おそ松さん第二期23話感想

今回の話は最終回を目前にしてメタフィクショナル全開。全編楽屋裏話といった様相です。全体的に二期は一期に比べてメタをかなり前面に出した作風ですが今回はメタであることをもう隠すことすらしないスタッフによるぶっちゃけトークです。最終回に向けてそれがどうつながっていくのか意味深な回でした。

アバン:深夜の日松屋②

日松屋リターンズ! 前回とはまた違う日時の飲み会のようなので以前21話の感想(以下リンク参照)で考察したようにこの日松屋がなんでもない話CDに出てきたラーメン屋に当たるのかどうかは怪しくなってきましたが、日松屋での与太話がいわゆる楽屋裏トークであるのは強く強く感じます。

冒頭トド松の「いやもう帰ろ? 2時半回ったし帰りましょ!?」「いやもう帰ろうよ! あらかた話したでしょ!」「いやだからそのもう一盛り上がりが絶対に起きないんだってば!」という発言。最初は飲み屋あるあるとして聞いていましたがよく考えるとこれ二期松の現状なんですよね。最終回を間近にしてやるだけのことはやったしもうこれ以上盛り上げるとか無理で~す、っていう……。

「なんか新たな面白いことが起きないかな」「起きない! 起きません!!」というやり取りの切実さ。まあファンとしては六つ子がしりとりしたり山手線ゲームしてるの見るだけでも楽しいから延々やって欲しい気持ちもあるけどな。制作者側にもプライドというものがあるのでしょう。

くだらない話題を続ける兄たち五人を「いやいやいや帰ろうよ! まったり感に襲われた時はすぐ帰る! まったり即帰宅! 断言できるわ!」と一喝するトド松。これは凡庸なお話をつづけるくらいなら潔く二期で散れってことなのかな?

でも兄たちに「それならお前だけ帰れよ」って言われると帰れないトド松なんですよね。六つ子は一蓮托生。スタッフもアニメと一蓮托生。あと二話なので頑張って、という感じです。

Aパート:ダヨーンとダヨーン

哲学的すぎて難解。見れば見るほど分からない話です。そもそもこれもどこ次元の話なのか。通常六つ子軸ではない気がする。一種のパラレルワールド?

冒頭に出てきたダヨーンはおそらく我々が二期で見ているあのダヨーンではと思うのですが(親友がデカパンという発言から判断)、それも確証はないし。もしかすると以前「こぼれ話集2」にあったワイプ側の世界なのかも。二期ではいろんなところで『アニメには放送されていない部分がある』ということを強調している感じがします(ある意味日松屋もこれ)。

ごく普通のサラリーマンとして働くダヨーン。普段我々に見せているデカパン研究所での彼とはまた違う姿がそこにあります(いやそもそもあのダヨーンとこのダヨーンが同一という確証もないのですが……)。きれいな賃貸アパートに住む独身男性で、満員電車で通勤して、会社では仕事のできる有能な男。そんな描写が続くのです。

そんなダヨーンが突然であったのがもう一人のダヨーン。見た目は何から何までそっくりですが、妻と子どもがおり「木村」という苗字を持ち、語尾にだよーんをつけて話すこともなく、郊外に立派な家を建てている「ちゃんとした」男です。

「君が来ることは分かっていたよ」「私が生きているということは君もどこかで生きているという証拠だ」「もう察していると思うが私は君だ。そして君は私だ」

……「なるほど分からん」って感じの木村ダヨーンさんの発言。とりあえず木村さんはあくまでもう一人のダヨーンと同一のものであり元を同じくするもの。そこが木村さんにとって大事なポイントみたいです。それが証拠にダヨーンが「ドッペルゲンガーってやつかよん?」と木村に聞いた時には烈火のごとく怒られます。

これが本来同じ存在である二人を別人扱いしたから怒ったのか、あるいは本当にただの別物であるからこそ図星をつかれて怒ったのか……どちらと取るかで解釈は全く変わってきます。これはどちらとも取れると思う。といういうかここは我々がどう思うかっていう事なんだと感じますね。

色々と違う事はあれど同じ好物があったり感性が同じだったりお互いの共通性を確かめ合い意気投合するダヨーン二人。木村ダヨーンの家で家族ぐるみのお付き合いをしたり交流を深めるのですが数日後事態は急転します。

「ちゃんとしてる」と思われた木村ダヨーンが女子への猥褻行為で逮捕されてしまうのです。それに対して「分からないもんダヨーン……」とだけダヨーンは呟きあっさりと終るこの話どう解釈したらいいのやら。

思えば一期でもブラック工場で量産されていたり複製がいっぱいいることを示唆されていたダヨーン。そしてクローンのように同一の存在でありながらどこかしら個性があるダヨーンたちの姿、何となく六つ子に被るところがありますね。そして一期松、二期松、引いては過去の「くん」時代の松たちもいわばクローンダヨーンと比較される存在なのかも。

元を同じくしていても、可能性とともに運命は分岐し変わっていく。ちゃんとしているようでも内実は分からない。どちらか一方が消えたところで何事もなくもう一方は続いていく。それが何を暗喩しているかは視聴者の想像にお任せしますってところなのではないでしょうか。

Bパート:悩むイヤミさん

完全なるメタフィクショナル。今までの一期~二期松全部の中で最もメタ度の激しい回と言っても過言ではないでしょう。キャラクターたちがアニメ放送の裏側で自分たちのキャラクターを見つめ直すというぶっちゃけ回です。

