【ゾウリムシ×介護】第3話「ゾウリムシの性について〜男女のキモチ…だけでは済まされない」

すいません、ゾウリムシの連載が滞っておりました。前回の記事はこちら

ゾウリムシにも性別があります。実は私、研究対象とするまで知らなかったんですよ。「え?単細胞生物に性別があるんですか?」って。

そう、ゾウリムシは分裂して倍々ゲームで増えていきます。これはいうなれば「増殖」。ヒトでたとえるなら【大きくなること=成長】と捉えてもいいと思います。

一方で、生殖行動というものは【子孫を増やす】ということでありまして。
前回書いた通り、ゾウリムシも歳を取り、寄る年波には勝てないため子孫を作ります。しかしこの子孫を作るという概念が、我々がよく知っている動物とはちょっと異なるのです。

動物ならば、『異なる性が交配することで、新たな個体が生み出されます』。
いうなれば、2つの個体が生殖を通して3つ(かそれ以上)に増える。ヒトならば1回の出産につき1個体が標準ですが、双子も珍しくはないでしょう。犬や猫、鳥はもっと多く産むでしょうし、マンボウなんか億単位だから大変だ。

でも、ゾウリムシの生殖では『2つの個体は、2つのまま』で、新たな個体なり卵なりは出現しません。見た目も変わりなし。ただ、そこに在るのは子どもに若返った2つのゾウリムシのみという。

そう、生殖行動とは、換言すれば『遺伝子のシャッフル』。
そして、ゾウリムシの生殖行動の名称は、“接合”というなんというか、交尾とかよりもずっとニュートラルな感じ(それがなんだ、という訳ではないのですが、性に関わるエピソードはデリケートなので、書きやすいっちゃ書きやすい)。

接合前の個体では(命の回数券である)テロメアの限界が迫るけど、接合という生殖行動によって遺伝子がシャッフルされ若返る。
遺伝子のシャッフルは、血液型の異なる子どもが生まれることをイメージしてもらうと分かりやすいハズ。
ゾウリムシは、接合という生殖行動を通して「子どもはできないけど、子どもに戻っちゃう」んです。
おかしいでしょ? でも、そうやって数十億年命をつないできたんです。

そして、接合ができる条件というのがありまして、それは『環境が厳しくなったとき』。例えば、餌がなくなった場合。だから、顕微鏡下でも餌(バクテリアですが)が豊富な状態だと、ちっとも接遇を開始してくれません。
ということは、ずーっと餌の豊富な状態に入れておいたら、接合を起こさないまま老化の道へ突き進むんだろうか?という疑問もある訳ですが、そこについて私は知見を持っておりません。もっと勉強なり議論なりしておけばよかたよー。

性別って何?という問いについて、自然科学が用意した答えは、「生き残る選択肢を広げる」ということ。
おばあちゃんが良く世間話的な感じで言ってたな、と思い出すのが、
「世の中、男と女しかいないんだから、お互いにいがみ合ってないで大事にし合わないとね」という言葉なのです。
生物学を学んでいて思うのは、『豊穣をつかさどるのが、雌の役割。遺伝子をシャッフルして多様性を演出するのが雄の役割』なのではないかということ。
多様性を云々するのは雄がするべきことなんじゃないかな、ホントは。

で、ここからが注目ポイント。ゾウリムシの性についてですが、
「男と女しかいない」 んじゃない

私が研究対象としていたミドリゾウリムシには、なんと、性が4つあります(8つある種類のゾウリムシも存在します)。
雄・雌といった名称も付けられないため、「メイティングタイプ I、II、III、IV」などと表現します。
遺伝的に決まっているので、血液型のように予測できるんですよ。



それから、その名もパラメシウム・マルチミクロヌクレアータム(通称マルチ/和名は無いらしい/そして、長い)というゾウリムシも特殊。
性別は2つだけなんですが、時間が来ると性転換をしてしまうんです。
しかも一斉にドン!じゃなくて、ややズレがありながら変わっていきます。イメージとしては、午前中まで男子校だったのが、昼休みに男女共学になって、午後にはすっかり女子校になってるみたいな。

性の概念ってなんだろう?って話になるんですよね。

今回は、この辺で。次回は「ゾウリムシとクロレラ〜理想の共生関係?」でお会いしましょう〜

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