ブランドを感じる文章の裏側にある行き届いたまなざし | 第6回 #インハウスエディターコミュニティ
今回で第6回となる「インハウスエディターコミュニティ」。インハウスエディターが集まってわいわいと交流する華金の時間に、今回は Soup Stock Tokyo / スマイルズ の吉本さんをゲストに迎えてお話を伺いました。わいわい。
「素敵だな」と常々思っていた吉本さんの文章。情景が浮かぶ。心を感じる。文章を通じて「ヒト」感が伝わる理由をひとつひとつ詳らかにしていく時間でした。
ついつい華やかさに目を取られがちですが、裏側には地道な行動がありました。
その様子はまさに「刑事」。
ちょっと昔の刑事ドラマを思い浮かべてください。様々な手がかりを集めていき、事件を見事解決。その裏には地道な調査がありました、的な。
「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」
吉本さんのつくる文章の裏側はそんな様子と重なる場面が…。少しでも当日のエッセンスをお伝えできればと思い、今回のレポートを担当します。
文章からにじみでる○○らしさの源泉
Soup Stock Tokyoさんの文章ってSoup Stock Tokyoらしいですよね。見たことがある人なら「わかる、わかるよ~」と言ってもらえると思います。その「らしさ」とは何なのかにまずは迫りました。
①特徴・構造といった文体の研究を行う
②「人」をとおして言葉を吸収する
③文章にBGMを。ブランドの人格によってまとう雰囲気を変える
①特徴・構造といった文体の研究を行う
吉本さんは最初から広報ではなく、新卒でSoup Stock Tokyoに入社して店舗勤務からキャリアをスタート。その後、採用担当を経て、現在は広報を担当されています。「書く」仕事をするようになり、はじめにしたのがこの「文体研究」とのことでした。
パンフレットやリーフレットなど、お客様の目に触れるありとあらゆる文章を読み込んで文体や構造を研究したそうです。
吉本さん 自分の中で重要だと思ったのが、機能的な側面と情緒的な側面のボリュームと組み合わせの仕方です。企業のコミュニケーションを行う際には、企業として伝えたい具体的事実と企業の中の人たちの心の機微という両面を伝える必要があります。機能面と情緒面の配分を見ていきました。ツールや媒体ごとに違いがあって、Webサイトのあるページでは冒頭が機能で後半から情緒だなとか、採用記事だと情緒が大事だけれども具体的事実と客観的な記述の切り替えの仕方に工夫がある、など文章を読み込みました。
②「人」をとおして言葉を吸収する
「どういう文章を摂取するか、が自分のアウトプットに紐づく」と吉本さんは話します。Soup Stock Tokyoには過去に「伝説の広報」と呼ばれるような方がおり、その方の文章をとにかく摂取したそうです。会社の文章はもちろん、SNSなどのプライベートの文章もからだに入れ、読んでいる本を同じように読んだ、と。(今もするそう)
この様子、なんとなく情報収集している刑事ドラマの主人公の姿が思い浮かびませんか?(笑)
また、どのような文章かを見るだけではなく「使わない言葉」にも注目するそうです。Soup Stock Tokyoでは否定語や強い表現をあまり使わず、同じ事象だったらポジティブに伝えることが多いそう。創業者の遠山さんがどういう言葉を使うのか特徴をよく観察をするということでした。
③文章にBGMを。ブランドの人格によってまとう雰囲気を変える
スマイルズの事業にはSoup Stock Tokyoのほか「100本のスプーン」「PAVILION」など、いろいろなブランドがあります。
「ブランドごとの発信で心掛けていることは何か」
この質問に吉本さんは、「ブランドの人格によって言葉を選ぶ」と。それは流れているBGMを変えるようなイメージと話します。
吉本さん スマイルズとして大切にしていることは全ブランド共通です。でも、ブランドごとに人格があると感じていて、「Soup Stock Tokyo」のテンションや文章は何かなと考えながら書いています。例えば、「PAVILION」という中目黒のダイニングレストランは「LOVEとART」がテーマのムーディーなお店なので、大人っぽい感じで書きます。和の業態である「おだし東京」の時は旬や季節をさらに意識して、俳句や歳時記を呼んでから書いたりもします。ブランドの人格によって言葉を選んでいて、まとう雰囲気やそこに似合うBGMが流れるように言葉を変えています。
ヒト・ストーリーを感じる文章の源泉
テーマが「ヒト・ストーリーを感じる文章づくり」にうつっても、吉本さんの刑事魂が爆発します(どーん)
基本は常に周囲の方とよく話して情報を集める。その情報から「陰の立役者」を見つけ出すそうです。
そこで疑問になるのが、どうやって「影の立役者」を探るのか。
「待っていてもダメで、どこにでもいることが当たり前になるくらい色々なところに顔を出しておく。」とのお答えでした。
時にトイレで手を洗いながら。会話に耳をそばだてたり、現場をぶらぶらしたり。とにかく地道に足で稼ぐといいます。オンライン中心のコミュニケーションにならざるを得ない現在も、色々なチャットをのぞいては「証拠」を集めておくそうです。
吉本さんご自身が書く以外でも、やはり広報として「ヒト」感のある文章には拘るといいます。具体的に聞いたのは、店長が年始のご挨拶を行う裏側。
「Google検索して出てくる文章はNG」「その人しか書けない文章を書いてほしい」と最初にお願いするそうです。で、提出されたものを見て実際に「Google検索にありそうでだめです」ともう一回を伝えて書き直してもらうことも。
「 あ な た の こ と を き き た い ん で す ! 」
やり取りをしながら「実家が蕎麦屋で…」といった原体験からお客様へのご挨拶をつくりあげていくそうです。でも、毎年やっていると次の年はより大変になると思いませんか?