真っ白い部屋に首吊りの縄という刺激的な絵から始まる今作。冒頭から終末感すごい。そして首をつろうとするイヤミを止めるために出てくるのがなんと『プロデューサー』なる人物。ここまで明確に制作者を意図する人物が出てくるなどかつてなかった。もはや暗喩ですらありません。

現代的にリメイクされた『おそ松さん』世界で昭和キャラの自分は浮いてしまっているのではないか? 人気がないのではないか? そんな赤裸々な悩みを打ち明けるイヤミ。というかこれはっきり言ってしまうとイヤミ役の声優さん(鈴村氏)がおそ松さんWEBラジオの「シェーWAVE」(http://osomatsusan.com/radio/)で時々漏らしてる愚痴そのままなんですよね。メタも極まれりです。イヤミの着ぐるみが千葉の倉庫にあるとかの件笑うしかない(笑)。

しかし視聴者としては「イヤミさんにいなくなられたらこの番組終わりですから。みんなそう思ってますって!」というプロデューサーの言葉には首をぶんぶん縦に振りますよ。イヤミがいてくれるからどんなに平成の世で好き勝手しても松は松でいられるってとこありますしね。

イヤミの自害を止める為よばれたのが、おそ松とチビ太。平成の「さん」代表のおそ松と昭和組代表のチビ太ですね。あの手この手でイヤミを引き留めようとするのですが暖簾に腕押し。何をどうしたってイヤミが時代遅れのキャラクターである事実はいかんともしがたいのです(その変わらなさが魅力なんですが)。フランスに憧れるキャラとかも確かに平成の世じゃできないネタですよねぇ(さすがに「さん」ではおフランス的なギャグはやってないし)。

なんとかイヤミのキャラをなじませようとおそ松とチビ太で案を出すのですが、そこで提案されたのが「共感」と「親近感」。ギャグ漫画におけるエリートクズであるイヤミに対し「地上に降りてこいよ~」と誘うのです。

しかしながら同時に「地上に降りてきたらそれはもうイヤミではない」「イヤミはイヤミのままいるべきだ」とも。試に特徴的な語尾をなくして見るとそれはもうイヤミではなくただの鈴村氏になってしまいます(鈴さんwwとかチビ太が話しかけてるのはアドリブなんでしょうか…気になります)。

八方ふさがりの中往年の名作ギャグ「シェー!」を越えるものを生み出せとせまるおそ松、チビ太。「大爆笑できるやつ!」「大流行するやつ!」と迫る二人にイヤミは縮こまるしかありません。

笑いや流行は狙って作れるものではない。これってまんま一期の『おそ松さん』に通じる話ですよね。そこに再び現れた件のプロデューサーは容赦なく現状に突っ込みを入れていきます。

「作り手が意図的に入れたテコ入れってなんかウザいんだよ」

「ヒットや人気はただの運だよ。勘違いしないで」

「あと今から変えた所で間に合わないから。あと放送2回しかないから。2回で最終回!」

……………スタッフの口からハッキリ言われた—!!!!!! どうしようもない!

「というわけでもういろいろ諦めよう。あと2回の放送頑張ろう。以上かいさーん!」

色々辛い。頑張れみんな。そんな気持ちになりました。あと二回だよ。ホント頑張れ。スタッフもキャラもお疲れ様です。何か最終回に向けてのヤケクソ宣言みたいでこっちも大困惑はなはだしいというか。来週どうなるんだろ……? って感じの話でした。

ところでね、この話で出てくるプロデューサーって実はひとつ前のダヨーンの話に出てくるダヨーンの会社の同僚なんですよね。つまりダヨーンの勤める会社はおそ松さんを作っている会社ということ。

つまりはダヨーンが「仕事ができる」という評価なのはプロデューサー的には「アニメのキャラとして卒なくやってる」ってことなのかな。でもそう考えると最後にダヨーンがプロデューサーさんたちに飲みに誘われた時行かなかったの納得。だって次元が違う人間ですもんね……。そりゃ行けねぇわな。

Cパート:深夜の日松屋③

ラストは日松屋三度。Bパートの話を受けた後だと「仕事どうすっかね~」「おれ達そろそろタイムリミットだからね」の会話が重い。

タイムリミットっていうのはメタ的な意味ではズバリ最終回でしょう。思えば一期最終回直前にも突然の就職を決めた六つ子たち。ここで仕事の話が出てくるのは必然です。

酔っぱらった六つ子たちは適当にお互いに向いている職業を言いあいます。

カラ松は「カリスマモデル」チョロ松は「内閣総理大臣」おそ松は「大企業の偉い社長」一松は「医者」トド松は「超金持ちのセレブ」十四松は「金メダリスト」とそれぞれがお互いに相手の望む職業を勧めほめたたえる描写が続きます。コイツはこう褒められたいのだなという理想にのっとったお勧めですね。

「とんでもない成功者の集まりだよ!もう勝ったも同然だ!ばんざーい!」と万歳三唱した後には一気に賢者モードがやってきます。後に残るはひたすら現実。そこにいるのは六人のニートたちだけです。

夢のような時間はもう終わり。Bパートで尺を無駄に使ったからもう来週は24話なんだ。現実を生きる時間が迫っています。何回も言うけどホント頑張ってと言うしかないラストです。

次回予告もなく静かにせまる次回の話。いよいよ最終回間近。シリアスの予感を感じつつ見守ろうと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?