【マウリッツハイス美術館】通の絵画の楽しみ方 〜ヤン・ステーンの世界〜
こんにちは!2024年11月に『オランダ事業主ビザ』を取得し、現在ヨーロッパ生活を満喫している『おモチくん』です!
オランダはデン・ハーグにあるマウリッツハイス美術館に行ってきました!
私にとって、この美術館は大好きなところで、約10年ぶり2回目の訪問になります。
今回は、このマウリッツハイス美術館について、ちょっと通(ツウ)?な楽しみ方『ヤン・ステーンの世界』をご紹介したいと思います。
毎年世界中から約数十万人が訪れるというマウリッツハイス美術館。オランダで最も美しい建物のひとつに挙げられるこのルネッサンス風の建物は、17世紀にオランダ領ブラジルの総督を務めたオラニエ家のヨハン・マウリッツ伯爵の私邸として建てられたそうです。建物が大きすぎず、数時間でまわりきれて、それでいて有名画家の見どころも沢山あり、写実的な絵画をたっぷり楽しめるこの美術館は、日帰りの小旅行などにもピッタリだと思います。
レンブラント、ルーベンス、ファン・アイクなどの名だたる画家たちがあげられる中でも、やはりフェルメールは国宝的絵画の超人気を誇る巨匠で、この美術館の至宝ともいえる「真珠の耳飾りの少女」は「オランダのモナ・リザ」と称され、絵の周りには常に非常にたくさんの人が集まります。
そんな中で私が、なんだかとっても心惹かれて、目が離せなくなってしまう画家、それはフェルメールでもレンブラントでもルーベンスでもなく、『ヤン・ステーン(1626-1676)』です。
ヤン・ステーン Jan Steen 1626-76
ヤン・ステーンは、17世紀のオランダ絵画黄金期に活躍した風俗画家です。日常における陽気な出来事や生活を鋭敏な洞察力を用いて、教訓的な内容を含ませた風俗画で表現しました。その丁寧な細密描写と明瞭な色彩による独自の表現様式はオランダ絵画史上において一定の評価を受けているそうですが、日本人にとってはそれほど有名でもありません。
風俗画の他にも、聖書や神話を典拠とした物語画や自画像も手がけ、当時のオランダのハーグやデルフト、レイデン、ハールレムなどで活躍していました。
2018年10月から上野の森美術館で開催された「フェルメール展」でもヤン・ステーンの作品が展示されていました。また、上野の国立西洋美術館では常設展で『村の結婚』が展示されています。はっきりは覚えていないけど、なんだか見たことがあるかも?と感じる方もいるのではないでしょうか。
彼の作品には、結婚式やピクニック、酒場の様子や酔っ払いなどの庶民のにぎやかな様子を描いた作品が多く、観る者にその時代の雰囲気を伝える力があります。彼の作品は、オランダで『ステーンの一家』という賑やかな場面を表現する諺(ことわざ)にもなっています。私は、この世俗的で、ちょっとユーモラスで、人間的な視線がとても好きです。
ヤン・ステーンの絵は風刺的とも言われていますが、子供の前でお手本になれない大人たち、酔っ払ってハメを外す人たちを見て、皮肉的にそして教訓的に描く一方で、この人たちは幸せな人たちだなぁとも感じていたんじゃないかな?と個人的には感じてしまいます。私が彼の作品に惹かれるのは、こんな感じで裏の裏にはどんなテーマがあるの?と気になるところにあるのかもしれません。
村の結婚 1626年 - 1679年
彼は結婚を主題とした作品だけでも50点以上制作しており、そのうち20点が農村の結婚式を表しているそうです。
本作品においては合計51人の老若男女が巧みに配され、彼らの生き生きとした表情やポーズは見ていて飽きません。(出典: 展示室作品解説パネル)
新婦にキスをする新郎は地味な服装で、彼の顔には何か不安げな表情が見て取れます。聖職者は威厳のある姿で祝福の言葉を述べているようです。右側にいる人は、前の人のポケットの中に手を伸ばしているように見えます。この結婚式で表現されているのは、一見楽しそうに見えますが、祝福の場というより何か結婚式の混乱や無秩序な行動が強調されているように感じられます。
牡蠣を食べる少女 1658-1660年
ヤン・ステーンによる有名な小作品のひとつ『牡蠣を食べる少女』は、アムステルダム有数のコレクターらを経て、1936年にマウリッツハイス美術館に寄贈されたそうです。
牡蠣を食する若い娘を描いており、観者に向けられる艶めかしく挑発的な視線が非常に印象的です。若い娘が手に取り口へ運ぼうとしてい牡蠣は、本作が描かれた当時、精力剤(媚薬)として人々に広く好まれた食材で、それを知る者は娘の魅惑的な表情や娘の後部に描かれる寝台と関連させます。ヤン・ステーンの作品には、こうした裏の意味が多く存在するので、調べながら鑑賞していくと面白く感じます。
大人が歌えば子供が笛吹く 1668-1670年
こちらが、マウリッツハイス美術館で私の一番のお気に入りの作品です。
画面左の女性は椅子に横座りして胸元をだらしなくはだけた状態で、ワインを注がせています。画面右の父親は息子にパイプ(タバコ)を吸わせていますが、この父親はヤンステーンの自画像でもあります。タイトルの「大人が歌えば子供が笛吹く」は「親の背を見て子は育つ」と邦訳されている場合もあり、物マネの象徴であるオウムが後ろで様子を見ているという構図です。
この作品は人気のあった題材のようで、バージョンの違った作品が複数残されています。それらのバージョンのうち、一番大きなものがマウリッツハイス美術館が所蔵しているこの作品だそうです。
オランダの家庭はヤン・ステーンが描いたこの『大人が歌えば子供が笛吹く』を部屋の壁にかけ、清貧な生活を送るための反面教師にしていたそうです。
踊るカップル 1663
こちらは、マウリッツハイス美術館ではなく、ワシントンナショナルギャラリーに展示されているヤン・ステーンの作品です。私が、いつかポスターを購入してお部屋に飾りたいと思っている絵です。
中央に踊るカップルのいる騒々しいパーティーの情景を描いており、2人の音楽家が踊っているカップルのために音楽を奏で、ブドウののあるあずまやにいる他の人々は戯れ、食べ、飲み、タバコを吸っており、子供たちはおもちゃで遊んでいます。
画面左側で洒落たグラスからワインを飲んでいる女性の顎を撫でて、ニヤニヤしている右隣の人物はまたもやヤン・ステーン。場には明らかな軽薄さがありますが、鑑賞者に感覚的快楽の儚さについて警告するために、ステーンは切られた花、壊れた卵の殻、シャボン玉などの象徴的要素を用いているそうです。
・・・いかがだったでしょうか。
有名画家に並んで展示されるヤン・ステーンの風俗画に、なんだか少し興味が湧いてきましたか?マウリッツハイス美術館に加え、アムステルダム国立美術館(Rijksmuseum)にもヤン・ステーンの作品は多数展示されています。
ぜひ、皆さんも彼の作品を楽しんで頂けたら幸いです。たまの週末、美術鑑賞に浸り切ってリフレッシュするのも良いですよね!