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アポジシューター遠くを撃て

 赤茶色に枯れた大地を見ていた。地平線までずっと続く赤を。
 雲一つない青空とその下に広がる暗い赤がせめぎ合っている。
 この赤い地平線の向こうにくそったれの大元が佇んでいる。直接見たことはないけど。
「観測ドローンからの情報は——」
 見ればわかる。完全な無風。
 相棒を地面に突き立て、地平線をギッと睨みつけてやった。
「今日こそぶち抜いてやるからな…」
「観測手の言うこと聞いてよ…」

 ——絶好の狙撃日和だ。

 空からあのくそったれが落っこちてきたときのことは何も知らない。アタシはまだ生まれてなかったから。落ちてきたくそったれから漏れ出た何かが大地も海も赤く染め上げたことも、そのせいで人類がどれだけの生存圏を失ったのかも、アタシは知らない。せいぜい、大元を壊すために撃ち込まれたあらゆるもの――弾丸、ミサイル、果ては核爆弾まで――が、くそったれの赤の中に入った途端に朽ちていったことくらいだ。
 それでも分かったことはあった。いきなり朽ちてしまうのではなく、朽ち始めてから朽ちきってしまうまでには時間があること。
 つまり、とにかく速いものをブチ込めばあのくそったれに届くかもしれないのだ。
 それが分かったのが核どころかあらゆるミサイルも撃ち尽くした後だったとしても、人類がついに掴んだ反撃の兆しだった。

 だからみんな銃を取った。もうミサイルや大砲を新しく作る余裕なんてなかったから、できる限り大きな銃を、一人じゃ持ち運べないくらいに大きな銃を。
 もちろんアタシも銃を取った。アタシの背丈よりも大きなヤツ。
 なんとかって言って火薬だけじゃなくてバッテリーも必要で、連射できないのが欠点だけどその分威力は申し分ない。ついでにバッテリーを外して発電機と直結できるようにしてもらった。取り回しを犠牲に威力アップだ。もちろん弾速も。
「観測おわり。ほら準備して」
「よし、やろう」
「うん」

「今日こそ、ね」

<つづく>


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