
言葉にならない詩
◇
空の青さを
目を閉じた人に伝えるように
波の音を
耳を塞いだ魚に語るように
光の踊りを
影に説明するように
◇
月を指さす指は
月ではないけれど
月を知る心は
指の先に宿る
◇
蝶の夢を見た荘子か
荘子の夢を見た蝶か
夢見る意識だけが
確かに在った
◇
風は見えないけれど
木々の揺れる姿に
確かに宿り
花びらの舞いに
その本質を映す
◇
水に描いた文字は
消えゆく運命でも
水そのものは
永遠に在り続ける
◇
沈黙の中にこそ
全ての音が眠り
闇の深みにこそ
全ての光が宿る
◇
概念の外には
概念では捉えられない
無限が広がり
理解の外には
理解を超えた
永遠が踊る
◇
言葉で織りなす詩は
言葉にならないものを
指さす指であって
月ではない
けれど時に
その指先に宿る月の光が
心に触れることがある
◇
存在とは
波の上に描かれた
円のように
完全でありながら
形を持たず
在りながら
在らず
◇
この詩もまた
風に向かって
風を説明する
むなしい試み
それでも
風に吹かれた木々は
確かに踊り続ける