インタビュー

電話が入る。
太く低い声が聞こえる。
「今まで誰にも言わなかったが俺は31の時に取引をしたんだよ。得体の知れないなにかと取引をしたわけだ。おかげであるレベルまで物事を組み立てることができた。組み立てた対価として色々な物を手に入れた。」

僕はその取引について踏み込んで聞くことにした。

「大手町に将門の首塚っていう場所があるだろう。ある種の野心を持っている人間は皆あそこに行く。将門に祈るわけだ。俺はそんなもん信じていなかったし第一野心なんてものもなかった。当然そんなところには行かなかった。麻雀仲間が将門の首塚に行った話を聞いて馬鹿じゃねえのかって思ったんだよ。そのときは笑っておしまいだよ。」
電話の向こうで何か液体が注がれる音がする。
しばらくすると再び声が聞こえる。

「将門の首塚に行ったやつがそれから半年くらいして死んだんだよ。葬式にも行った。妙に肩が凝ったし頭が痛くなって家に帰ってその日はすぐ寝たわけだ。途中でションベンしたくなって起きたんだよ。そしたら廊下にいるんだよ。小さな黒い馬が。手のひらにのるくらいのやつが。」
「黒い馬は鳴くんだよ。でもなそれが馬の鳴き声じゃないんだよ。ヴヴヴヴヴヴヴヴっていう音がするんだよ。馬から。寝ぼけてるなって思ってすぐ布団戻って寝たよそれから。すると夢の中で黒い馬が俺の口の中に入ってくるんだよ。歯を根こそぎ喰われるんだよ。」
「朝起きて何かが大きく変わったのがわかるんだよ。自分が自分じゃないんだよ。ああおそらく俺はこれから何かを成すんだろうと。そしてその代わりのツケを誰かが払うことになるだろうってな」
「その日からあらゆる勘が働くようになったわけだよ。どういうわけか今日はここに行った方がいいと思う、そこには衆議院の〇〇がいる、俺はそいつから人を紹介される。紹介された百貨店の人間がどうしてか俺を気にいる。もらった仕事をこなす。また勘が働く。決まって黒い馬のヴヴヴヴヴヴヴヴという鳴き声が聞こえる。それはサインなんだよ。鳴き声が聴こえたら勝負をかけるときなんだよ。これは独立してやっていけると踏む。その通りに物事は進む。自社ビルを買わないかと持ちかけられる。嫌な予感がする。馬の鳴き声が聞こえないからやめる。翌年バブルが弾ける。買ってたら大変なことになってたわけだ。俺は馬の鳴き声に従ってれば良かったわけだ。あとはそのシステムに従っていればいいわけだ。物事が面白いほど上手く進む。でも考えるわけだ、この取引のツケは俺が払う訳ではなさそうだと。じゃあ誰が払うんだってな。」

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