吉本さん またそこで私の刑事が爆発するんですけど(笑)「○○さん、今年息子さんが小学生になりましたよね。△△くんはお母さんがママ店長をやっていることをどう思っているんですか」みたいな。そういうこともわが社はお互いに分かっているので。話を聞いていくと「それです、それを書きませんか」みたいな話につながっていくんです。本人は書くまでもないと思っているんですが、その人の固有で、今しか語れない言葉を引き出すことが大事なんです。
はい、事件解決。吉本さんの刑事パワーが発揮されている様子が伝わってきました。
店舗メンバーは、普段は社外向けに文章を書く機会はあまりないものの、自分の文章に反応がある経験を得ることで、広報活動への理解が進み、社内報へのエンゲージメント向上や公式の発信へ引用RTの増加など、相乗効果もあるそうです。
Soup Stock Tokyoの「note」は副音声
4月に全店休業が決まった際に立ち上げた公式note。お客様との接点である店舗が一時休業するなか、生活接点を増やすため始めたそうです。
吉本さん 品やセンスといったこうありたいという姿も大事だけど、その裏にあるものを見せて生まれる関係値があるなら場所を考え出していくことが大事。オンもオフも含めて見せることで生まれる一体感を感じてもらえるといいと思うんですよね。
吉本さん ブランドサイトではどこまで行ってもブランドを体験してほしいと思っています。noteは副音声みたいにしたいと思っていて。
ちょうど第6回開催日(7月17日)の前日のこと。Curry Stock Tokyoの店頭開催中止を発表され、この日の話題にも上がりました。Curry Stock Tokyoは年に1回のお祭りで、中止決定にはみんな会社で大泣きのような感じだったとか。これをお客様に伝えようと思ったときに、Zoomでは社内の方の表情がどんな感じか観察し、SNSなどのプライベートな発信はどんな内容かを頭に入れて、その感情も含めて書いたそうです。
会が終了してからこの2つを比べて読んだときにブランドサイトに対して、noteは副音声とお話されるのがしっくりきました。ブランドサイトはどこまでいってもかっこいい。だからこそ、裏側を見ると秘密を共有した気持ちになって嬉しくなる、それを実際に体験できました。
インハウスエディターに必要なスキルって何ですか?
毎度おなじみのこの質問。今まで何度か聞く中で、言葉は違えど皆さん近しいことをお話しされていると思いました。今回の吉本さんがあげていたのは2つ。
全体像を捉える
・構造を考えるにあたって伝えたいことの全体像を誰よりも把握する
・もっと大きい目で見ると世の中の文脈、自社の文脈のどこが接地面なのか、接地している面の広さや面自体を増やせるか、それを適切な面を組み合わせられているか
細部までまなざしをもつ
・文章、伝え方、言葉選び、テンション行き届いたまなざしをもって行き届かせる感覚を持つ
「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」
どこかのドラマのように、インハウスエディターに必要なのは足で稼いで、頭で考えることと思ったのでした。
主宰のさいまるさんも最後に匍匐前進でオフィスをまわるくらい社内の解像度をあげることが大事と話していました。今回の話題で盛り上がったのが「オンラインでもどうやって社内の様子をとらえるか」。意見交換しながら、皆さん「パトロール」活動を普段からしている様子を感じた会でした。
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最後に少しだけ感想を。第3回から参加しているインハウスエディターコミュニティ。参加されている皆さんは共通して、伝えることに「想い」がある方ばかりと改めて思いました。
同時に参加する中で自分のスキル不足をたっぷり感じて絶望しているのですが(涙)…そこは今後の自分に期待するとして。「想い」を持つことはすぐにできます。そこはしっかり持って、迷ったときや辛い時に頼れる自分の中の正義を飼いつつやっていきたいと思います。
今回の参加者はゲスト吉本さん、さいまるさん、いわたさん、かせいさん、かわばたさん、しもさかさん、たびちんさん、つついさん、なつうめさん、おかだの10名でした。
インハウスエディターコミュニティは数週に1回程度、金曜日にゆるーくわいわいしています。興味がある方はさいまるさんや過去参加者の方へお声がけください('ω')ノ
(さいまるさんがここまでの活動をまとめたレポートを書くようです!そちらもお楽しみに。)
前回(第5回)のレポートはこちらです↓↓
過去のレポートまとめはこちらです↓↓
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