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不凍駅

 ゴーグルは白く凍り付いていて、視界がほとんど真っ白だった。
「本部、こちらエクスプローラ04。俺以外のエクスプローラ隊全員と連絡が取れない……本部応答せよ……本部?」
 氷点下の領域に突入して4時間が経過していた。他の隊員との通信は全て途絶、それどころか後方の拠点との通信すら途絶していた。
 雑音しか聞こえない無線を切る。大きく息を吐こうとして思いとどまった。いくらマスクをしていても、氷点下の吹雪の中でため息なんかつけばきっと喉の奥まで凍る。

 見回せば建物の影に倒れている人陰がある。それも一つや二つではなく、10か20かそれ以上だ。どれも厳重な防寒着で、ついでに霜に覆われて真っ白だった。凍え死んでいるのだ。
 くそったれ、高層ビルの森の中で雪山みたいな遭難だ。吹雪を避けてビルの間へ逃げ込んだまではよかったが、今度はそこに閉じ込められていた。

 マンハッタンが一晩で凍り付いたのは4年前のことだ。次の日には東京、ニューデリー、パリが凍った。その次の日、ベルリンとロンドンを含めて5つばかりの都市が凍ったときには、世界はとっくにパニックに陥っていた。
 それから本当にいろいろあって、今や凍てついた大都市たちは金鉱脈になった。その日暮らし共が群がり、一攫千金を目論んで野垂れ死んでいく。俺もその一人な訳だ。
 全く酷い話だ。4年前、家族と家と職場がまとめて凍りついたと思ったらその氷の世界に踏み入って墓荒らしの真似事をしては糊口をしのいでいる。

 益体のない考え事は寒さを忘れさせてくれる。吹雪の弱まった隙を突いてどうにか移動を再開した。屋根の下に入って通信を試みるべきかもしれない。
 そんなことを検討していると、地面から生えた屋根の前で足が止まった。地下鉄の入り口だ。
 足を止めた理由は他でもなかった。屋根の下には雪がなかったのだ。一面霜と雪の街にぽっかりと口を開けたその入り口に、ふらりと足を踏み入れた。

【続く】


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