランクを持った三匹の猫達でした。
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