渋谷TSUTAYA

2020年、20歳の時に東京に上京してきた。
大学進学という名目で、ずっと憧れだった東京に念願叶って移り住んだ。
移り住んだ家は、築年数は古く、木造のせいで隣のおじさんのいびきが聞こえたりするボロアパートだけど、私だけの空間ってだけで城のような感覚だった。
手からこぼれ落ちるほどたくさんの自由を手に入れた気がした。

ずっと映画が好きだった。
留学や勉強していた頃を除いて、高校生の頃から年間80本くらい映画を観ている。
でも、地元愛媛県で観れる映画というのは限られていて、東京のように名画座はなく、サブスクで取り扱ってないようなマニアックな作品はTSUTAYAでも入手できない。
TSUTAYAにはレンタル作品を取り寄せ出来るサービスもあるが、まず愛媛中のTSUTAYAにその作品がないのだ。
そんな中、Twitterのタイムラインをひらけば、名画座の公式アカウントが愛媛じゃ観ることのできない作品の上映情報をバンバン上げている。
映画を好きになればなるほど観られない作品が増えること、東京ではそれが叶うこと。
文化資本の違いを見せつけられ、田舎生活への不満を募らせていた。

そんな感情を抱え上京してきて、満を持して渋谷のTSUTAYAへ行った時の感動を忘れられない。
フランソワトリュフォーも、アッバスキアロスタミも、ルイスブニュエルも、アキカウリスマキも、ジャックドゥミもある。

ここが私の天国で、夢の国。私、ここに来るために上京してきたんだって本気で思った。


高校生の頃、『ギルバート・グレイプ』を観てレオナルドディカプリオに一目惚れをした。
(若かれし頃のジョニーデップとディカプリオが兄弟という設定で、ディカプリオが障害者役の少年を見事に演じきった、素晴らしい作品なのでみんなにも是非観てほしい。)
それからずっと観たかった作品『太陽と月に背いて』がVHSで置いてあった。
ああ、やっと『マイ・ルーム』あたり(映画『タイタニック 』より少し若い頃)のレオ様の主演作が拝める…と思い、満を持してメルカリでビデオデッキを購入した。
この映画を観るためにわざわざビデオデッキを買ったと言っても過言ではない。
だが、他にも渋谷TSUTAYAはVHSのラインナップも充実している。
何を借りたかはあまり覚えていないが、たしかトニーリチャードソン監督の『蜜の味』、統合失調症の男を描き、後を引くラストが癖になる『クリーン、シェーブン』なんかをビデオで借りた気がする。

高円寺の飲み屋で知り合った人から教えてもらったニッチな作品、好きな監督が有名になる前の初期作品、ティンダーで知り合った映画に詳しいけどクズなお兄さんが熱弁していた作品、とにかく観たいもの全てが揃っていた。

渋谷駅をハチ公前改札で降り、人混みを掻き分けながらスクランブル交差点を抜けた先のTSUTAYAは、いつもキラキラ光って見えた。
東京の一番好きな場所は、間違いなく渋谷のTSUTAYAだった。

そんな渋谷のランドマークであるTSUTAYAは、2023年10月17日にレンタルの取り扱いを終了する。
TSUTAYA公式の情報によれば、2024年春からオンラインでの注文・宅配によるレンタルサービス「TSUTAYA DISCAS」に切り替わるらしい。
遅い。
そしてVHSの取り扱いはなくなるらしい。
なんてことだ。
ビデオのラインナップの多さこそが魅力だったんじゃないのか、渋谷TSUTAYAよ。

世の中はいつも、取り残して、切り捨てていく。
取り残された文化は時代に淘汰されて、錆びてなくなっていく。

今後、私の愛した渋谷TSUTAYAではなくなってしまうかもしれない。
時代にあらがうことが正しい生き方じゃないのかもしれない。

スクランブル交差点を渡る足取りがつい速くなってしまうような期待と高揚は、もうなくなってしまう。

蛇口をひねれば自由が出てくる街、東京。

意外とその自由代は、高くつくのかもしれない。

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