さよならの向こう側で2
「セーブ・ザ・チルドレンの言う通りに従う様に、
日本の黄色い猿どもに命令しろ。
いいか?子供の尻は絶対に叩いては成らぬ。
子供の心に障害者差別の心を
育てねばならぬのだからな。
但し!セーブ・ザ・チルドレンが
ナチスの意思を継いでいる事は、
決して世間にバラすなよ?
これは我々白人にとって、最も重要な計画なのだからな!」
当代の国連事務総長の男は、
指示を言うだけ言うと通話を切った。
とてもハッピーだ。
誰かの人生を踏み躙って掴む幸せは、
とてもハッピーだ。
「私達は被害者なんです!」
尻を叩かれた事の無い女が叫ぶ。
「障害者の男のせいでッ!
フェミニストは皆酷い目に遭いました!」
尻を叩かれた事の無い女が叫ぶ。
「アスペはやはりッ!人間の出来損ないだった!
障害者はやはりッ!殺さなければ成らなかった!
アドルフ・ヒトラーはッ!本当に善人だった!
私達は今、正しい方向へ進もうとしていますッ!
それは、障害者という不審者を殺すという、
子供を守る為の、とてもとても大事な計画なのですッ!
日本人は、黄色い猿、ジャップと呼ばれたく無ければ、
素直に私達フェミニストの言う事に従いましょう!」
日本人の皆さん、あなた達は頭が悪い!
特に日本人の男は、とても頭が悪い!
そして、日本人の障害者の男は、
生きて居るだけで女性の心を傷付けています!
障害者はッ!人間のふりをした、悪魔サタンなのです!
絶対に障害者を皆殺しにしましょう!
障害者の男によるIV被害を何としても食い止めましょう!」
尻を叩かれた事の無い女が叫ぶ。
この時代、IV被害という造語が日本で生まれた。
障害者が「生きているだけで」、
女性にとっては「バイオレンス(暴力)」という言葉の、
頭文字を取ってIV被害と呼ばわっていた。
発達障害を「発達」と略す、
尻を叩かれていない小学生達の様な
とてつも無く頭の悪い略称であったが、
障害者を殺す事を心の底から渇望するフェミニスト達は、
その邪な・・・白人社会的には、とても清らかな欲望を叶える為、
「IV被害」と言う言葉を好んで使った。
空を。
ビルディング連なる空を。
一つ目の男達が交差する様に歩いて居る。
男は一対の翼を背中から生やしており、
それは水平に互い違いに動き、
まるで宙に映し出される
スクリーンセーバーの様であった。
「何処かの会社の宣伝なのかなあ・・・。」
「きっとアレよ!何かのアトラクションの
デモンストレーションなのよ。」
アスファルトの大地の上で、
人間達ははしゃいで居た。
一際高いビルに幾許かの者が腰掛けて居る。
真っ黒い出で立ちで真っ黒い馬に乗った男、
名はタナトスと言う。
「天におわせし神は、地球を包む洪水を二度と起こさない、
と誓った。しかし、人間を殺さぬと誓った事は一度も無い。」
赤と黒のツートンの衣装に身を包んだ、
11歳程度の容姿に見える少女、
名はフェッシー(fessée)と言う。
「その上で人間は契約を破った。
ならば許す必要とは何処にあろうか。」
「さあ人間達が待ち望んだ奇跡の始まりだ。
自分達が何故そこに生まれ、
何故生きて何をしなければ成らないのか。
それすらも理解出来無い獣は、
とても惨めで幸福だ。しかしそれも一過性に過ぎぬ。
現し世のゲヘナを愉しむが良い。
とても美しい夜に成るだろう。そして眠るが良い。」
吐かれた言葉は地を這いずりながら、
天を昇って海に伏した。
誰の耳にも届いて、誰の頭にも残らなかった。
それはヒトラーの前で抵抗する障害者の様なもので、
尻を叩かれていない人間達によって、
世の中は楽しく愉しく動いていたのである。
さあ、最期のアトラクションが始まりますよ―。